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前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
8節目です。昨日は本業を終えて帰ってきたのがまさかの22時を回っていてすぐさまツイッターの方を立ち上げたのは内緒です。
完全に私事なのですが、今年に入って「よし、今年こそは他の作家様みたいにツイッターを頑張ろう」とか思っていたんですが、結局できていることはこれをアップすることくらいだけだったので、もうそろそろ抱負達成に向けて動こうと思います。思うだけにならないようにします(´・ω・`)
次回の更新は来週月曜日28日22時となっております。次回もご覧いただければ幸いです。
その言葉に似合わず、ペリドットの肉体は凄まじい変貌を遂げていた。
全身は半液体状のスポアともなにかの物体ともつかぬ不思議ななにかに覆われており、背部にかけては先程の統率役ともなる異形の怪物がペリドットを抱えるように有刺鉄線状の羽を広げて守っている。勿論背部の怪物には頭部がなく、先程とは異なり全身が鱗状なにかに覆われていてかなりの強度を持っているようだった。恐らく、ペリドットの体にはこれまでもあったような分身の能力を司り、背部の怪物で四方八方からの攻撃を守るのだろう。
攻守ともに隙きのない、というより付け入る隙間が一切なさそうな佇まいに、ビアーズはすぐさま手のひらを握りしめ、そこから生まれた無数の礫状のスポアを引っさげて、ペリドットに対して笑いかける。
「最終ラウンドだな」
「勿論だ。これが最後……、全員でかかってこい」
「言われるまでもなく、こっちは全員殺す気満々だ」
「精々……殺されないように頑張れよ」
ペリドットがそう言いながら睨みつけた瞬間、背部の有刺鉄線状のカーテンが凄まじい間接音を上げてなにかを絡め取る。それは、先程ビアーズが手のひらに握りしめていた礫状のスポアであり、幾つもの礫に反応したらしく一時的に背部の動きを封じることに成功する。
ただし、これは礫が有刺鉄線状のカーテンで形が残っている場合に限り、付着してから完全に破壊されるまでの時間はせいぜい数秒程度である。
勿論ビアーズは、即座に攻撃に移すのではなく、これを周知させることで連携を高めようとしただけである。おかげで、その場にいた全員が、背部の怪物を止める手段を理解するのと同時に、即座に背部からバートレットが怪物に攻撃を仕掛ける。
バートレットの攻撃は両腕のハンマーのように組んで大きく振り下ろすものだったが、攻撃が着弾した瞬間、襲撃が加わった箇所が急速に液状化し、1秒も待たずに液体は表側にあるような有刺鉄線状のスポアに変形する。
即座にこれを読み取ったバートレットは、自らの腕に纏わせたスポアを瞬時に液体に変形させ、すぐさま攻撃を回避してビアーズに話しかける。
「隊長、前を潰すのが得策でしょう」
「後ろは任せる。他の奴は気をつけて前からやる」
「もし後ろの怪物に想定外の行動があれば、対応を即時変えていきますね」
「お互いに行動はある程度合わせられるだろう。お一人を除いてな」
そう言いながらちらりとエンディースの方を一瞥しつつ、ビアーズはすぐに正面から攻撃を与えようと刀のように変形させたスポアを用いて斬りかかる。
すると、その攻撃は当然のようにペリドットの体を包む液体により阻まれ、ビアーズのスポアはまるで砂に攻撃したかのような動きをして半液体状の物質に沈んでいく。
その物質はペリドットすべてを包み込むかのような動きを行い、ペリドットのかすかな言葉を隠していく。
「倒せ倒せ、この怪物を……ね」
完全に体が覆われたペリドットに変わって、かすかに聞こえたことをビアーズが反芻する。
すると、その言葉に合わせるように今度はペリドット本体が全身を剣山のような針に覆われ、全身を攻撃範囲として素早い攻撃に出る。
完全にゼロ距離にあったビアーズはこの攻撃を避けることはできなかったが、素早く両腕から強度の高いスポアの防御壁を作り出し、剣山のような攻撃を受け流す方向で対処しようとする。
本来凄まじい強度を誇るはずのビアーズの防御壁だったが、ペリドットの剣山はなんとそれすらも貫きビアーズの皮膚に突き刺さる。流石に威力こそ軽減されたものの、それは皮膚を切り裂くには十分な威力があり、大量に喰らえば致命傷は確実である。
幸い、防御壁を貫くまでに時間がかかり、ビアーズは数本しか剣山の攻撃を受けなかったが、剣山は体内に戻ることもなく、代わりに鋼鉄のような質感を浮かべていた無数の針はぐにゃりと曲がり、今度は大量の蛇が何重にも連なったような奇怪な形態に変わる。
もはやペリドットの原型がないほどにまで変貌した怪物に、エンディースは叫ぶ。
「こんなのと戦うなんて正気か?」
「よくあることだ。流石にこれ相手に戦略なしで当たりに行くのは死を表すな」
ビアーズの言葉に、ジャーメインは冷静に相手を分析する。
「真正面はヤツの他の分身と同じで、半液体のあの物質を個体と液体を切り替えて攻守に使ってるみたいですね」
「それ以上に厄介なのはあの後ろのヤツだ。羽の部分に触れれば確実に腕を持っていかれるだろうし、こっちの攻撃に対して誘発する反撃まで持ってる。正面で柔軟に戦えることを前提にすれば、後ろのヤツの誘発攻撃が噛み合いすぎてる。今のところ、見事に付け入る隙きがないな」
「正面を落とすことを優先したほうがいいと思います。僕が後ろのヤツをできる限り止めますから、全員で正面を攻撃しましょ?」
横から割り込むように話に入ってきたバートレットに、ビアーズは「正面からくるぞ」と攻撃を警告する。
その警告に沿うように、軟化した無数の針は床を這うように勢いよく全員に向かって放たれる。それは床がめくり上がるような勢いであり、かなりの破壊力を備えたものである。
これに対して各々が別の行動に出る。
ビアーズとイルシュルはそれぞれ横転でこれを回避しつつ、反撃のタイミングを観察する。一方でバートレットとジャーメインはスポアを用いた跳躍で背部に周り、誘発的に動き始めた怪物と対峙する。
そして、エンディースも同様に跳躍して回避しつつ、同時にアーマーをまとった状態で攻撃を開始する。
一方、他全員の動きを読んでいたのか、ペリドットは上下前後すべてを攻撃出るように再度剣山のような攻撃ですべてを迎撃しようとする。
だが、この攻撃は発動せず、辛うじて形は剣山のそれまで変形したものの、半液体状のまま動きが止まってしまい、そのままエンディースの振り下ろしがモロに必中する。
流石にアーマー状態のエンディースの攻撃には大量の半液体状の物質を身に纏うペリドットにも攻撃が入り、かなりのダメージを負ったように動きが鈍重になる。
この現象は、半液体状のスポア、またはそれに類似する物質が形態を変える際、同一の形態のスポアが混在している場合に混乱を起こす、いわば混線状態が発生する。この性質を知っていたバートレットが、先の攻撃の際に自らの半液体状のスポアを纏わせていたことで、意図的に混線状態を引き起こしたのだ。
そして、畳み掛けるようにビアーズも幾つかの剣状のスポアを作り出してダメージを負っているであろうペリドットに追撃を行い、同様に他のメンバーも追撃を行う。
四方八方から攻撃を受け、ペリドットを纏う大量の液体から赤黒い体液が溶け出るように流れ、歪に笑うペリドットが顔を出す。
「なかなか……良い連携じゃないか」
「そいつはどーも、怪物に褒められるなんて嬉しいよ」
「だが、この程度では遠く及ばないのも事実だ。それも直に分かるだろう」
「……どういうことだ?」
ビアーズがペリドットの言葉に疑問符を浮かべた直後、扉を破るような勢いで片腕を失ったフラーゲルがかなり焦った調子で入ってくる。
その姿は、珍しくフラーゲルが本気の臨戦態勢に入っているようで、全身の肉体がスポアと同化しているように色が変色していた。
そして、フラーゲルは会議室の外を睨みつけながら、全員に警告するように叫ぶ。
「そいつはエノクδの本体なんかじゃない……そいつは本体の駒、そうなんでしょう?」
フラーゲルの言葉に、全員が神経質な表情で尋ねる。
「……フラーゲル、どういうことだ? 説明しろ」
「説明なら貴方たちが串刺しにしているその化け物に聞いてほしいところね。そうなんでしょう? 貴方はエノクδ本体の影武者として行動して、こっちの動きを本当の黒幕に情報として与えていた……そうでしょう?」
「さぁ、僕から答えることはなにもない」
「それなら、そこにいるもうひとりの怪物が教えてくれるでしょーね」
フラーゲルがそう口にした瞬間、扉から一つの人影が薄気味悪い笑い声を浮かべた人物がフラーゲルの片腕を放り込みながら会議室に入ってくる。




