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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十九章 不条理成る管理人
147/169

-5

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 第5節目です。この最終部分、多分一番長い場所になるのかなーって思っていたのですが、本当に一番長くなりそうでもうぜえぜえです。ここまで来ているので他のお話を書くことも忍びなく、本分以外のすべての時間をこれに注いでいるのですが全然終わってくれなくて悲しい(´・ω・`)


 次回の更新は今週金曜日18日22時となっております。次回もご覧いただければ幸いです。


「……こっちを見ても、答えは出てこないぞ」

「それなら、こちらもウロボロスの起動はない。目的を掲げるのであれば行動したほうがいい」

「僕らは既に行動している。選択をするのはそちらであるはずだ」

「こっちも選択している……“目的を聞いてから、ことをおっぱじめる”ってな」

「お話にならないな。ならばこっちも考えがある」


 ペリドットがそう啖呵を切った瞬間、壁伝いに歪な色彩を浮かべる液体が這いずり回り始める。

 それを見たエンディースは、小さく「これはこの前と同じか」と口走り、ペリドットが明らかな臨戦態勢であることを叫ぶ。


「出るぞ!」


 エンディースの叫び声と同時に、壁に這った液体の水面から何かが飛び出てくる。

 それは液体ではあるが、かろうじて人型を保っているペリドットの分身であり、両腕を鋭利な刃物で覆い今すぐにでも襲いかかってきそうな形相を完備していた。分身は二体存在し、左右それぞれペリドットの前に立っている。


「第二ラウンドか? 化物共……」

「あぁそうだ。お望みの実力行使さ」

 ペリドットがそう言った途端、二体の分身はすぐさま活動を始め、左側の分身はビアーズに、右側の分身はイルシュルにそれぞれ斬りかかる。

 その攻撃を予見していたビアーズはすぐさま背部から出現させたスポアでその攻撃を受け止める。一方でイルシュルは、かろうじてその攻撃を回避することに成功し、イルシュルが座っていた椅子が攻撃に耐えきれず湾曲している。

 そして、イルシュルは狭い部屋で器用に受け身を取りながら臨戦態勢になり、自らに攻撃を行った分身に対して変形させた右腕で刺突をお見舞いする。


 その攻撃とほぼ同時、ビアーズは「バカが」と叫びながら右手で尖形させたスポアを天井部の液体から出現しているもう一つの分身に攻撃を行う。

 すると、天井部にいた分身は攻撃動作中であったことからその攻撃を回避することができず、ビアーズの攻撃は見事に着弾する。だがその分身はビアーズの上部にも同様のものが存在し、ほぼ同じタイミングで攻撃を仕掛けようとしていた。流石のビアーズも、この攻撃まで回避する手段を持たず、先の戦いからの疲弊もあり死角となっていた自身の上からの攻撃に反応できなかった。

 けれどもこの攻撃はビアーズには届かないまま、エンディースのスポアにより遮られた。


「貴方でも攻撃をもらいそうになるなんてあるんですね」

「冗談抜かしてる暇あれば、あの化け物をぜひとも止めていただきたいところだなーテロリスト?」

「一応、助けたつもりなんですけどね!」

 エンディースはこの言葉を続けた後、すぐさま二人は分身たちに攻撃を加える。


 対して、その戦闘の様子を見ても微動だにしないペリドットとベヴァリッジは、睨むような表情で互いを据えた後、ベヴァリッジがゆっくりと語りだす。


「……ペリドットさん、貴方本当は我々を殺す気なんてありませんよね?」

「というと?」

「貴方は魔天コミュニティではとても手に負えない力を持っていたはず……貴方が本気になって我々を潰しにかかれば、私達はひとたまりもありません。それなのに、貴方はそれをしようとしていない……貴方がしようとしていることに対して、明らかにそれはおかしい。このことをどうやって説明するのです?」

「そんなことを話す義理はない」

「ほら、それが証拠でしょう。我々は今ウロボロス起動の最中にあります。それでも、貴方はそうしない。この状況で最も効率的なのは、貴方は……我々を本気で潰そうとしていない。どうしてですか?」

「…………どうしてだと思う?」


 すっかり自らの意図を読み取られてしまったペリドットは、苦しそうに笑いそう尋ねる。

 それに呼応するように、会議室の壁すべてを覆い尽くさんばかりに先程の液体が這いずり回り、異常な漣を浮かべながらケタケタと笑う。そして、壁を覆い尽くした液体から更に3体の分身が出現し、今度はベヴァリッジの喉元に鋭利に変形した腕を突きつける。

 そして、ペリドットは裂けるほどの笑みを浮かべながら続けた。


「ほら、その状態で答えてみろ。僕を捨てたベヴァリッジさん?」

「勿論です。我々の罪業は、どんなことを持っても贖うことができない」

「今更御託はいらない。僕がほしいのは、要求が通ること、それだけだ」

「……答える他、生き残る事はできないようですね」

「そうだ。そこの変態の弁を借りるなら、ただのゲーム、それだけさ」


 しっかりとお互いのことを見据えるペリドットとベヴァリッジに対して、流れ弾に当たったノアは呆れた面持ちで殺気を匂わせる2人の視線から逃れるように身を屈める。

 一方、2人が舌戦を繰り広げようとしている中、ペリドットが生み出した化け物はベヴァリッジに刃を突きつける一体以外、会議の中にいる人物に無差別に襲いかかる。


 それぞれの分身は今までのものと似ているが、どれも人型を留めた液状の物体であり、常に液体と固体を行き来しているような奇怪な存在だった。これまでの戦いでペリドットが出現させた分身は、固有の形状が存在したが、今出現しているものはすべて同一のものであり、どうやら行動や物理的外傷により形態を変えるらしい。

 その証拠に、先程エンディースとビアーズが分身を攻撃した際、攻撃が着弾した位置が異常な変形を遂げ、クレーターのように変形したと思えば、その部分を起点に無数の剣山のようになり、その剣山の針はぐにゃりと曲がっていき、分身の全身に纏わりついていき気味の悪い形相を浮かべている。

 2体の分身は、痙攣するような動きをしながらゆっくりとエンディースとビアーズに襲いかかる。


「こりゃ、藁人形だな」


 ビアーズの妙に的を射たメタファーを否定するように、繊維を無数に組んだような肉体が開いていくように、頭部が複数に裂け、飛び出した繊維が再び槍のように変形し、今度はそれを振り回すように動き始める。

 その気味の悪い分身を一蹴するように、ビアーズは背部から伸ばした触手状のスポアで頭部を狙って大きく薙ぎ払いを行う。


 すると、分身の頭部から伸びる無数の槍は、攻撃が着弾した瞬間急激に硬質化し、スポアで繋がっているビアーズの態勢すら崩すほどの力で引っ張られる。この凄まじい力に、ビアーズはすぐさま背部のスポアを切断して攻撃を回避する。一方の分身は、支えのなくしたスポアを思いっきり引っ張ったため、その勢いで床に倒れ込んでしまう。

 これにエンディースは、追い打ちをしようとスポアで覆った両腕を大きく振り下ろそうとする。しかし、これを制したのはビアーズだった。スポアにより半ば強制的に動きを止められたエンディースは語気を強めて怒鳴る。


「何をする!?」

「馬鹿かお前、一連の動きのどこを見てたんだよ。あのままお前が攻撃を当てれば、同じようにそれぞれの触手部分が硬質化する。恐らく、衝撃が加えられた部分が急激に硬質化してそのままこちらの動きを止めるカウンター型の怪物だ。正面から挑む相手じゃねーんだよ」

「クソ……早く言え!」

「その程度言わんでも気づけ雑魚」


 辛辣なビアーズの言葉に、エンディースは舌打ちしつつゆらゆらと蠢く分身から距離を取り、具体的な戦略を求める。

「なら、どう戦うんだ!?」

「落ち着け、そっちで遊んでる方も見てみろ」


 ビアーズがそう促すと、エンディースは半壊している会議室の奥で戦っているイルシュルの方に視線を向ける。

 すると、イルシュルはしっかりと分身の特徴を踏まえて攻防を行っているようだった。その証拠に、イルシュルは攻撃を直接分身へと行わず、壁や床、置かれていた椅子などを起用に活用して相手の攻撃を待ってから次の攻撃を行っている。


 それを見たエンディースは、即座に自分が対峙している分身を見直し、じわりじわりと寄ってくる分身を見据えて言う。


「そうか……衝撃を与えて硬質化させておけば攻撃が通りやすい」

「当たり前のことをそれっぽく言うな。それ以外にも、あの分身には幾つか特徴がある。恐らくは、たくさんの分身を一度に出現させているから、本体が操作しているわけじゃない。自走に近いんだろう」

 ビアーズの言葉に習うように、分身はわざわざ歩きづらい瓦礫の中をまっすぐにビアーズらに近づいてくる。

 ここまで見て、エンディースはビアーズの言う幾つかの特徴を理解する。


「こいつ、俺たちに向かって真っ直ぐ動くのか?」

「正確に言えば、自身の距離から直線距離で最も近い生命体に攻撃するように設定されている。おまけに、その最短になるルートを選ぶから、障害物とか一切気にしない。こっからは推測だが、軌道上に超えることができない壁がある場合はあの馬鹿力でぶっ壊すんだろう」

「それなら、そっちは大丈夫なのか?」


 今並べた性質を聞き、エンディースはベヴァリッジの方に視線を向けた後、そう尋ねる。

 無論、その性質に則るのならば、首元に刃物を突きつけられているベヴァリッジは相当危険な状況である。

 これは、エンディースが受けていた指示が「ペリドットを全力で殺すこと」であり、それとともに「ベヴァリッジへ危害が加わることを阻止する」というものもあり、やや矛盾した状態に陥っているからだった。

 しかし、それを織り込み済みと言わんばかりに、ビアーズは「あれは別物だ」とにやりと笑みを浮かべる。


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