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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十九章 不条理成る管理人
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 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 最終盤パート2です。区切りなく最後まで行こうか、途中で章そのものを変えようか悩んでいます……とりあえず、このまま行けるところまで先に進みます(´・ω・`)


 次回の更新は来週月曜日7日22時となっております。次回もご覧いただければ幸いです!


 そして、アイザックは緊張感を纏った声色で言う。


「……この場、とは?」

「状況は切迫しています。彼らはここまでに浪費した時間はかなりのディスアドバンテージと取っていい。もうそろそろ強硬手段に出てもおかしくない頃合いです」

「ディスアドバンテージと取る根拠はありますか?」

「簡単な話です。なぜ先程、これまで強行的な手段を取らなかった第三の組織が、わざわざ会議の最中に襲撃したのですか? これまで徹底的に隠密行動をしていた。そんな連中が急遽大胆に動き始めた。焦りか……、もう一つはこのような状況に陥れるための布石だったかのどちらかでしょう」


 この言葉を聞き、ビアーズはあまりにも鋭いベヴァリッジの発言に無意識ながら彼女を凝視してしまう。勿論、すぐにその仕草を表情筋の中に埋め込み、冷静さを繕うものの、数多の想定を常に行っているベヴァリッジに対し、これからの一挙手一投足の重要性を改めて理解する。


「それで、前者を取ったってことか?」

「いえ、後者の可能性も考慮しています。一連のことが、二家会議をもう一度開催させるというものも想定はしているのですが、どうにもその意図がわかりません。この場に集っている人たちは、前回と比べるとアイザックさんの有無ですし、そうであれば相手もここまでのことを想定していたことになる。そうなれば話は大分変わってきますしね」

「……なるほどな。この場で全員でそれを共有し、直近でトラブルが合っても対応しろ、っていう話か?」

「流石ビアーズ様、私の性格をよく分かっていらっしゃる……左様でございます」


 相変わらず上品そうな仕草で笑うベヴァリッジに、ビアーズは楽しそうに笑い返して今度はイルシュルに辛い口調で尋ねる。


「それで? 先見性の高い意見が一つ出たが、そちら側の対抗策は?」

 ビアーズの全く笑っていない笑顔に対して、イルシュルは青い顔をしつつ、ベヴァリッジとは対照的なスッカスカのプランを提案する。


「……随時、コミュニティ内の軍事を用いた撃滅を図ります」

「ほぉ~、撃滅? 今すぐ、国家のおよそ4倍に匹敵する軍勢を撃滅していただきたいのだが? 迅速に」

「その点につきましては……」

「お話にならないな。アイザック氏、プランはベヴァリッジのもののみで進行させてもらう。こちらを主として、貴殿のアドバイスを付随させてほしい」

「わかりました。手短に説明させてください。私の考える第三の組織の目的は……」


 アイザックがそう口走ったときだった。

 前回と同様、凄まじい爆音とともに壁が吹き飛び、直方体で構成された会議室の面の8割を吹き飛ばした。

 しかし、吹き飛んだ壁の破片は歪な液体状の何かに覆われ室内に飛び散ることはなく、黒鉛のような粉塵の中から現れたペリドットの手のひらに収束していた。


 ペリドットは、吹き飛ばした壁の破片を液胞で包み込み、それを手のひらに浮かべながら遊んでいるようだった。

「目的は……何かな? アイザックさん」


 途端に目的の制止に乗り出したペリドットに対して、呆れたようにビアーズが衣服に付着した粉塵を手のひらで払い、苛立ったように声を上げる。


「おいおいおい~、誰だこの会議室の壁は頑丈だとか宣ったバカは~? 吹き飛んでじゃねーか」

「それは失礼したね」

「それにな、会議の出席なら扉から入れ。わざわざ壁をぶち破るな、修理費請求するからな」

「おやおや、僕も会議に参加してもいいのかな?」

「今度はしっかりと話し合いの席についてもらうぞ。殴り合いも何もなしだ。いいか?」

「その辺りは確約できないね。こちらの目的に沿って行動していくるなら、こっちはちゃんとお話を聞くしね」


 ペリドットはそう言いながら席につくと、早速ビアーズが改めて指揮を取り始める。


「さて、これで役者は揃ったと判断していいな?」

「こっちは目的が通ればそれでいい。さっさと始めさせてほしい、そっちもできる限り早期の解決を望んでいるんだろう?」

「そりゃそうだ。早速交渉に移ろう」

 ビアーズが手をたたきながらそう言うと、ベヴァリッジが静かに挙手を行い、すぐさま話し出す。



「交渉は私が行います。貴方のことは、なんと呼べば宜しいでしょうか?」

「エノクδとお呼びください。信じるも信じないも、貴方の自由ですがね」

「いえ、既に解析の結果、“我々は”エノクδであると判明しています。それを踏まえて、改めて我々は貴方に謝罪しなければなりません」


 ベヴァリッジはそう言い終えると深々と頭を下げる。

 しかし、その行動に対してペリドットは大きく突っぱねる。


「そんなことはどうでもいい。こちら側の要求は唯一つ、周縁DADエリア……通称ウロボロスの起動だ。それ以外のことは不必要だ」

「私共も、貴方の要求を受け入れるように尽力させてほしい。けれど、ウロボロスの起動はこちらにとって相当のリスクを伴うことにもなります。最良の着地点に落とし込むためにも、その目的についてお話しください」


 ベヴァリッジのスタンスは、あくまでも「第三の組織の目的把握」である。しかも常に反撃に徹することのできるように断定することなく、しっかりとした目的の把握を常に行っているようだった。

 対してペリドットは、態とらしく怒りを顕にして叫びだす。


「勘違いしないでほしいね……。忘れていないだろう? 僕を破棄した理由をね。僕にとってこの力は忌むべきものだった。だが、これがあるからこそ、僕は君たちに復讐する事ができる……」

 かなり強い言葉遣いでベヴァリッジを責め立てたペリドットは、更に表情を強張らせながら続けた。

「言わせてもらおう。僕はお願いも、交渉をしているつもりもない。僕がしているのはね、命令だよ。御託は構わない。すぐにウロボロスを起動してもらう。できなければ、この場にいる全員をぶっ殺して起動させるまでだ」


 このセリフに、ビアーズは早速行動に出る。


「過激な発言の最中悪いが、もし仮に、君がウロボロスの起動を主訴として行動しているのならば、やはり君がしているのは交渉のはずだ。そこまで予習復習をしているのならわかるはずだ。ウロボロスはその性質ゆえ、起動は多くの人物の承認が必要となる。この場にいる全員を皆殺しにしてしまえば、それこそ目的から大きく乖離する」

「……えぇ、勿論です。これはあくまでも軽い冗談だ。だが、次の要求は単なる雑談では終わらない。もう一度言わせてもらう。ウロボロスを起動しろ」


 ペリドットは鬼気迫る様子でそう口走る。

 これにビアーズは、心の中で強くガッツポーズをする。精神的に不安定に見せるペリドットの演技はとてもクオリティが高いものだった。あえて言葉遣いを急激に変化させる口調は余裕の無さをアピールしやすい。

 そして、ビアーズの期待に答えるようにペリドットは次の脅迫を開始する。


「ウロボロスの起動がされない場合、シェルターの中で保護されている魔天を無差別に殺す。今すぐにね」

 この衝撃的な言葉は、流石のベヴァリッジも表情を曇らせる。


「……それは、この場で貴方がリアルタイムで交渉をしながら、ということですか?」

「勿論だ。今度は冗談でも何でもない。こちらの要求が通らない限り、無差別に殺し続ける。そうはしたくないだろう?」

「勿論です。こちらとしては人命を優先して考えています」

「殊勝なことだね。それでは、今すぐウロボロスの起動を要求させてもらおうか」


 つらつらとそう続けるペリドットに、ベヴァリッジはあくまでも冷静である。状況的にかなり切迫しているはずなのだが、いつもと遜色ない表情に、その場にいた全員が戦々恐々だった。

 一方、全員が警戒心を強める中、特段悩むことなく直ぐに首を縦に振る。


「それでは早速、ウロボロスの起動をさせていただきます。ただし、それにはこの場にいる全員が同意しなければなりません。エノクδ様、いえ、ペリドットさん、私個人の手によって不正が生まれることは貴方にとって好ましくないでしょう。この場で、これからウロボロスが起動されるまでの顛末を、ぜひ貴方自身の目で監視していただけないでしょうか?」


 ベヴァリッジの行動は、イレースを筆頭に想定していた「最悪の展開」である。これはベヴァリッジ自身が、この先自分にとって有益な方向に動かす手段を持っていると推測され、あまり良くない空気感である。

 このまま進めば、確実にベヴァリッジの都合のいい方向に話が進んでしまう。加えてそれは、「全員同意の方策」であることになるため、下手な芝居を打つことも逆効果に終わってしまう厄介な状態に追い込まれたのだ。更にペリドットは、これに対して反対することは論理的に考えてありえない。ここから状況を巻き返すには、ペリドット以外の人材の行動にかかっていることになる。


 それを悟ったビアーズは早速行動に出る。


「待て、本当にヤツの要求を飲む気か? ウロボロスの起動はいわば最終手段だ。もう少し交渉を引き伸ばしたほうがいい」

「が、しかし……彼は本気ですよ。これで私の考えがすべて伝わるとは思っていませんが、これ以上の言葉をここで語らせるのはナンセンスだと思いませんか?」


 ビアーズが惑わせるような言葉をかけるが、それでもベヴァリッジが冷静なことには何ら変わりなかった。

 「彼は本気である」、その言葉の裏側には、「殺戮に一切の躊躇いがなく、かつこれ以上の先延ばしは危険である」というニュアンスが込められており、眼の前で対象が監視している状態での議論は不可解であり、無意味であると助言しているのだ。ビアーズには第三の組織としてのプランがあるが、既に不可解な言動が入っている以上、さらなる深追いは危険になる。

 これを察したベリアルはすぐさま挙手をする。


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