選ばれた分岐
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
この物語、全体的に推理パートはややご都合主義的な動きをすることが多いのですが、特にこのパートの2人が出てくると話が異常に迷子になる傾向にあります。そういうこの子達が好きです(突然の擁護)
次回の更新は今週金曜日27日22時となっております。次回もご覧いただければ幸いです。
「ゆっくり話しましょう。プランBとして、第三の組織は徹底してコミュニティを叩くことにしたんです。いわば、今までは交渉によりウロボロスを起動させようとしていたが、それとは対照的に、武力で脅しをかける方法に出た。いわば、元のプランよりも相手を手詰まりに近い状態にしてウロボロスの起動へと導く手段に出たんです」
「あんまりしっくり来ていないけど、具体的にどういうこと?」
「えぇ。僕がそうだと思った原因は、ノアが臨床実験を行うための重要な要素であるレオンの力を拘束する選択をしていることからです。これは、当初のプランとは矛盾する行動です。このことから、プランBは“手詰まり状態にしてより誘導する”という形をとっているはずです。ただし、これはベヴァリッジによって容易く覆されてしまう危険性を孕んでいます。相手は第三の組織の行動から、十中八九方舟のことを知っているはずです。適当な言い訳を用意するのは簡単でしょう。そのため、第三の組織は“ベヴァリッジが方舟の起動する”という判断を下さないように、少しずつ圧力をかけていってここまで話を持っていった……今の所、テンペストの影響により方舟が起動しておらず、そしてこの状況にできているのは完璧と言っても過言ではないはずです」
かなり遠巻きな言い方をしているアイザックに、キャノンは首を傾げながら話を促す。
「さて、既に頭が混乱して大渋滞だけど、最後まで聞いて質疑応答させてもらうよ」
「そうしましょう。僕も正直、若干混乱しているというか、煮えきっていないところがあるのは事実なので」
「ここまでややこしい話を分析して、筋道立てて話しているだけでもヤバいと思うんだけど」
「こういう仕事だったので」
アイザックが楽しそうにそう笑うと、キャノンは「僕には理解できない世界だね」と微笑む。
それを確認したアイザックは、「僕も戦いについては同意見ですよ」と返して早速、第三の組織がこれから先行おうとしていることを推測する。
「第三の組織は、あれほどまでに隠密行動をしていながら、さっきの会議で襲撃をしました。ここが明らかな方向の転換であり、一気に畳み掛けに入っている事がわかります。ただし、そこであえて、一旦逃して、体制を立て直してから交渉に臨んでいるのは何かしら意味のある行動でしょう」
「それはビアーズも同じことを考えていた。どういうことかな?」
「これについては、僕の勘の側面が強いのですが、恐らく彼らの目的につながるものだと思います」
「具体的な目的って言うことだよね? 彼らはどういう状況を目指しているの?」
「その具体的な目的を導き出すためにも、僕の息子であるカーティスが関わってきます」
ここで出てきたまさかの要素に、キャノンは狼狽するようにカーティスの名前を反復する。
「カーティス? どうしてそこでつながるの?」
「考えても見てください。彼らはどうして、魔天コミュニティ外部の者であるカーティスを利用したのか。それについては、カーティスの出自がベヴァリッジの復讐を決意させたグルベルトに由来していることが原意であることと、もう一つの意味があると思います」
「意味?」
「えぇ。第三の組織……というよりイレースは、カーティスの意識をトランスニューロンという施術により意識化に取り込んでいると想定されます。これはあくまでも仮説ですが、①魔天エネルギーは膨大であれば精神運動に何かしら影響を与えること、②トランスニューロンによって人格を埋め込んだ場合、管轄する魔天エネルギーはその人格に対して等量で分割される、という2つの性質があります」
「あ……はい」
アイザックの難しい内容に、キャノンは苦しそうな声を上げつつそう言うと、アイザックは笑いながら大きく首を振る。
「少し難しいかもしれませんが、イレースがメルディスとトゥールの融合体であることから、エネルギーによる精神運動遅滞があること、そしてそれにより力のコントロールが効かないことを、さっき言った理論により塗り替えられるのでは? と考えていました。そして恐らく、それは僕らの仮設通り、エネルギーコントロールがより円滑になり、本来の潜在能力が活かせていると思われます」
「……そうか、今の今までカーティスは発見されていないことと、2ヶ月もカーティスが行方不明になっていたことが根拠だね? 今までよくわからなかった空白の期間は、その調整期間と考えれば十分に辻褄があう」
「そうです。そして未だカーティスの所在が一切確認できないことを見れば、第三の組織にとっても、そして首謀者であるイレースにとっても益のあることなのでしょう。そこから、さっきの目的に繋がります」
話が一周してもとに戻ると、キャノンは再び疑問符を浮かべる。
「ここで目的に繋がる……?」
「えぇ。どうしてイレースは、グルベルトの潜在意識を受け継いでいるとはいえ、事実上一般人であるカーティスを利用したのか。自らの潜在能力を最大に活かすためと取るのがお利口でしょうが、それにしては随分と危ない橋を渡りすぎていると思います。なぜなら、カーティスの行方がわからなくなれば、確実に僕らも動きますし、下手をすればルイーザ側の警察などにも目をつけられて大パニックを起こす可能性もあります。それが原因で、コミュニティ側に動向が伝わればすべてポシャることにもなる。それほどのリスクを冒してこの方法をとったのは、これが本筋にもプランBにもつながることだったからです」
「つまり、カーティスがすべてのプランのキーだった、っていうことだよね? でもそれって、どんな事があるの?」
「恐らく……イレースとグルベルトの意識を持ったカーティスによるベヴァリッジさんへの説得でしょう」
これを聞きキャノンは驚愕する。
今まで順当な方法で、かつ合理的に行動していた第三の組織が、最後の最後で「説得」という原始的な行動に出たことに驚いたのだ。
それについて、しっかりと察していたアイザックは、大きく首を縦に振りながら続ける。
「キャノンさんの反応な尤もでしょう。正直、僕も他に方法を探したのですが、どうにもしっくり来るものがありませんでした。正確に言うのなら、“どんな手段を使っても、完璧にベヴァリッジを封殺することはできない”と思ったんです。相手はこのコミュニティ全体に加えて、ルイーザ自体の情報も熟知しており、かつここまで厄介な状況を作り上げた黒幕の一人であることを考えれば、説得というベヴァリッジの意思そのものを変容させる方法をとってもおかしくはない。ベヴァリッジを常に傍から見ていたイレースなら、僕と同じ結論に至ってもおかしくはない。相手が化け物なんだから、この状況を打開してもあまり意味がない。ベヴァリッジの完封が、第三の組織にはノルマだったんです」
「だからこそ、イレースはベヴァリッジそのものを無力化させるために説得という選択肢を取ろうとした。だが、自分ひとりだけの説得では心もとないと判断したのか、ベヴァリッジに復讐を決意させたグルベルトの意識を継いだカーティスとともに自らを作戦に組み込んだ。そういうことだよね?」
「心もとない、というよりは説得を確実なものにしたといったほうがいい。どっちにしても、ベヴァリッジの意思そのものを変容させるための行動を主に動いていたからこそ、この不自然な動きになった、そう僕は考えています」
「なるほどね……確かに、目的自体がやや抽象的なものだったから、ここまで回りくどく、かつ慎重に行動せざるを得なかった、そういうこと?」
「えぇ、これが第三の組織の主訴です。そこで、話は第三の組織がこれからの行動を説明します。ただし、ここからが少し複雑です」
「待って今までも複雑だったから!」
キャノンのご尤もなセリフに対して、アイザックは笑いながら更に言及した。
「それはそうですね。話を進めます。此処から先、彼らが取る選択は唯一つ、“ベヴァリッジの説得のため、あくまでもベヴァリッジ個人の意志で、トゥール側にさとられずに方舟の起動を行うように仕向ける”、ということです」
「いきなり随分と難しいんだけど……要するに、ベヴァリッジ単独で方舟を起動させるようにこっちが動くってことだよね?」
「回りくどい言い方をしてしまいごめんなさい。そういうことです。それをするためには、第三の組織だけでなく、二家や宴、そしてその他二家会議参加者の協力が必要不可欠になります。恐らく、第三の組織は二家会議再開前にこれらの手を打ち、何らかの方法で上手く丸め込んでいると思います。そして、ここに来て魔天コミュニティ側が感知していないもう一つの人物が動くはずです」
「もうひとりの人物?」
「えぇ、このトラブルに参戦していない、本物のエノクδです」
「え!?」
ここで出てきたもう一つの要素に、キャノンは驚愕の声を上げながらアイザックに問いただす。
「どういうこと!?」
「言葉通りですよ。エノクδの本体とそのオプションは、ストラスが立ち上げた便利屋に所属するメンバーです。実は、この厄介事にはストラスとともにエノクδの本体が密接に関わっています。勿論、被害者としてですがね」
「なるほど、だから、アイザックさんがその結論に至る何かがあったんだね?」
「えぇ。多分ですが、彼らは魔天コミュニティが不当に行っていたトゥール側の取引相手、アルベルト・ミラーを問いただしている頃だと思います。そして、その後は確実に魔天コミュニティに殴り込みに行くでしょう。僕は、トゥールがアルベルトが行った取引をよく知らないけど、多分そんなに良いことをしていることはないでしょう。そこで、魔天コミュニティに乗り込んでくると思います」
「どうしてそうなるのかなー」
「そういう人なんですよ。どっちかって言うと、エノクδ本体じゃなくて、そのオプションがですがね」
「厄介極まりないオプションじゃないですか」
「その危険なオプションの行動を読んで、第三の組織はプランを組んでいる。それを今から説明します」
さっぱり話が見えないキャノンは、苦しそうな声を上げながら傾聴する。
「……とりあえず、話を全部聞くまで黙ります」
「わかりました。第三の組織は、従来までのプランは第三の組織に重犯罪者であるノアをメインに動いていると錯覚させて行動することだった。だが、そこから一気に話を変えてくるはずです。正確に言えば、エノクδ本体を実際に投入するはずです。そうなれば、相手は明確に危機を認知する……つまり、冷静な判断を下せない状態に陥るはずです。特に、トゥール側はね」
「トゥール側が正常な判断を下せない状態になれば、二家として合理的な判断に出れば確実に、その判断はメルディス側に委ねられることになる。そしたら、最高権力者として、ベヴァリッジは、“最も合理的に”動く……まさか……」
「そうです。此処から先は、今までこの事件に関わった組織全員が、一丸となって芝居をしなければ騙し切ることはできない。かといって、ここでベヴァリッジが我々の意図を見抜けば、ウロボロスの起動もせず、ただ無意味に時間を遅延させることを選ぶでしょう。最良は、テンペスト影響下で方舟が吹き飛ぶことでしょうからね」
「でも、それは僕らだけじゃない、すべての人物が同じ目的に向かって進まなければ簡単にポシャるんだよ?」
「えぇ、正直かなり非現実的な案ではあると思います。だけど、だからこそ二家やコクヨウまで丸め込む方向にシフトしたんでしょう。そして、もう一つ、保険がある」
その言葉にキャノンは敏感に反応する。




