父ふたり
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
今回のサブタイトル、実はとあるドラマの最終回のものを引用しています。こういう父親が息子のために頑張るみたいな話が大好きなので、このサブタイトルをつけています。いいお父さんが大好き(*´∀`)
次回の更新は今週金曜日20日22時となっております。次回もご覧いただければ幸いです!
・管理塔-M 応接間
管理塔-Mは軍事に関する統括施設であるが、その管轄は基本的に二家のアーネストが担っている。そのため、管理塔-Mには二家専用の設備が幾つか用意されており、トゥール派でもアクセス権限のない情報も閲覧可能である。
そのため、キャノンがアイザックを通した応接室も、その存在自体トゥール派の知らない隠し部屋である。ここはいわば合流地点であり、キャノンはビアーズと合流するためにアイザックとこの隠し部屋にはいったのだ。
隠し部屋に着くなり、キャノンは一般人のようなことを口にする。
「しかし……変な事件に巻き込まれたものだよ。僕としては、今回の事件のことをあんまり理解できていないから、ぜひとも君から事の顛末を聞きたいね。どうせ? ビアーズが来るまで待つのも暇だからさ」
「この期に及んで随分なことを仰っしゃりますね~。ですが、貴方がこの事件にどの程度絡んでいるのか僕もわかっていない。ぜひとも、心変わりした理由も添えて教えてほしい」
「どうやら君も本気モードっていうところだね」
「勿論、貴方との雑談はとても楽しかった。ですが、貴方がここに僕のことを通した時点でね……」
アイザックは隠し部屋になっている応接室を見て、キャノンがこれから「本気のトラブルシューティング」を行おうとしていることを理解したのだ。
これまでキャノンは、他の二家が隠そうとしていた事実を隠す方向に徹していたのに対して、アイザックに事の顛末を尋ねることからもその意志が反映されている。
すると、アイザックの思考の意図に気がついたキャノンは、すぐに首を縦に振りながら続ける。
「当然さ。さっき話してて、思ったんだ……僕と貴方はすごい似てるってね」
「どういうところ、ですか?」
「子どものためなら何でもするところとかね? 僕も、自分の子どもたちが危険なら、絶対に事件を収束させる。必ずね」
「同じです。僕も必ず、このふざけた事件を終わらせて、カーティスと帰ります」
「そうなれば、とっとと仕事を始めよう」
キャノンはそれを皮切りに、自らが知っている事の顛末を話し出す。
「実際問題、僕は今回の事件についてあんまり関与がない。それこそ、事件が起きた最初の二家会議に参加していたくらいで、他の部分は全くもってわからない。アイザック君、分かる範囲で構わない、完全に、1から説明してくれ」
キャノンがあえて「完全に」と言葉を切ったのは、この複雑かつ多彩な状況を一本の線で結んでくれというストレートな言葉のニュアンスだった。
この事件には複数の視点と人格の解釈により、異常なほど複雑化した。これらのことから、キャノンは「アイザックの視点から」事件の顛末を語ることを望んだのだ。
そしてアイザックもそれについては理解していたらしく、自分が導き出した答えを時系列で話し始める。
「えぇ。少し長くなりますが、完全に1から話させてもらいます。その前に、幾つか確認しておきたい事があるんです」
「はい?」
「この国家の内情……、いえ、その総統である現メルディスことベヴァリッジのことについて、幾つか教えてほしい。誕生から、これまでどのような人生を歩んできたのか、そこに何かしらの陰りがなかったかを。できるだけ細かく」
「ベヴァリッジのことを? またどうして?」
「僕の想定では、この事件の根源は、ベヴァリッジさんだと思っています。ただし、それを判断する上で、彼女の人格、人生を知っておく必要があるんです」
「はぁ……それなら、できるだけ細かく……」
事態の読み取れないキャノンだったが、とりあえずアイザックに言われた通り話し始める。
「元々ベヴァリッジは、親のわからない孤児だった。当時はコミュニティが国家として誕生する前で、孤児に対しての対応は体系化されていなくて、発見した人が引き取る形が多かった。そして、ベヴァリッジはコミュニティの創始者であるメルディスたちに引き取られた。2人には子どももいなかったから、ベヴァリッジのことをとても可愛がっていた。同時に、高い知能と洞察力に気がついていたみたいで、教育にも力を注いでいた。だから、メルディスらが亡くなった時はかなり精神的に不安定になっていた」
「もし、その時に復讐心が芽生えてしまったとか、考えられます?」
アイザックがそう尋ねると、キャノンはすぐさまこれを否定した。
「それは絶対にないと思う。悲しんではいたけど、死ぬ間際メルディスからなにか聞いたみたいで、むしろメルディスが目指した国家形成と安息を目指したいって言って、今みたいな国家体制にまで持っていったのはベヴァリッジなんだから。エノクについても、彼らの人道的で安全な処置を講じようとしたんだから」
「なるほど……噂通りの聖人だったんですね」
ベヴァリッジの評判通りの人格を知ったアイザックは、首を傾げながら「やっぱり間違っているのかな~」とゴニョゴニョ独り言をつぶやいている。
それを察したキャノンは、なにか思いついたように「復讐」という言葉に引っかかりを感じたのか、納得しながら話し始める。
「あぁ、そういえばね、25年位前だったかな……基本的にベヴァリッジって温厚なんだけど、そのベヴァリッジがかなり精神的に切迫していたときがあって、それ以降少し感じが違うっていうか、ちょっと、トゥール側に対しての辺りが露骨に酷くなったような気がする」
「トゥールたちに?」
「うん……なんだろうね。その時から、過激な作戦に対してもゴーサインを出すことが増えた気がする。かなり主観的な意見で悪いんだけど」
「……いや、これは十分な根拠になりうる……と思います」
「どういうこと?」
情報の少ないキャノンは、アイザックがどのような構図を想像しているのかわからなかった。
一方、全ての真相にたどり着いたような感覚に襲われたアイザックは、一つ一つ順を追って説明を始める。
「この事件の一番の発端は、ベヴァリッジさんの復讐である、僕はそう思っています。勿論、その原因は“25年前に宴が引き起こしたザイフシェフト事件”が原因であると考えます」
「ザイフシェフト事件……まさか、グルベルトのこと……?」
「であると、思います。そして、ベヴァリッジが考えた復讐の対象は、あの事件を引き起こす実質的な原因であるトゥール派全域と、それを隠蔽することを選択したザイフシェフト、現在のルイーザであると想像できます」
「……なんとなく言いたいことはわかった。だけど、ベヴァリッジがそれを行うほど怒りを感じていたと導き出した根拠はどこにあるの? 君のことだから、ちゃんとした理由があるんだろう?」
キャノンの尤もな言葉に、アイザックは首を縦に振りながら続ける。
「勿論です。最も強い根拠として、魔天コミュニティで起きた第三の組織の行動はすべて、ベヴァリッジの協力がなければ起こり得ないことなんです」
「……はい?」
「いいですか? 第三の組織は、多くの団体にスパイをコミュニティ内に入れて、情報収集を行いつつウロボロスの起動を目指していた。恐らく、第三の組織が取ろうとしていた行動はこうです。まず、幾つかの機関にスパイを入れ、さっき言ったように情報を収集しつつ、同時にそのどれかがで意図的にコミュニティを追い込む行動をして、同時にウロボロスを起動させると判断させるように仕向けること……、例えば、本来エノクにDADは効きませんが、“DADが効果的なフリをする”みたいな風に演技をするとかですかね」
「なるほどね? それであれば、コミュニティ側は唯一の対抗策として、ウロボロスの起動をする可能性が高い。少なくとも、撃滅を標榜するトゥールはそれを部分的にでも行おうとするし、メルディスとしては臨床実験の上でこれを実行しようとするはず……」
そこから先の言葉は、アイザックが掻っ攫うように口添えをする。
「そう……、だからこそ第三の組織は魔天コミュニティでも権威ある学者であるアーロン・ベックを引き入れ、あえてレオンを緩い拘束を行うように誘導した。ただし、途中ノアが出張ってきたところで、第三の組織のプランに狂いが出ていたんだと思います。そしてその狂いは、“首謀者のアクシデント”だったんだと思います」
「首謀者? 第三の組織のって言うこと?」
「えぇ。言っていましたよね? 2ヶ月前、カーティスがいなくなったのと時期が符合し、かつ首謀者として整合する人物が魔天コミュニティに」
「……まさか、イレースが?」
キャノンが知っているのは、「イレースが2ヶ月間お暇を頂いていた」くらいであるが、そもそもキャノンはイレースの養父であり、彼自身の人格も相応に理解している。基本的には素直で真っ直ぐな人格であるイレースが何も伝えずに、ここまで空白の時間を作るのは不自然であると感じていた。
その状況に一本の線を通す答えが、「イレース自身が第三の組織の首謀者である」という筋書きだった。