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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十八章 前哨戦の逡巡
136/169

湾曲する陰り

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 本日より第18章、物語収束手前の部分になります。この章は全体的に進展が少なく、かつ短いのですがキャラクターの掘り下げ的にはいちばん大事な部分だったりします。

 物語が佳境に入るのと同時に、ストックも少なくなっているので結構不安です。ココ最近はまた忙しいので、特に不安(´・ω・`)


 次回の更新は来週月曜日9日22時となっております。次回もご覧いただければ幸いです!



・魔天コミュニティ アーネスト邸宅



 廻に飛ばされたミラとイレースが乱暴に放りだされたのはストラスらと同様、アーネスト邸宅である。

 ミラは一瞬、そこがどこかわからなかったが、事前にストラスとアイザックが魔天コミュニティに入っているところを考えれば、すぐにその場所がストラスの自宅であることを察し、すぐにしなければならないことに取り掛かる。


「とりあえず、ストラスと合流する。安牌に保険をかけるくらいで丁度いいしな」

「それはわかるけど、ここはどこ?」

「大方ストラスの実家さ。とりあえず見つからないように合流できるのがノルマ、話が通じそうな奴がいれば及第点っていうところだろう」

「思いっきり住居不法侵入中でどうやって達成するのかがネックだね」


 ルネが苦い顔でそう言ったときだった。同時にミラが人差し指を口元に置き、同じように余った左腕でルネの口をふさぐ。

 そして、動作音すらもしないように首を動かし、2人の後方にある扉を凝視する。


 睨みつけるようなミラの視線を一身に受けた扉の外側には、何者かが歩く音のみが何度か反射して鈍く2人の鼓膜に触れる。

 その音はやけに慌ただしく、それでいて若干のためらいを感じさせる歩幅である。そこから、ミラはすぐに扉を開き、通路に飛び出てその人物の名前を叫ぶ。


「ストラス!」


 すると、通り過ぎようとしていたストラスが混乱の声を上げながら振り向いた。

「あ? ミラもルネもこっちに来たのか? なにか変更でもあったのか?」

「プラン大変更を伝えに来た。それより、アイザックとは別行動なのか?」


 プランの説明よりも先に、ミラは共に魔天コミュニティでの調査を任せていたアイザックのことを尋ねる。

 その順序から、アイザックの有無が変更に関わっていることを察したストラスは、すぐに答え始める。


「アイザックなら、直近で再開される二家会議に出席する予定だ」

「どういう状態になっているのか心底知らんが、そこから情報共有はできるのか?」

「それについてはちょっとわからんがなんとかしてくれ」

「ここまで来て丸投げしてんじゃねーよ」

「参謀はお前だろう? そのへんは頑張ってくれ」


 ストラスの発言に対してもミラは然程の関心をもつこともなく、早速ルネに話をふる。

「話としては、アイザックにしか情報が通じていないようだし、アドリブでなんとかしてくれそうな気もするが、この状況で賭けをするのも好ましくない。話を聞けば、一番近くで伝えられるのはベリアルか……」

「無理でしょ、流石にあの状況で、アイザックにだけピンポイントで情報を伝えるのは無理がある。もっと別の方法を取らないと」

「こっちが状況を完璧に把握しているのなら別の手段を講じるのは簡単だ。だが実際は、状況はあやふや、完全を取るならリスクを犯すべきだが、リスクを取れば失敗につながる」

「それじゃあ流石に本末転倒だよ。アイザックにすべてを察して頂くのが一番だ」


 ミラとルネが小難しい議論をし始めた頃合いで、ストラスは大あくびをしつつ提案する。


「ただお前らの言っていたプランで進めるのなら、アイザックは流石に全部察せるはずだ。俺たちは信じて進むべきではないのか?」

「……なるほどな? 確かにこっちは徹底的に保険をかけている。このまま先に進んでも無難とは言えば無難なのかもしれない」

「俺はそれくらいでいいと思うんだけどな」

 呑気極まりない言葉であるが、ミラは首を大きく縦に振り、肯定的な見解を示す。


「アイザックへの信頼がないわけでもないし、察してもらおうか」

「え、ミラ、流石にそれはないのでは……?」

「いや、よくよく考えればアイザックはほとんどこの事件の全貌にたどり着いていると言っていい。じゃなきゃ最終決戦の場とも言える会議に赴くことはしないだろう」

「……それなら、彼も同じことを考えている可能性がある?」

「かもしれないし、じゃないかもしれない」


 不自然な言い方をしたミラに、ルネは首を傾げながら尋ねる。

 そこにあったのは、明らかに違和感を抱えている表情のみらに気がついた面持ちである。


「どういうこと?」

「……俺たちが持っている情報は明らかに不足している。もし仮に、欠如している情報があり、それをアイザックが持っていて、そこですべての真実にたどり着いた。という可能性も無きにしもあらず、かな?」

「ミラ、その違和感って、何?」


 その時点で、ルネも同一の違和感に行き着いたようにそれを尋ねる。

 すると、ミラは自身が抱えている違和感について言及する。


「この事件を時系列でまとめれば、魔天コミュニティでのルイーザ破壊計画が判明し、それを防ぐこととこっちの利害が合致してイレースがプランを組んだ。そして、コミュニティはその対処として宴を使って天獄をなんでか経済的にぶっ潰そうとした。そしてノアたちは第三の組織としてまずウロボロスの起動を目指した……、どうにも変だ」

「……その変って、介入者の問題?」

「あぁ。なんだろう、この流れは確かに整然としているが、どうにも全くわかっていない部分が気になる。旧国境区にあったパールマンっていう名前だろう。ストラスの話によれば相当な秘密主義者らしいが、そいつの動向がふわっとしているのは警戒すべきところだろう」

「アイザックはそこまでの情報も仕入れて当たりをつけているって言うこと?」

「あくまでも過程の話だ。とりあえず、アドリブに頼るのが一番利口ではあるだろう」


 ある程度の話し合いを聞いていたストラスは、方針を決めたと思われる2人に対して「方針が決まったなら指示をくれ」と次のアクションを訪ねてくる。

 すると、ミラは首を縦に振りながら言う。


「大事なのはここからだ。俺の予想が正しければ、そろそろポンコツが来るだろう」


 ミラが断定的な口調でそう言うのとほぼ同時、どこからか出てきたノアがツッコミを入れる。

「ポンコツじゃなくて君のスゥイートだよ!」

「このド変態と組まなきゃいけないのは不愉快だが、情報の共有をしておきたい。そっちはどういうプランで行こうとしている?」

「はーいご主人様」

「地獄へ落ちろ」


 ミラとノアが恒例行事を行った後、お互いに情報を共有したものの、お互いに標榜している条件が同じであること、そして手段についても同じであることを知り、話が早いと手を叩く。


「とりあえず話として、ある程度の共有がなされているのならばそれでいい。それで? 二家会議に忍び込むんだ? 正面突破にするか、不意打ちで出てくるかはそちらのプラン次第だけど」

「僕が然るべきタイミングで飛ばすよ。君にマーキングをしているし、ルネも体を触れていたら一緒に飛ばせる」

「おいおい、ずっと手を握ってろっていうのか? 流石に骨が折れるぞ」

「抱き合ってればいいんじゃない?」

「それもそうか」

「納得してんじゃねーよ2バカども!」

「なー俺はなにかすることないの?」


 あまりにも自由な会話が繰り広げられる中、疑問を呈したのはストラスだった。

 今まで話されたプランの中にストラスの出番はないに等しく、それに対してストラスは露骨な苦言を示したのだ。

 対して3人は、それぞれ鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべつつ、「忘れてた」と言わんばかりの態度で塩らしく話し出す。


「あー、どうしようか」

「ストラスはー……、いやーお前コミュニティじゃ有名人だからな……」

「組み込みづらいよね」

「そこなんだよな。既に交戦してしまっているし、ついでに有名人なんだもんな」

「うるせー、何度も有名人連呼すんな!」

「だから組みにくいって言ってんだよ。文句言うなら代替え案だせってんだこの野郎!」

「まーた喧嘩してるよこの2人……」


 すっかり話が錯綜してしまっている中、ルネは呆れるようにそう言いながらも、一つ提案をする。


「それなら、外見隠してエノクδの分身に仕立て上げればいいんじゃないの? それならいいんじゃない?」

「あーそれでもいいか。それで決定ということで」

「お前もう考えるのめんどくさいんだろう? じゃなきゃリスキーなこの作戦にそこまで適当な反応をしないだろうし」

「お前なら上手くやるだろう?」

「こいつ……」


 途端に雑になっているミラの対応についてストラスは、状況の切迫性を気取り早速行動に出る。

「それならとっとと開始しよう。やることは正面突破、それだけだな?」

「あぁ、俺達はここで一旦待機してノアからの転送を待つ。ルイーザでは廻が上手くやってくれるはずだ。各々行動が完璧なら事は収束する。それでいいな?」


 ミラの宣言に、その場にいた全員が首肯を呈し、そのままの勢いでノアはその場から消え去った。

 取り残された3人は、早速ストラスにベストな返送を施すために室内をあさり始める。



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