管理人の札
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
ここ最近体調を崩してしまい、何時間寝ても何故か異常に眠い日々が続いています。そのせいか、いつも以上にサブタイトルが適当になったり本文中の推敲ができていなかったり散々ですが、もう少し続きます。残っているのは18章、最終章、おまけなので本当にもうすぐです。ヤッタネ!
少なくとも、ヴェルタインとミアは同じ見解を持っており、その見解をエンディースに求めているのだ。これについて察したエンディースは、不服そうに顔を歪めながらもミアに事の真相を話すことを承諾した。
「君がそういうのなら……」
途端に大人しくなったように見えるエンディースだったが、その様を見てヴェルタインは当然の疑問をふっかける。
「随分とすぐにクールダウンするのね? あんだけカンカンだったのに潔くお言葉に甘えるなんてありえないと思うんだけど?」
「……どうせ、この事件はもうすぐ収束する。メルディスもトゥールも予期しない勢力のおかげでな」
「そんで、ある程度ことが収束したらコソコソストラスをぶっ殺すっていうことね?」
「無論、そいつを殺すのは俺の悲願だからな」
「一言で言うと面倒ね貴方」
どストレートなヴェルタインの言葉に続いて、ストラスは表情を歪めながら「俺を巻き込むなバカども」と悪態をつく。
一方、それらの流れを打ち消すようにミアが話し出す。
「どうでもいいけど、一応は足並みを揃える方針でいいのね? なら話してもいいのかしら?」
「話していただけると嬉しいわ」
「手短に話させてもらう。まず最初に、私は25年前の事件を起こしたケルマータの再組成体です。尤も、別物と言ってもいいから、その時の記憶は曖昧だけど」
この言葉を聞き、ストラスは先程アイザックが言っていたとある推測がよぎる。
「……なるほど、施したのは現メルディスことベヴァリッジか」
「どうやら話は早そうですね。私は貴方たちにこっ酷く返り討ちにあったあと、エンディースによってその死体を回収された。そして、ベヴァリッジに駆け込んだっていうわけね」
「それで? そのマッドサイエンティストがおたくらに要求した対価はなんだ?」
「おおよその想像はついているんでしょうけど、宴が行った一連の天獄への妨害が仕事の内容よ。エンディースは最初から貴方を殺すことを目的に動いていたみたいだけど、本当の仕事の目的は、今回の厄介事に際して貴方たちの動きを停止、もしくは動くことのできない状態に追い込むことだった。結果はみごとに失敗だったけどね」
ミアが含みを込めた笑みを浮かべてそう話すと、ストラスが具体的な内容に触れる。
「その妨害計画って、ケイティを使って盗難品の金を握らせて社会的にうちらを営業停止に追い込むことだったって言うことか?」
「そうね、おおよそそんな具合だけど、メルディス側から具体的な指示はもっと曖昧だった。こちら側の動きに合わせて動く、程度の曖昧さがね」
「随分と曖昧だな」
「情報の伝達方法が信書でしたからね。見たあとは焼けばすぐに処分できますし、合理的です」
「そうだな、少なくとも盗聴リスクや会うことの危険性を考慮すれば、それが一番マシだわな」
ストラスは冷静にそう分析したものの、それに補足するようにヴェルタインが言う。
「にしても、ベヴァリッジらしいとは言い難いわね。あの人なら、余計な混乱はプラン遂行の妨げになると判断しそうだけどね」
「そうだな、性格に合致していないっていうのは大事な違和感だ」
「それについては、私たちも思ったけど、こちらの目的、いわば貴方たちへの復讐を敢行した。後の顛末は推して知るべしね」
「それで? どうしてお利口に俺たちの言うことを聞く気になったんだ?」
一周回って同じ問にぶち当たったストラスに、ミアは首を縦に振りながら言う。
「さっきの貴方の態度で分かったわ。貴方の不殺主義は本物で、とっても優しい人なんだってね。同時に“僕の”、愚かささえもね」
「お前……記憶が曖昧なんじゃないのか?」
「……そうね、酷く曖昧だけど、時々ケルマータとしての意識が流れ込んでくるみたい。エンディース、どう? 私の人格と、ケルマータの人格は似ている?」
突如話を振られたエンディースは、少し悩みながら問に対する答えを渡す。
「同じさ。君は君、それは揺るがない事実だろう?」
「嬉しい回答ね……。なおのこと早く安全な暮らしに戻りたいことね」
「君がそれを望むなら、それを目指そう」
なにか不思議な関係性が露呈した2人のことを訝しげに眺めていたその場全員は、呆れたような面持ちでストラスが口火を切るまで、冷徹とも言える視線を浴びせていた。
「ちょい待てや、テメェらいつまでノロケてんだ。話の続きをしていただきたいんだがな?」
「あらこれは失礼。そんなこんなで貴方たちの妨害をしようとしたところ、よくわからないさっきの刺客に乗っかられたっていう話ね」
「そこまではいいが、どうにも釈然としないわね。貴方たち、トゥール派からエノクε奪取に奔走してなかったかしら?」
ヴェルタインが口を挟むと、ミアは更に続けて話し出す。
「えぇ、私達にとっての目的は貴方たちの復讐だったから、トゥール派からも仕事を受けていたの。エノクεはコミュニティの中でも危険な兵器だったし、利用できるかもとは思ったことと、ちょろちょろ動いていてもトゥール側から妨害が来ないようにするためにね」
「解せないわね。あのベヴァリッジなら、重複した依頼なんてすぐにバレると思うんだけど」
「それについては、こっち側からトゥールの情報を流すだけで事足りるわ。最初の襲撃にしても、ベヴァリッジから指示を受けていたからね」
「……ベヴァリッジは、意図的にあの襲撃を起こしたの?」
その言葉を口にしたヴェルタインだけではなく、ストラスがこの事実に表情を変える。
それは、ベヴァリッジが大切な家族同然のエノクε、イレースのことをゲリラ団体に襲撃させたという、あまりにも彼女の性格から乖離した行動だったからだ。何よりも自らの仲間のことを重視している彼女の思想と矛盾している。
これに疑問を抱いたヴェルタインは更に追求する。
「それは本当に、ベヴァリッジだったのかしら? 某秘密主義者じゃなくて?」
「じゃあなぜ、最初に貴方たちのペリドットさんが襲撃したときに、いち早くベヴァリッジが区域Bに顔を出したの? あのタイミングで自らしゃしゃり出てくることはなかったはず……にもかかわらず、あの場にいたのはそういうことじゃないの?」
「……現状証拠のみだけど、まぁ、状況的に十分整合するわね。貴方たちの襲撃タイミングがドンピシャだったのもそういうことなのね」
ヴェルタインがそう言いながらエンディースのことを一瞥する。
すると、エンディースは「それこそ、押して知るべしだろう?」とミアに話を促す。
「気味が悪い話ではあるけど、ベヴァリッジの一連の行動の意図を理解すればなんとなくつながることね」
「それで? あの権力お化けの目的を知ってんのか? 大事なのはそこだが」
「決まってるわ。ルイーザ侵攻を行ったトゥール諸共、25年前の負の遺産を焼き払う……それが目的さ」
これを聞いて、最も表情をこわばらせたのはストラスだった。
一方のヴェルタインは、驚きこそしたものの予想できなかった事実ではないようで、さほど態度に現れることはなかったが、それでもこの想定はあまり良くないものであることは間違いなく、呆れたように言い放つ。
「どうやら、第三の組織の想定は恐ろしいほど冴えていたようね」
「さぁ、私たちは貴方たちの動向をさっぱり把握できていないし、目的についても不明瞭……今度は貴方たちに情報を問いたいのだけど?」
「私達から話すことはないわ。ついでに、横の嫁捜索隊はただの利益共有者よ」
「いい加減にしないとぶち殺すぞ」
「ということで、ばいにゃら」
「バイバイするのはそちらの勝手だけど、情報共有が疎かになれば失敗のリスクが上がるし、そうなれば困るのはそっちじゃないのかしら?」
ミアの痛い一言が美しくヴェルタインに突き刺さり、それに乗っかるようにストラスが指摘する。
「そーだそーだー、とっとと目的を話せボケナス」
「あら、なぁにこの人たち、私と取引しようっていうの?」
「別にそんな事は言ってないわ。でも、この事件、噛み合うところが噛み合っておかないと、いろいろ大変なんじゃないの? それに、私は貴方の目的、正体についても言及してないわよ?」
ヴェルタインは言葉を失うようにもの一つ考える。
ここですべてのことを言及していいのか、果たしていいものかという逡巡である。
「……それについて言及するには、水漏れがひどい気がするわね」
「うちのメンツのどこに信用がないのか、教えてほしいわ」
「別にそんなこと言ってないの。摘んでおけるものは摘んでおきたい、そういう話よ」
「ここまでべらべら話しておいてそれはないと思うんだけど?」
「私の意見は残念ながら変えないわ。貴方、最低でもリーダー2人までじゃないと話せないわ」
かなり一方的な主張をしたヴェルタインに対して、ミアはエンディースに適当に目配りし、これに快諾する。
「分かったわ。そんなに言うなら、水漏れくらいは直してトラブルシューターに当たりましょうか」
「あら素敵、デートでも行きましょうか?」
「それは素晴らしいアイデアね、ストラス様はここで適当に遊んでいて頂いて構いません」
「おー、皆殺しにしてもいいってことか?」
嘲笑的な言葉に、ミアはひときわ上品そうな表情を浮かべて続ける。
「勿論、優しい貴方にそれができるのなら、ですがね」
「……お前、あの時から随分と成長したんだな?」
「なんのことでしょうかね? それに、私は貴方とは初対面ですけどね?」
「そういうことにしておこうか。それなら、とっとと状況確認してほしいところだな?」
ストラスがそう言いながらヴェルタインを睨むと、すぐにヴェルタインはミアの手をとって「勿論よ」と口走りそのままかけていってしまう。
その場に残されたストラスは、すぐに自分が何をするべきなのかを理解し、その場に腰掛ける。
そして、すぐさま背部に大蛇のようなスポアを2本出現させながら、全員に向けて話し出す。
「あのボンクラ2人が帰ってくるまで動かないでもらおう」




