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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十七章 傍観者の見る景色
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7人目

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 新しい章になり、終わりも完全に見えてきたのがここ最近嬉しく、いつも以上にこの物語を再考していたりしています。20章終了予定なので、本当にあと一息(*´∀`*) 今回も少し遅延が発生してしまい申し訳ございませんでした。何かと遅延の多いお話ではありますが、これからもお付き合いただける方がいましたら今後共よろしくおねがいします。

 次回の更新は今週金曜日16日22時となっております! 次回もご覧いただければ幸いです。


 ※投稿時間が20時から22時に変更させていただいていたのですが、物語概要欄の文章が変更されていませんでした。大変申し訳ございません。この場を借りてお詫び申し上げます。


・アーネスト邸 書庫



 置いてけぼりを食らったストラスは、ぶつくさと文句を言いながら適当に資料を漁る。

「ったく……いいかげんにしろってんだ。何を調べっていうんだ……?」


 何もわからないまま特段価値のわからない書籍をあさりながら、直近に迫っている気配に勘付き、先の戦闘において確認できなかった「7人目」を悟る。


 先程の戦闘時、ストラスが最初に感じた侵入者の人数は「7人」だった。しかし、あのときに戦ったのは宴の6人と謎の襲撃者2名の計8人だった。当初悟った気配の中に、後者の襲撃者はカウントしていない。あれほどの戦闘能力があれば、気配の時点で気づいているし、人数と矛盾しない。

 ストラスが唯一、自身の勘と符合しないのは、「この7人目」である。そして、その人物の当たりはストラスにはついていた。



「ヴェルタイン……なんのようだ?」


 正体は、宴に所属していて、かつベルベット家でもあるヴェルタイン・ベルベットであった。

 ストラスとは旧知の仲であり、仲が良すぎるわけでもなく離れすぎているわけでもない絶妙な関係性であった。


 しかし、ストラスが天獄を創設した時点から面識は薄れ、直近での交流は25年前のザイフシェフト事件の時だった。戦闘においてはバランスの取れた人物で、コクヨウレベルとはいかないものの、国家的に見ても上位の人物である。だがそれ以上に、ヴェルタインは情報戦や偵察に優れた資質があり、自分自身もそれを良く理解しているフシがあった。


 そのため、ストラスはヴェルタインに対して、まず「目的」を訪ねたのだ。

 それに対して、ヴェルタインは笑いながら手をたたく。


「あら~、やっぱりバレてたのね。お久しぶり、ストラス」

「25年ぶりでも、その狡猾そうな声は変わってないな。何しに来た? お前はどこまで、今回の件に噛んでいる?」

「質問責めね。もう少し、感傷的な再会にしたかったわ」

「宴とともに動いている奴がそんなロマンチックな発言をするとは思わなかった。何を企んでいる?」


 それを聞き、ヴェルタインは「驚いたわ」と目を丸くしながら腕を組む。


「どうして、私が宴に所属していることが分かったの?」

「気配だよ。さっき、エンディースらが仕掛けてきたとき、お前もあの場にいたんだろう? だが、どうしてお前が湧かなかったかが曖昧だ。何をしていた? 大体、襲ってきた精鋭は何者だ?」

「流石、稀代の天才ストラスね。私、気配を消すのは結構得意のはずなんだけど」

「お前……さっきから何一つ俺の質問に答えてねーじゃねーか。テメェがあのウスノロ軍団に入ってるわけがねーだろ。どうせ、今回のトラブルの発端であるノア一派に入ってる。違うか?」

「これについて、答えるのは貴方がどこまで事件について知っているか、それが必要ね」

「……俺を相手にカマでもかけようっていうのか?」

「プランの成功率に関係するからね。一つ質問、こちら側の目的をどこまで知っている? 具体的に、終着地点のことをね」


 ヴェルタインがストラスの言葉を無視してそう尋ねると、ストラスは睨むような表情で彼女のことを見る。

 そして、小さく言う。


「……水爆を何とかするまで、だろ?」

「そうね。そのために、我々は一体何をしている?」

「こっからは俺が質問する番だ。てめぇらのメンツを言え。話はそこからだ」

「何度も言っているでしょう? 成功率に関わる……」


 ヴェルタインがそう言いかけたときだった。

 その横をストラスの鋭利なスポアが迫り、苛立った調子で尋ねる。

「成功率に関わる、だ? 俺がどんだけ苛立っているかわかってるはずだ。一連のことをどっかで監視していたのならば尚更な。ついでに、もし仮に……てめぇらの頭数に俺のスゥイートがいれば、その怒りは一入だ。爆発寸前の俺にそんなことを投げるとは、随分と悠長だな?」

「……あら、なんのことかしら?」

「回りくどい言い方はやめろと言っただけだ。俺はてめぇの与太話に付き合ってる時間はねーんだよ。ハッキリ目的を話したらどうだ? “俺たちにやってほしいことがある”、っていうことくらいな」

「どうやら貴方には無難な立ち回りは難しいようね。脳筋さん?」

「今すぐテメェの頭をふっ飛ばしてもいいんだぞ?」

「分かったわ。お話しましょう、私がここに来た目的をね」


 不気味な闇を孕んだヴェルタインは、笑みを浮かべながら更に続ける。


「さて、私は今回の事件において、“デモンストレーションと監視”を担当しています」

「誰の監視だ?」

「焦らずともお話するわ。今回のアプローチはね、宴の動向が割と重要な要素だったの。だから私は、動向と監視をしていた。で、プランナーに情報を渡したノアとしては、宴の行動理念からして“貴方との衝突”を恐れていたの。理由は単純、それをして木っ端微塵にボロ負けすれば、“デモンストレーション”としての役割を果たせないばかりか、むしろこっち側に厄介な動きをするかもしれない。例えば、貴方を潰すために全力を注ぐ必要がある、とか騒がれたりするとね」

「あぁ、コミュニティが注意する対象が変わるから、か?」

「えぇそういうこと。んで、私はこういう指示を受けてもいる。もし、“宴がストラスという復讐対象と衝突して生き残った場合、それを始末する”という指示をね」


 この言葉を聞いてストラスは驚愕する。

 それはつまり、今の状況になったとき第三の組織として行動しているヴェルタインが「宴のメンバーを皆殺しにする」ということであり、今までの指示からするとかなり非人道的な内容だった。

 しかし、ストラスはその指示内容についてまんざら嘘とは思えず、むしろそれは「当然の意向」として考えられていることを確信する。それほどまでに、第三の組織のプランの根を担当しているであろうノアの性格を考慮すれば、清々しいほど筋が通ることを理解していたのだ。


 それを理解した上で、ストラスはヴェルタインに尋ねる。


「それで? お前は件の奴らをぶち殺すのか?」

「えぇ、そのつもりだったわ。だけど、貴方のあの態度を見ると気が変わったの。流石の私も、無慈悲に他のメンツをぶっ殺せるほど精神が強くない。だから貴方の意見を聞こうと思ってね」

「俺に何をしろっていうんだ?」

「お話は単一でこうしろっていうほど簡単な話じゃないわ。実際のところ此処から先は随意時対応を変える必要がある。貴方ほどのエージェントじゃなきゃ、対処できないの」

「だーかーら、具体性を持って話せってんだよ」


 あまりにも回りくどく話すヴェルタインに対して、ストラスは苛立った調子でいう。

 しかし、ヴェルタインはというと「わかってないのね」と手を挙げる。


「私があなたにしてほしいことは“宴をなんとかしろ”、ただそれだけなのよ。物事は具体性を持つどころか、あらゆるすべてが抽象的で曖昧……その手段を考えるまでがあなたの仕事さ」

「仕事を頼む割にはこっち側の見返りはとんとないな。物事を頼むのと同時に対価が必要だぞ?」

「だから、私がここに来たのは“対価を支払うため”なのよ」

「ならとっととそれをよこせポンコツ」

「対価は情報……、我々に必要なのは信用ある情報ね。この事件に関わっている連中、列挙してまとめて差し上げようかしら?」


 これを聞き、ストラスは目の色を変える。

 そして少し考えながら、含みを持つ笑みを浮かべて言い放つ。


「ははは~、なーんだ、そういうことなら先に言えよ」

 ストラスはそう言いながら一際大きいスポアを突きつけながら続ける。


「になるわけないだろう。どうしてこの都合の良さそうなタイミングでここに来た? 今までコソコソしてきたのに理由なくこんなこと持ち出すなんてあり得ないだろう。納得のできる理由を出せ」

「あら~、あんなに貴方のスイートを求めていたのに?」

「タダより怖いものはないな。アイツにも、お菓子をくれる奴ほど警戒しろって言ってるからな」


 すると、ヴェルタインは少し悩みながらも、およそここから騙すことに意義を感じられなくなったのか、すぐに手を翻しながら始める。


「あらあら、そこまで貴方が警戒しているのなら、別に騙す必要性もないわね」

「……お前らが一体何を考えているかは知らねーが……、いや、そうでもないか」


 ストラスは冷静に情報を分析すると、自ずとその答えが見えてくることになる。

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