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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十六章 戦いにおける非対称性
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仮説から導く想定

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 書くべきことは一つです。書き直し確定、閉廷。


 次回の更新は来週月曜日5日22時となっております! もうすぐ完結、次回もご覧いただければ幸いです(*´∀`*)


 それは、この事件に関わったものの多さをそのまま表現するに叶う複雑さだった。


「今まで出てきた団体は、①メルディス、②トゥール、③二家、④コクヨウ、⑤第三の組織、⑥宴、⑦ルイーザ側の6つがある。今までその力関係があまりわからなかったけど、これによってある程度固定化される。まず、①はこの事件の発端的な要素があり、他の団体との関係は不明であることから、独立した存在であることが示唆できる。②が問題だった。こちらが宴とどのように関係しているのかがわからない。けれど、今回のトラブルを見れば、“宴を利用している側”だと思われる。そして、それは第三の組織も同じ、トラブルを起こした両組織を心理的かつ構造的に操ってこの状況を作った影の首謀者であると判断できる」

「つまり、この7つの、事実上5つの団体が各々の利を追求することで作り上げられた状況か」

「えぇ、そういうこと。介入していないコクヨウと物理的に介入ができないルイーザ側を抜きにすれば、そうなるわ。でも問題はここから。利用された⑥と面倒事を持ってきた⑤の目的と力関係が大事になる。まずは⑥の宴から説明をしましょうか」


 ハートマンが意気揚々と話し出そうとしたときだった。ジャーメインは大きく首を縦に振り、「なるほどな」と深く納得する。

 それに対して、隣りにいたバートレットは怪訝な調子でレオンの頭を撫でる。

 無論、それを見たハートマンはジャーメインに説明を求める。


「ジャーメイン、私の代わりにどうぞ」

「あぁ、俺が説明してもいいのか? それじゃあお言葉に甘えよう」

「どうぞ、横のベビーシッターにもわかるように説明してあげて」

「僕はいつからベビーシッターになったのかな?」

 レオンを抱えながらそう言ったバートレットは不服そうに顔を顰めるものの、すぐにジャーメインに話を促す。


「どうでもいいけど早く話してよ」

「簡単に言えば、宴は最初っから傀儡だった、っていうことだ。パールマンはポケットマネーを使ってまでストラス・アーネストに妨害工作を行い、そして一連の行動はヤツの仕組んだことでもある」

「そこまでは僕でもわかるよ。必要なのはその先!」

「わかったって。大事なのはだ、予期したにもかかわらず妨害を加えてるって言うことだ。それで矛盾しないことは唯一つ、“コクヨウに”現状を錯覚させることだ。宴にはオフィリアがスパイで入っている。そこで得た情報は必ずコクヨウに報告されるはず……そうなれば確実にこちらはこう勘違いするだろうな。“宴と共闘してまで想定外の要素を潰そうとする連中がいる”、とな」


 その言葉を聞いてバートレットはゾッとする。

 これは言葉以上に厄介な事実だった。ゲリラ組織宴は、その目的を明確にしない団体であり、今回の事件の中でも真意が明瞭ではない団体だった。つまり、その信頼性は最も乏しく、その宴を活用してまで想定外(ルイーザ)を片付けようとすることに対して利を持つのは、ストレートに第三の組織ということになる。なぜなら、目下直近の危機になる第三の組織のことを考えれば、想定外の存在すらも活用するのが普通であり、それを潰すことは通常の思考からすればありえないからだった。

 勿論、その想定をスパイであるオフィリアは前提にしてコクヨウに報告するだろう。そうなれば、コクヨウは「その想定外を潰す連中は確実に第三の組織」と判断して行動することになる。このズレはかなり厄介なことになることは間違いない。お互いに警戒する対象を考慮することなくズレが生まれ、各々の行動が見当違いの方向に向かい見事に無意味に終わるのだ。


「想定外勢力を潰したのが第三の組織であると錯覚させれば後は簡単だ。実行犯がコクヨウのリンデマンたちであれば、少なくともお互いがお互いに疑心暗鬼の状態を作り出すことができる。結果として、俺たちの行動を大きく遅延させることにつながるってことだ」

「そうなれば、勢力の探り合いをして混乱を招き、最終的に潰し合いにまで発展することもありうる。コクヨウだけじゃなく、他の勢力を巻き込んでね」


 ハートマンは補足するようにそう呟くのと同時に、キャブランが明らかに不自然な点についても補足を始める。


「だが、その想定にはいくつも不自然なところがある。まず、依頼相手がリンデマンたちであることだ。こちら側がここまでの回答につくのは他の要素もあるが、そこまで想定ができない人物でもないのが厄介だ。どこまで虚言を振りまいているのかが大事になるだろう」

「それを補完するのが、“リンデマンたちがストラス様と戦った”、という事実になるの」


 謎めいたハートマンの言葉遣いに、レオンを抱えているバートレットは頭に疑問符を浮かべていた。一方で、ジャーメインはこれに笑いながら補足する。


「なるほどな? リンデマンがこのレベルの公務を放ったらかしてまで相手の仕事をするたのは、“戦うことのできる相手が明確だった”からか」

「その戦闘狂が雑魚相手に公務ほっぽるのはありえないからね」

 無駄にから言い方をされたリンデマンは失笑じみた表情を浮かべながら「否定はしない」と口にして黙り込む。どうやらこれ以上情報を渡すことはしないらしい。

 これをしっかりと確認したハートマンは、更にその根拠を述べ始める。


「この事実は“パールマンは宴とかち合うのが誰なのか”を明確に知っていたことになる。そこまでわかっていて襲撃をさせたのは、合理的に捉えれば、“ストラスらルイーザ側の足止めがしたかった”となるけど、ちょっとこれは違う気がするのよね。どうにも、これは合理的に考えてどうこうなる話じゃない気がしないでもない……」

「というと?」

「考えて見れば、かの戦神とかち合って2馬鹿と宴で勝てるなんてありえない」

「おい」

「パールマンがそこまでを考慮しないほどポンコツじゃないのは確か……にもかかわらず、ヤツはただの遅延に終わることをしてしまっている。パールマンらしくないというか、もっと別の何かがあるような気がしてならない」


 頭を悩ませるハートマンに助け舟を出したのは同じ違和感にたどり着いたジャーメインだった。

「遅延をさせるにはほとんど意味がないってことだな? 精々遅延の効果は数時間程度であり、そのリスクと見返りが釣り合っていない、お前の抱えている違和感はそこだろう?」

「えぇ、そういうことなの。確かにこれは遅延行為としては整合するかもしれないけど、パールマンの性格と矛盾する。行動から察すれば、さっきの話になるんだろうけど、どうもしっくりこないどころか、違う気がする」


 ハートマンの言葉遣いを聞き、ジャーメインがほぼ同一の答えにたどり着いたように続ける。


「……具体的な目的こそ不明だが、これから俺たちがするべきことがハッキリした、ハートマンはそう言いたいんだろ?」

「えぇ、これを手立てにビアーズ様の口を割らせる、とりあえずは目下そこでしょう。どうせ、第三の組織の目的とこちらの仕事が重なっているだけでしょうけどね」

「なるほどなるほど、じゃあ、空白にしている他の団体についてはその時で、って話か?」

「勿論、それさえわかれば説明もある程度は円滑だろうし」


 ある程度の方向性を確定させたコクヨウは、早速ビアーズに質疑応答の電話をかける。

 無論、全員にも会話がわかるようにスピーカーホンに設定されている。


「私です、ビアーズ様、少しよろしいでしょうか?」

 通信機越しに聞こえてくる不気味な声は、元々のビアーズの凄みが強烈に現れているような声色だった。


「ハートマンか? どうした、こんなタイミングで連絡してくるなんて、らしくないな」

「ごめんなさいね、でも、我々はどうにも、貴方が第三の組織と噛んでいるような気がして」

「……お前、どうしてその理屈になった?」

「あら、私は貴方のことを“尊敬に値する上司”だと思っています。ここまでのカードが出揃えば、その解釈に至るまではそう遠くないと思いますが」

「なるほど。お前は元々、情報のプロだったな。どうやら、お前たちに隠し事をしていたのが馬鹿だったようだ」

「それでは、お話頂けると?」

「勿論だ。だが、この場では駄目だ。今すぐ、全員で管理塔-Wに来てほしい。残骸だらけだがな。そこで話そうか」


 その言葉に、ハートマンは「フラグである」と言わんばかりに笑い、とある指摘をする。


「テレビショウなら死んでますが大丈夫でしょうか?」

「死ぬのはどっちか思い知らせてやるさ。できるだけ急いで来てほしい。それでは、先に失礼する。“一番破損した会議室”で待ってる」

「えぇ、お気をつけて」


 一連の話を聞いた全員だったが、彼の話した場所について疑問符を浮かべるばかりだった。

 その一方で、ハートマンはなんの迷いもなく言った。


「さて、行きましょうか。“二家会議が行われた場所か、その隣の会議室に”」

 かなり限定的な言い回しをしたハートマンに対して、ジャーメインは首を縦に振りながら言う。

「なるほど、そういうことか。破損したって、襲撃があった場所の付近ってことか」

「そういうことよ。さ、みんな準備しましょー」


 ハートマンがそう声を掛けると、全員が早速行動に移り始める。


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