軋轢への杞憂
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
最近現実がマッハで忙しいことから、ろくな読み込みをできずに投稿という流れがやや多くなってしまい不安が増殖中。このサブタイトルを決めることさえ若干適当になる程度には多忙な日々はむしろ充実の裏返しであることは重々承知ではありますが、皆様休むことも大事だと私は論じたい……、別に今週の金曜日がおやすみになるわけではありません。
次回の更新は前述の通り金曜日26日22時となっております! 次回もご覧いただければ幸いです!
それは、今までで最もイレースの思考の核心に触れるものだった。
「そうだね……君が“記憶を失う直前に渡したプラン”と、寸分違わずね」
「やっぱり、僕はここまでの展開を想定していたんですね? そして、貴方に今までの不審な行動を取らせた」
「君は本当に優秀だ。しっかりと自分のリスクまで承知の上で、急ごしらえのプラン変更をした。素晴らしい人物だ。僕が愛した男の子の中でも、5本くらいの指には入ってるよ」
独特な言い回しをしたノアは、舐めるような視線でケタケタと笑い、イレースと顔を見合わせる。
一連の流れを見て、更にツッコミを入れたのはメアリーだった。
「廻さん一派としては、その詳細について知りたいな?」
「勿論です。僕は記憶を失くす直前、“メルディス様が僕の記憶を消すことを承知して”、第三の組織の動きに補正をかけた。それが、“僕が自らの手で記憶を取り戻すまで”、手をくださないことだ」
「あ~……なる、ほどね?」
「そうです。僕が記憶を失った状態で、すべての事実を一気に知れば、恐らくは確実に暴走を引き起こす。それを避けるために、僕は僕自身の手で真実を遠ざけた」
「まどろっこしい言い方をしないほうがいいんじゃないの? 首領さま?」
「……僕は“自分自身の行動まで組み込んで”、今回の計画を作った。僕が真実を探すように行動すれば、最も警戒すべきメルディス様のことを掻い潜ってプランを進めることができる。僕自身が完全に記憶をなくすくらいしなきゃ、確実にあの人の邪魔が入ったはずだ。だからこそ、第三の組織はここまで来ることができたんだと思う」
イレースの言葉に、ノアは首を縦に振りながらそれを肯定する。
「君が提案した“ウロボロスの起動”は一筋縄ではいかないものだった。おまけに、大量の監視の目を掻い潜って、方舟について悟られずに行動することも難しい……。君のプランでは、各機関から小出しに第三の組織の一派を出していって、手詰まりにしてからウロボロスを起動させることだ。ここまで外堀を埋めたのは、魔天コミュニティが判断して起動させる必要があった。そこで、君が早期に記憶を取り戻してしまうのはメルディスにこちらの動向を悟らせる事になりかねない。暴走を防ぐ意味もこめて、君が計画を多少なりとも変えたのは賞賛に値するが、かなり危険な賭けでもあった」
「えぇ、僕の想像から少しでも外れてしまえば、全て瓦解してしまうくらい繊細だった。でも、これまでの結果を考えれば、勝算は十分あると思う」
一連の話を聞いていたカーティスは、今ひとつ話が飲み込めていないようで、自分の解釈の中で話し始める。しかしその内容は、「疑問の提起」だった。
「つまり、俺が巻き込まれた原因は、イレースの暴走の予防線、予想外の戦闘に対しての対処、そこら辺か? 今の話をざっとまとめればそれくらいだけど、どうにも俺にはそれで納得出来ないぞ」
この言葉に対して、反応を示すものは誰もいなかった。そして、中にいるイレースのみが、カーティスの疑問を尋ね返す。
「……というと?」
「話を聞けば、今の話は“カーティス・マクグリンとしての俺が、その話に全面的に同意し、協力すること”が前提のはずだ。その程度の話を説明されて、俺は命を張れるくらい立派ではない。まだ隠された情報があるはずだ。イレース、お前はそれも覚えているんだろう? それを、なぜ言わない?」
「僕は、この危険な賭けに君まで乗っけてしまった。そしてここから先の山場には、一歩違えばすべてが終わってしまう」
「バカ、ここまで来てお前が揺らいでどうする。勝算はあるんだろう? 話してくれ」
これに続けてカーティスは。「まぁ」と口火を切る。
「どうせ俺のことだから? 父親絡みだろうな、ルイーザ本土を丸々焦土にできる方舟を放置するのはありえない。それと……、お前がいたからかな」
「……そうだった。君は最高のバディだったことを」
「これからもそうだろう?」
「あぁ、だからこの先のプランについて話せよ。俺が聞いた事も含めてな」
カーティスの言葉を聞き、イレースはハキハキと次のプランを述べ始める。
「うん。ここまでプランは僕からの想定から外れてはいない。だけど、これから行われる二家会議にメルディス様がどう出るか、パールマンがどう出るかが問題です。メルディス様については、ここまで外堀を埋めたら、恐らく予定通りの行動に出る。けれど、パールマンがどんな行動に出るかわからない。それだけじゃなく、僕が最も懸念していたのは、“天獄側の動き”だ。ノアさん、そっちについてはどう?」
「厄介なことに、君の懸念は美しく的中している。なんと、天獄のストラスとグルベルト孤児院のアイザックは魔天コミュニティにまで出向いて情報収集をしているらしい」
「そこまでは知っています」
「それなら話が早い。ビアーズの話しによれば、次の二家会議にも参加するみたいだよ」
この状況を聞いたイレースとカーティスはそれぞれの反応を見せる。
イレースは頭を抱えるように苦言を呈し、一方でカーティスはアイザックの身を案じるように不安げな声を上げる。
「一番やめてほしい展開なんだけどホント」
「アイザック父親が来てるってマジでなんで!?」
「恐らく君のことを探しに来たんだよ。実はね、第三の組織が結成したのは2ヶ月前で、君をトラブルに巻き込むことを伝えるべきか悩んだんだ。んで、結局君の保護者であるアイザックさんには伝えず、セフィティナさんにはぐらかしてもらうことにしたんだ。だから……うん、多分そういうこと」
イレースの言葉を聞いてあんまりよくない事情を察したカーティスは、笑いながら言う。
「俺を取り戻しにってことか!? いやそれ以上に、ここで父親に二家会議ってやつで厄介なこと言われたんじゃ、不味いっつうことか!?」
「理解が早くて素晴らしい、厄介事をぶち込まれれば瓦解しかねない。流石にこの状況で、二家会議に突入はやめていただきたいところだね。ノアさん、対策とかは何も打ってないんでしょう?」
決めきった途中でノアを一瞥すると、「他のところもあったし?」と笑う。
すると、イレースは首を縦に振りながら続ける。
「あぁ本当に笑える。このままいけばほぼ確実に厄介事を持ってくるぞこれは~」
イレースの言葉に対して辛く当たったのは意外なことにカーティスだった。
「イレース、バディとはいえ父親のことを悪くは言わせないぞ?」
「そういうことじゃない。アイザック・マクグリンさんがダメとかそういう話じゃない。どんなに優秀な人物でも、焦点がズレればそのすれ違いから厄介なことになる。それが優秀であれば優秀であるほど、ズレは軋轢になって厄介事を連れてくる。アイザックさんは、こちらの警戒に値するほど有能なんだ」
「あ、そう言われれば悪い気はしないかも」
「君さ、ファザコンって言われない?」
「言われねーよ」
「嘘ついてんじゃないよ」
「言われない!!」
謎に喧嘩し始めた2人に対して、苦言を呈したのはノアの方だった。
「ちょい待て、ショタ同士の喧嘩はいいが、話は進めていただきたい限りだね」
「ショタ同士のヨタってね」
「煩いなこのジジィ」
「アンタが言ってんじゃないよ、年齢が僕のダブルスコアだろーが」
「それを階乗しても足らんわボケが!」
「アンタたちも人のこと言えねーからなトラブルメーカーども」
「話戻していいかな」
全員が馬鹿話に参戦したところで、イレースはすぐに話を戻し始める。
「トラブルはそれだけじゃない。ノアさん、もうひとり天才的な厄介事を持ってきそうな人、いましたよね?」
「あぁ~……、ハイ」
「ルイーザ側、もっと言えば天獄側は相当厄介な展開になっているかもしれませんね。ケイティさんの性格を考えれば、ミラー家が握っている情報の開示を求めて父親に交渉するでしょう。そこまではわかるのですが、そこから先どういう展開になるか読めないんですよね……、ノアさんはどう読みますか?」
これを聞き、ノアは大きく首を縦に振りながら「これはあまり良くない想定だけどね」と続ける。
「もし仮に、その素晴らしい想定通りだとするならね、グルベルト孤児院のトップが脅しに来るだろう」
「どういうことですか?」
「恐らく、ケイティさんはあの状況で頼るのはミラとルネ、あの二人が出ればほぼ確実に、アルベルトは事に反発する。そうしたら、ミラはこう提案するだろうね。“エノクδの力を使ってコミュニティを相手取る”、最高レベルの狂気じみた発言だが、ヤツならやりかねない。ミラにとっては、ルネとの生活を壊されることが最もアウトだ。方舟を撤去する方向を取るが、面倒事もしたくないってタイプだ」
「でも、それは相当リスクが絡むことじゃないですかね? ちょっと憶測の域を出ないような」
「第三の組織がここまで活発に動いていなければ、恐らくその行動に出ることはなかったと思う。エノクδが宴に入っているとプランに組んだ僕らのことまで利用している。簡素に言えば、“自身が今回の首謀者である”として脅しをかけるんだろうねぇ」
「……グレーゾーン極まりないですね。上手く利用すれば事態は一気に好転ですが、全員が別の方向に走れば、軋轢は巨大な断層にすらなりますね」
イレースの言葉に対して、ノアは「恐らくはそうじゃない」と補足を始める。
「ミラの方針はこうだ。“俺たちが主導してトラブルを収束させるからお前たちは補助をしろ”、そういうところだ」
「随分と横暴ですが……、そんな人には思えませんが?」
「ミラはルネ絡みだと横暴を通り越して、王様レベルだ。おまけに、アヤツにはそれだけの力がある。でもどう? 実際ミラを首領においたほうが状況的にはお利口かもしれないよ?」
「そうですね……その場合は、懸念はメルディス様でしょうかね。恐らく、彼女は想定通りに事が運べば確実に“方舟の起爆”を選択するはずです。ですが、それを彼女は最後まで悩み続ける。そこで、僕とカーティスが説得をするって算段だった。もし仮に、第三の組織の首領がグルベルト孤児院のミラ院長に僕らの承知しないところで変われば、敵味方問わず混乱を招くことは間違いなしだ」
「そこだよね~、賭けに失敗したら無一文になるどころじゃすまされないっていうのが厄介だ」
「そうですね。オッズを貼るまではいいですが、負ければいろいろな意味で吹き飛ぶ事間違いなしですから。ミラ院長の力量については承知していますが、今回のトラブルはそれ以外の人物がどんなアクションをして、どのような方向で動くかわからない。そしてそこまで予想できるほどのカードがないってことが問題です」
「そうねぇ~。あ、本来僕が出るところだったところをミラにシフトして考えれば? いい感じになるんじゃないかな?」
「それをしちゃったら、混乱は…………あ……」
イレースはそう言いながら、ノアの両肩を抱きながら、その肉体に刻まれた「ミラと同じ文様」に目を向ける。
「これだ……、今までのプランと寸分たがわずに、ミラ院長という第三者が無理なく入るプランがこれだ。いや無理はあるけど、少なくとも筋は通る!」
「えっ」
「ノアさん、このままでいきましょう。ミラさんがいくら横暴とはいっても、この状況では合理主義を追求するはずです。それなら、このプランでいけるはずだ」
「…………なるほどね。おっけーおっけー、このままで行こう。でも此処から先は、僕らのアドリブにかかっている。しくじれば、バッドエンドまっしぐらだ」
「心得ていますよ……、ねぇ、相棒?」
「なんだかよくわからねーが、俺は相棒の意見を信じるぜ?」
カーティスは、イレースのよくわからない言葉を聞きながらも、信じる相棒として戦うことをイレースに誓う。一方でイレースは、「お願いするよ、相棒」と続けた。