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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十六章 戦いにおける非対称性
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整然たる切り札

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 このあたり、完全に趣味の範囲であることが簡単にわかる文章になっています。正直このまま投稿するのが若干アレですが、時間がないということを言い訳にこのまま続行させていただきますアシカラス(´・ω・`)

 次回の更新は来週月曜日22日20時となっております。次回もご覧いただければ幸いです!


 途端に2人の体から力が抜ける。


 その瞬間、2人の体には大量の刻印がまとわり付き、一瞬で力が抜けていく。これが2人の底をつきかけていた力に止めを刺し、ふたりとも基本スポアすらも溶けてしまった状態でへたり込む。

 その刻印は、カーティスらがいつか見た刻印と酷似していた。それもそのはず、その刻印の主は、今まで一連のトラブルの黒幕であると思われていたノアだったのだ。


 ノアは、2人の動きを完全に止めて呆れた調子で言い放つ。


「君たち……この期に及んで何をしてるんだい……?」


 これに対して、いち早く反応したのはメアリーだった。


「貴方……、僕らの殺し合いに参加するなんて随分と度胸があるじゃない?」

「ミスタ・メアリー、貴方こそ、僕が誰だか知ってて言ってるでしょ?」

「アラーシラナイワー」

「殺されたいのかこの野郎!」

「冗談よ。“リミット”が近づいているのね?」


 この言葉を聞き、ノアは目を丸くして言う。


「あ~、知ってるんだね。それもそうか……君はどうやら、こっち側なんだね」

「あなた側っていうのはちょっと限定的すぎるわね。ただまぁ、貴方たちについていると思ってもらって差し支えないわ」

「……ふたりとも、どちらでもいいけど説明してください」


 意味不明なこの会話に対して、カーティスがそう言うと、ノアは笑いながら「君の足元にあるそれを見てみてよ」と続ける。

 それに対して、カーティスはすぐさま真下に落ちていた、オセロのコマを拾い上げ、疑問符を浮かべるように続ける。


「いや、これが何?」

「なんだ、気づいてなかったんだ? そのオセロのコマを持つ者のは……廻側の人物さ」

「“廻側”?」

「こっちも想定外の介入者さ。言ってしまえば、“天獄のオーナー”みたいな人だね。その人が、どうやら第三の組織側のプランを嗅ぎつけて動向チェックを行うためのスパイ、そんなところ?」

「なんでもお見通しなのね~。ほとんど貴方の言葉通り、僕たちは天獄のオーナーである藤浪廻から指示を受けて行動している監視者っていうところかな?」


 メアリーがそう言うと、ノアは呆れた調子で一連の行動について言及する。


「あのさ、その監視者がどうしてトラブルの中心人物と乱闘しているのさ」

「それは僕が戦いたかったからさ。それについては廻さんにも了承をとってある。勿論、“相手の状況を見ながら”ね」

「一歩間違えば2人とも共倒れだったはずだけど?」

「まさかまさかだね、僕としても、彼があそこまで凶悪な力を持つとは思えなかった。だからこそ、こっちまで本気になっちゃったわけで」

「そーかいそーかい、そして? イレースたちは“僕の真意”に辿り着くことはできたのかい?」


 ノアがメアリーから呆れた話を聞くと、次はカーティスらに話が挿げ替わり、今度はカーティス側に目を向ける。

 すると、意識下のイレースが「ちょっと代わって」とカーティスを押しのけて発言する。


「その話で、今一度お話したい。ミスター・ノア」

「君はどうやらイレースの方だね。あぁ、別に構わない。どこまで話が進んでいるか、教えてくれ」

「その前に、どうして僕らにここまで気にかけるんです?」

「……順序的に、君が話してくれたほうがいい。でもここは円滑に行きたい。こちらから質問をさせていただくよ。君は“自分について”どこまで調べたんだ?」


 この言葉を聞き、イレースは首をかしげる。その質問の意図が一瞬で理解できなかった。

 だがすぐに、その言葉の真意を理解することになる。なぜなら、その答えとハートマンの「疑念」はリンクするところが多かったからだ。

 端的に言い表わせば、「イレース自身が今回のトラブルに関わっている」ということだった。


「……それは、“僕がこのトラブルに関わっている”というところまでですか?」

「おやおや、どうやらその答えまで辿り着いたようだね。君のことを信頼してよかったよ」

「その言葉……、本当に僕はこの事件に関わっているんですか……?」

「そのとおりだ。さて、いいですかね、君が仕入れた答えを、僕に聞かせてくださいよ、イレース室長様?」

「僕としては、この話自体をやめたいところですけどね」

「そういうとは思っていたよ。でも、きっと君は答えにたどり着いてしまったんだね」

「……そうですよ。僕は答えにたどり着いてしまった。だからそれを言います」


 イレースはそう言いながら、淡々と話を続ける。

 しかし、その言葉に一番驚いたのはカーティスだった。


「僕が、“この事件の首謀者である”……そういうことですね?」

 この衝撃的な言葉に対して、最も反応したのはカーティスだった。

「おい!! イレース、どういうことだよ!?」

「言葉のとおりだ。恐らく、この事件は、僕が首謀者だ」


 このやり取りを察したノアは笑いながら手をたたき言う。



「流石、僕が見込んだ人物……。でも、その調子じゃ、バディの方までは手が及んでいないようだね」

「それについても、先の戦いで当たりをつけました。カーティスも、この事件に意図的に絡ませた。それを仕組んだのは僕自身……そうですよね?」

「大正解だ。けれども、花丸には程遠い。答えを合わせをしよう」

「その前に、ミスタ・メアリー、さっきの約束を守っていただきたい。僕の情報と……25年前の事件で死亡したグルベルトについて、開示してほしい」


 イレースは凛とした表情でメアリーを一瞥する。

 それに対して、メアリーは不気味に笑い「メモリーボックスを個人的に流用するのはこれ限りにしたいね」と言いながら、どこからか出てきた端末を操作し、とある資料を画面に出した後、ゆったりとした仕草でイレースに促す。


「言っておくけど、これは僕の個人的な資料だ。覗いても犯罪にはならないよ」

「横領罪って知ってる?」

 ノアのツッコミを美しくスルーしたメアリーは、イレースの肩を持って端末の中にある情報をともに眺める。


 その情報を無言のまま見続けたイレースは、全て閲覧し終えると「僕の回答と概ね合致している」と呟きながら話し始める。


「結論から言わせてもらいます。僕は……、僕の正体は魔天コミュニティの英雄であるメルディスとトゥールを使って作られた、人工生命体……。そしてカーティスは、25年前の事件で唯一の犠牲者、グルベルトを使った同じ人工生命体だ」

 このセリフを聞いて最も反応したのは、カーティスだった。

 しかし、その反応は「自分が人工生命体という事実」に対してではなく、その答えにイレースが辿り着いたことに対してだった。


「イレース、どうしてそのことを?」

「君のその強さ、判断力、そして決定打だったのが、“トゥールと同じ戦闘スタイルを容易くやってのけた”ことだ。両手足すべてにスポアを形成して戦うそれを、君は最初にした。だけど決定打がなかった。ここに来てようやくすべて繋がったから分かった。君こそ、どうして驚きもしないんだ?」

「……なんとなく、俺は普通じゃないってことは知ってた。思い出したんだよ、父親(せんせい)の態度とかな。さ、必要なのは模範解答だろう? 続けてくれよ」


 深く言及しなかったカーティスの意図を汲んでか、イレースは一瞬首を縦に振りながらノアに向かっていう。


「そう……やっと思い出した。僕は、自分の正体に気がついたのは半年前だった。その途中見つけた25年前の事件についての詳細とあの街に眠っている巨大な水爆のことを知った。そして、その水爆がトゥール派のパールマンによってその権利が魔天コミュニティにあること、パールマンがメルディス様と何らかの取引をして権利を移譲したこともわかった」


 イレースがここまで話した後、ノアは手を叩いて言う。


「どうやら完全に思い出してくれたみたいだね。首領・イレースさま?」

「えぇ、完全にね。僕が半年前にこの事実に気がついてから、おまけに“ベヴァリッジ様がルイーザ破壊計画に間接的な関与をしていた”から、貴方に今回のプランを提案したんですから」

「そのとおりさ、続けて」

「そうさせていただきます。メルディス様はほぼ確実に、トゥール派が起こそうとしていたルイーザ破壊計画を感知していて、その実行と同時に水爆の起爆をやろうとしていた。それを止めるために、僕は行動していた。だけどそのためには幾つも大きな壁があった。その最たる例が魔天エネルギーにより誘発される“テンペスト”の影響だった。テンペストは魔天エネルギーが頻繁に用いられるこの魔天コミュニティとルイーザがもろに影響を受ける箇所にあった。これを止めるためには、まず魔天コミュニティにある“周縁DADシステム・通称ウロボロス”を起動させる必要があった。これを起動すれば、テンペストによる大水爆“方舟”の誤爆を止めることができる。最初に到達すべき課題がこれだ。だから、僕は今回のプランを提示した。あなた達の力を用いて、ウロボロスの起動だった」


 一連の事柄を聞き、その話に待ったをかけたのはイレースの中のカーティスだった。


「ちょい待て、その話と俺とイレースを結びつけることにはならんぞ?」

 この言葉を聞き、イレースは「僕とカーティスとの関係はそこからだ」と新しい主題へと入っていく。


「僕が、トランスニューロンによりカーティスと意識をつなげたのは幾つか理由がある。最も大きいところは、この体のエネルギーコントロールだろう。この厄介な体を調べていくと、どうやら“人格”でコントロール可能なエネルギー量が決まっているらしく、トランスニューロンの施術によりこの体のエネルギーをコントロールしやすい状態にすることができる」

「つまり、俺の人格をイレースの体に組み込むことで、コントロールをしやすくするためだったのか?」

「そう。それをしなければ、テンペストの影響がより顕著に出ていたはずだ。おまけに、不測の事態への対処もしやすい。グルベルトとしての潜在能力を活かす事ができればね」

「……なるほどな? 俺たちは、イレースの想定通りに動いていたわけだな?」

「うん……ここまで、僕の想定どおりに話が進んでいる、そうでしょう?」


 イレースは確信したような表情を浮かべながら、ノアに尋ねる。

 すると、ノアは首を縦に振り、大笑いしつつ言い放つ。



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