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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十六章 戦いにおける非対称性
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二相から見る悪夢

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 今回から16章が始まりますが、この感じでは20章が最終になりそうですね。こんだけ長く続けばすでに最初のほうがふわっとしているのは自分でも笑えるところ。

 次回の更新は今週金曜日12日の22時となっております! 次回もご覧いただければ幸いです(*´∀`*)


・魔天コミュニティ ベルベット家



 その後、イレースらは単独でメモリーボックスにアクセスすることができるベルベット家を訪れていた。


 扉を潜り抜けていく間、イレースらは嫌な沈黙を引っさげて張り詰めた緊張感がまとわりついていた。そして、その予感は扉を開けた瞬間的中する。


「やぁ、イレース、そしてカーティス……」


 2人が視認する直前から響いたのは、家主でありメモリーボックスの番人を務めるメアリーだった。

 メアリーは気味の悪い笑みを浮かべながら、端末の前に立って2人の真正面から威圧する。それは、まるで最初から2人がここに来ることをわかっていたような素振りである。

 そして、メアリーは少し嘲るような声色で言い放つ。


「どうしたんだい? 君の真実は、見つかったのかい?」

「……えぇ、ここにあることは、わかりました」

「おやおや、それならメモリーボックスにその情報がある、と?」

「閲覧は、可能でしょうか?」

「情報によるねぇ」


 この言葉に対して、イレースは「僕自身の経歴について」とストレートに言い放つ。

 すると、メアリーは口が裂けるほどの笑みを浮かべて「難しいねぇ」と続ける。


「君の経歴は、メモリーボックスにはないんだ。全部、僕らのコンピュータに移しちゃってるからね」

「閲覧はできるんですか?」

「お断りだ。まぁ、手段を選ばなければ、どうかはわからないとは思うよ?」


 メアリーは意味深にそう言うと、手のひらをイレースに見せるように手を上げながら、どこからともなく出現した銀色の液体が床に落ちていく。その仕草は、「閲覧するには自分を倒せ」という挑戦的なニュアンスが込められている。

 これを見て、カーティスはイレースに対して「本当にするのか?」と確認を取る。すると、イレースはすぐに肯定しながら注意を促す。


「カーティス、メアリーはキャノンと同じく屈指の手練だ。気をつけてくれ」

「……不足なしだな」


 言葉で表出せずに行った会話の後、カーティスが意識に出ると、メアリーは手のひらから生み出した大量の液体を手品のように操りながら呟く。


「ねぇカーティス、君は自分のことを覚えている?」

「はい?」

「君はとても強い目をしている。まるで歴戦の戦士のような落ち着きだ。ぜひとも……武人として、君とは手合わせ願いたいね」


 メアリーは凄まじい形相でそう言いながら、カーティスらのことを凝視する。

 それを見たカーティスは、恐怖よりも先に疑念を浮かべることになる。


「……貴方、イレースとは親戚同然なんでしょう? それでも、殺し合いのような戦いを望むんですか?」

「ふふ……、勿論、僕もイレースは可愛いさ。だけどこうも思っている。魔天を遥かに超える膨大な力と、手合わせを願いたいともね」

「貴方、悪趣味って、言われません?」


 堂々と尋ねたカーティスは、直後に両腕から仕込みナイフ状のスポアを出現させながら、それを前方に対して盾のように変形させ、同時に足のスポアも臨戦態勢にして走り出す。

 そして、大振りな先制攻撃をお見舞いしようと大きく振りかぶった。


 直後に、足元によくわからない液状のなにかを踏みつけ、それが一気に硬質化し、カーティスの動きを完全に止めてしまう。

 それを目前に、メアリーはその皮膚を揺らぐ水面のように変形させながら、いびつな鉄球状に変形してカーティスを殴りつけようとする。



「勿論、言われるよ?」


 攻撃が着弾するのとほぼ同時に、メアリーはそう告げる。

 すると、それをガッチリと受け止めているカーティスは皮肉っぽく「そりゃそうでしょーね」と笑う。


 カーティスの言葉を皮切りに、メアリーの攻撃を弾き飛ばし、2人して冷静に距離を取る。それはいわば、「戦闘の了承」であり、宣戦布告をそのまま意味しているものだった。この意味についてはお互いにわかっているのか、特にメアリーはケタケタと笑いながら液状に近い皮膚を鈍く揺らぎ、それを全身に纏わせる。


「さてとさてと、此処から先は本気の戦場さ。いいかい?」

「俺たちが勝ったら、情報をお願いしますよ?」


 メアリーはその返しとして「モチのロンさ」とつぶやきながら凄まじい速度で距離を詰め、液体と固体の二相系の右腕をストレートにぶつけてくる。

 これに対してカーティスは、左腕のスポアを盾のように用いながら、左腕のスポアを変形させ、同時に別方向から防御と攻撃を行った。


 カーティスの左腕の盾にぶち当たったメアリーの右腕は、一気に硬質化し、今度は槍状にカーティスの盾をぶち破る程の威力で刺突を繰り出した。これは、攻撃の着弾したのとほぼ同時であり、攻撃を避けることは不可能なレベルの速度だった。

 この攻撃は見事にカーティスの左腕の盾を貫通し、カーティスらの顔面を居抜きかける。


 しかし、これは右腕のスポアにより寸前で弾かれる。


「流石だね~、もう、僕の仕組みがわかったの?」

「買いかぶりすぎです。ただの勘ですよ」

「いやいや、誇張抜きで、君はやはり桁外れの才覚がある。だからこそ、悩むんだ」


 意味深な言葉を述べたメアリーは、その体を大きく軋ませながら気味の悪い体を露出する。

 全身の皮膚が奇怪な漣を浮かべ、ケロイドと表現して差し支えない不気味な状態をまとって続ける。


「本気で戦おうかと、ね」

「……やる気満々で何を言ってるんですかね」


 メアリーの容貌は完全に肉体を臨戦態勢に移している。おまけに、ほぼ同時に後方のメモリーボックス端末が壁の中に消えていき、すっかり隠れてしまった。

 辺りは戦闘用に切り替わったように整然と何もなく、コロシアムと化した室内は無表情さだけを残していく。どうしてこんな機能があるのかと提起をしたくなったが、カーティスは環境の変化を一瞥した後、すぐさま動き出す。


 最初に行動に出たのはカーティスの方だった。それをしっかりと捉えているメアリーは、体を丸めるような姿勢になり、そのまま転がるような動作でカーティスへと向かってくる。


 対してカーティスは、先の行動から「メアリーに触れてはいけない」と判断し、足元のスポアで跳躍し、攻撃の軸と自らの身体の軸をズラしながら鋭利かつ細いスポアを飛ばす。

 すると、カーティスの放った無数の礫のようなスポアは丸まったメアリーの背部に着弾した。

 そして、着弾した箇所が急激に変色し、その直後、先程と同じように攻撃が当たった箇所に向かって刺突のように攻撃が飛んでくる。


 一方のメアリーは、自らの皮膚が行った攻撃を無視して体勢を180度翻し、凄まじい速度でカーティスと同じように礫を飛ばして攻撃を行う。


 カーティスはこれにスポアで攻撃を防ごうと両腕のスポアを再び盾のように用いて防ぐ。

 だが、攻撃が着弾した瞬間の感覚から、カーティスはこの行動が間違えであることを悟る。付着した礫が今度は糊状に変化し、カーティスはなんと手錠で腕を拘束されたような状態に陥ってしまう。


 状態的には最悪であるが、カーティスはこれによりメアリーの力にある程度の当たりをつけることができ、早速行動に出る。

 その行動は、メアリーに対しての会話から始まった。


「メアリーさん、一つ聞いてもいいですか?」

「君たちの情報以外なら答えるよ~」

「メアリーさんは、コクヨウのバートレットさんに戦いのノウハウを教えました?」


 メアリーは楽しげに会話を進めながらも、一切気を緩めることなく拘束されているカーティスに向かって、同じようにナイフ状に変形させながら攻撃を行う。そして、おまけのように「やっぱり分かるんだね」と笑う。


 メアリーの凄まじい勢いで放たれる攻撃を寸前であしらいながら、カーティスは「そうでしょうね」と返しながら続ける。


「貴方の能力、というか戦い方がバートレットさんと似すぎてる。一応は最高レベルの軍隊のエースを育てるなんて、メアリーさんも相当なんですね」

「君からそんな事言われるとは思わなかったね。バートレットもまぁまぁ、素晴らしい技術を持ってるけど、ちょーっと察しが悪いところはあったね」

「なーるほど」


 カーティスは小さく肯定しながら、拘束されている両腕のスポアで何度もメアリーの攻撃を防いでいく。しかし、両腕に付着したメアリーの糊のような物質は全く取れる気配がない。

 対してメアリーは、両腕を極めて殺傷能力の高いナイフのように変形させ、それを用いてかなりの密度で攻撃を仕掛けてくる。その間、メアリーは更に続ける。


「ねぇカーティス、戦いにおいて大切なことはなんだと思う?」


 この言葉に次いで、メアリーは右手で真正面から刺突を、左手でボディのようにカーティスの体幹を刺すような動作で攻撃を行おうとする。しかも、タイミングを少しだけずらしており、回避しにくいような工夫を行っている。

 この攻撃に対して、カーティスはすぐに攻撃のラグを瞬時に見極めることができた。なぜなら、メアリーの力の込め方が明らかに左腕に偏重していたからだ。

 いわば勘の領域であるが、その「察しの良さ」にカーティスは救われ、一寸ずれても構わないように盾状のスポアを体幹に出現させ、攻撃を防御する。だが、これでも防ぐことができないほどの衝撃がカーティスを襲い、大きく怯みながらも適切に距離を取る。


「さぁ……俺は、別に戦士でも自衛隊でも、軍隊でもないんでね」

「え、そうなの? 僕はてっきり、最強の守護者になりたのかと」

「失礼な……、ミス・メアリー、貴方素晴らしい技術はありますが、頭のネジが外れてません?」


 身分的に言えば完全に身の程知らずであるが、これに対してメアリーは大きく笑い、肉体をさらに変形させながら更に続ける。

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