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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十五章 黙り込む戦火
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嘲笑う仮面たち

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 この物語、ここから架橋に入っていくはずなんですけど、現実との兼ね合いでなかなか進みません。元のお話が結構複雑なので、時間があくと矛盾が生まれやすくて嫌なので、数時間かけて一気に一部分を作るのが正解だと思うんですけど、なかなかうまく進みませんね。

 次回の更新は来週月曜日8日20時となっております。次回もご覧いただければ幸いです。


・管理塔-I 資料室


 ハートマンとイレースが去り、フーとハミルトン、そしてキャブランは各々の仕事に取り掛かっていた。

 ハミルトンはイレースの出国履歴を、フーはこれまでのメルディスとトゥールの動向のチェック、キャブランはこそこそと2人に悟られないように行動していた。これを見て反応したのは、あくびをしながらディスプレイを覗いていたハミルトンである。


「あ~、キャブラン様? なにかお手伝いできることがあれば、私どももお手伝いしますが?」


 周到な調子でそう尋ねたハミルトンだったが、キャブランは黙したまま「お構いなく」と微笑む。

 その姿が絶妙に不気味であり、ハミルトンは首を傾げながら自身の仕事に打ち込み始める。


 しばらくの間、沈黙が資料室を支配するが、そんな中キャブランは適当な資料をあさりながら横目でハミルトンらをしっかりと観察する。

 一方のフーは、メルディスとトゥールを調べてはいるものの、殆どは極秘資料としてメモリーボックスへ移行されているため、残念ながら見事に資料は残っていない。


 三者三様の反応を見せた各々だが、最初に行動を開始したのはハミルトンだった。

 彼はディスプレイを凝視しながら、早速2人に声を掛ける。


「2人とも! ちょっと見てくれ!」

 その声にフーもキャブランもそそくさと端末の前に座るハミルトンを囲むように立ち尽くし、「何があったんだ?」と尋ねる。

 すると、ハミルトンはディスプレイに表示されたものをコピーしながら2人へと資料を渡し、一つ一つ説明を始める。


「これはイレース室長の出国記録だ。一見不可解なところはないように見えるが、出国時間と頻度を見てくれ」

「……確かに、規則的なように見えが、それがどうした?」

「フー、お前本当はわかっているんだろう? 出国記録が、そんなにピッタリな時間になると思うか?」


 それを聞き2人は目の色を変え、資料に残っている出国履歴に目をやった。

 書かれていた時間については、それぞれ然程問題はなさそうに見えるが、時間が明らかに整然としすぎているのだ。というの出国時間が「13時、18時、20時」など、時間のキリが良すぎる。分単位で記録が残るようになっている出国履歴において、ここまで正確な時間で出国記録が残っているのは明らかに不自然である。何らかの作為性を感じざる得ない状況である。

 そして、その履歴があまりにも離れすぎていることだ。この国家の出国記録は、基本的にかなり厳格に管理され、国を出るだけではなく、所属している機関から離れて仕事を行う場合もこれに入ることになる。イレースの所属する区域Aは多くの部署と連携する部署であるため、出国履歴が不当に離れていることは現実的に考えづらい。

 違和感として撤去するのは些か疑問の多い矛盾点に対して、一つ疑問を呈したのはキャブランだった。


「言いたいことはわかるんだけど、確証には当たらないと思うんだけど」

「確かに、確定的なものにはなりませんが、イレース室長の性格を考慮すれば十分考えられそうですけどね。あの人、あんまりキッチリした人じゃないですから」

「そのキッチリした人じゃない上司の部下がいるんですけどね!」

「とにかく、彼の性格とあまりにも整合しないというのがひっかかるんですよ。彼がこれまでの記憶を失っているのならば、それは十二分な引っ掛かりになりうる、そうじゃないですかね」

 その話を聞いたキャブランは、少し首を縦に振りながら、「判断なら任せることにする」と言い残し、すぐに自分の仕事に戻ってしまう。

 一連の動きを黙して見ていたフーは、疑問を呈しながらハミルトンに尋ねる。


「……あの人、いつもあんな感じなのか?」


 その言葉の真意については、ハミルトンも十分に把握していた。

 ハミルトンが見つけた情報はかなり重大な示唆のできるものであり、コクヨウの立場を見ればかなり重要な情報であることはまず間違いない。それなのに、キャブランは適当に2人のことをあしらって去っていってしまう。

 独特すぎる雰囲気のまま去っていってしまった彼について疑問を持ったのだ。


「まー、あの人は基本ハートマン様にしか話さないからな。フー、アンタももう少し、人に関心を向けたらいいんじゃないのか?」

「うるさい。お前は変な情報ばっかり寄こすな」

「まぁ、性格的に仕方ないかもな。元同僚の意見を無下にしないほうがいいぞ」

「そういうところがウザいんだよ。いいからとっとと室長の情報を探せ。そうしないと一生この事態から逃れられないぞ」

「へーへー」


 フーとハミルトンはそう言いながら口論を始める。

 一方、それを見ていたキャブランは、2人の行動に注視しつつも資料をしっかりと確認し、微笑むように笑う。柔和な笑みであるが、笑うキャブランを視認したハミルトンは、若干不安を与えられたように身震いしながらも、更にイレースについての情報を探っていく。


「しっかし、探すのはいいが随分と情報が出てこないな。お宅の上司、メルディスによって強烈なプロテクトがかかってる感じだね~」

「これ以上の部分に踏み込めば、あんまりよくないことが起きそうだな」

「あぁ、これ以上いけば確実に国家反逆罪でひっ捕らえられるぞ。それでも、この情報に踏み込もうと思えばできるが、それはコクヨウ様の権力次第だな」

 ハミルトンはそう言いながら、コクヨウのメンバーであるキャブランを一瞥する。すると、キャブランは特段気にした調子もなく、「そういう権限ないんで」と笑い、すぐにハミルトンの視線に込められたニュアンスを無視し、すぐさま読んでいる本に視線を落とした。


 それを無言で見つめたハミルトンは、同じく笑い飛ばし、「デスヨネー」と大笑いを浮かべながらフーに耳打ちする。


「意外に権限ないんだな」

「黙っとけよ。国家反逆罪以外で閲覧する方法はないのか?」

「そんな法の抜け道なんて知らねーぞ。俺は別に法律家じゃないんだからな」

「そりゃそうだな……それならどうする?」


 すっかり手詰まり状態の2人であるが、これに対してハミルトンは手をたたきながら言う。


「そうだな……それなら、室長の情報がない理由を調べてほしい。どうしてそこまで情報ロックがかかっているんだ? それくらいなら分かるだろう」

「その情報、あんまり調べたくないな。トゥール派として、目をつけられるのは勘弁してほしいんだけど」

「とっとと調べろよ。言い出したのはあんただろうよ」


 そんなこんなでキャッキャしている2人を観察するキャブランの手元には、メルディスとトゥールそれぞれの人員と、イレースに関する独自資料である。

 キャブランの所持している独自資料は、メモリーボックスをすり抜ける紙媒体のもので、元々管理塔-Iに所属していた経験のある2人だからこそできる隠蔽手段である。そして、キャブランは資料にある「フー」と「ハミルトン」の資料を笑みを浮かべながら、楽しげに端末を弄っている2人を観察する。


 そのさまを見ていて、キャブランは「芝居めいている」という感想以外持たなかった。

 どうにも、この2人が具体性を持って問題に対処しようとしているとは思えない。まるで時間稼ぎをしているようで、適当な出来レースを行っているように見えてならない。

 そうでなければ、ハミルトンはこの状況で手をこまねくような発言はしないだろう。一騎当千のテロリスト軍団が国内を闊歩していることを考えれば、それこそ現実的な反応とは到底思えない。

 ハミルトンの心境を、キャブランが代弁するのであれば「とりあえずこのまま事態を遅延させていれば、次のアクションが起きるからそれまで待機」程度であろう。心境の想定ができれば、ハミルトンは今回の事件に噛んでいる連中と少なからず強い結びつきがあることが考えられる。


 キャブランが残って2人のことを観察しているのは、事件を裏から手を引いている、もしくは第三の組織に乗っかって何かしらの計画を進めている「黒幕」の正体の手がかりを掴むためだった。

 そして、キャブランの想定では、この2人も自身が明らかな黒である疑念を向けられていることに気がついているようだ。だからこそ、フーとハミルトンはここまで情報をこちら側に提示することを避けているのだろう。

 しかしその一方で、そこまでのことを想定してこのふるまいをしているのならば、相手はここまでのことを見込んでいることになる。こうなれば相手はかなり厄介なものになり、こちらの出方も相当変わってくるだろう。


 そこまで考えた後、キャブランはすぐさま行動に出る。


「2人とも、手詰まりって感じ?」


 そこで反応したのはハミルトンのほうだった。

「そうですね……やはり、現状区域Aが得ていない情報に限定すれば、新規の情報はないというかなんというか……」

「言葉を濁してはいるが、まぁ手詰まりですね」

「まぁ、仕方ないさ。それより、イレース君については十分な情報がわかった?」

「いえ……それについても全く」

「やはり国家的なプロテクトのかかった情報について調べることは難しいか……」


 適当に同情的な立場をとったキャブランであったが、それに対してフーは尋ねる。


「キャブラン様、コクヨウは何を調べてここに来ているんです?」

「まぁ、適当な情報収集さ。こっちについては、今の所人手不足は否めないから、分散して動いているって感じだ。だから、君たちの集めた情報についても、ぜひとも収集させていただきたい」

「そうでしたか、ですが、我々にしても情報はあまりにも少ない。共有できるものも乏しいですし、コクヨウ側のプランも話してほしい。できる限り、メルディス側での協力も考えて置きたいんです」


 フーは違和感少なくそう告げる。これは結構厄介なことであり、この状況で情報共有をすることは優先事項であり、それをしないということは途端に敵との関与が疑われてしまう。つまりこちら側に正当な理由がなければ、ほぼ確実にコクヨウが敵と通じていると判断されかねない。

 それを考慮したキャブランは早速行動に出る。


「コクヨウも協力したいのは山々なんだけど、こっちも今上がどういう方針なのかわからない以上、うかつに動けないんだ。申し訳ない」


 しおらしくそう言いながらも、キャブランはレンズのような瞳で2人のことを観察している。

 かなり不気味な状況であるが、当の2人はほとんど気にした調子を見せず、端末の前でもめている。


「そうか……コクヨウも動けないなら、こっちもどう歩を進めていいかわからんな」

「だから、室長に関して調べろって言ってんだろ!?」

「じゃあお前が調べろボケナス!!」



 突如の勃発した喧嘩を前に、キャブランはどうでもよさそうに冷ややかな視線を浴びせる。

 そんな中、イレースとの会話を終えたハートマンが戻ってくる。

 ハートマンは響き渡る怒号を裂くように会話に参戦する。


「あらー、貴方たちのお給料は喧嘩していれば入ってくるのかしら?」

「俺は研究員です。本職はこっちですよ」

「そりゃそうね。とりあえず私たちは一旦拠点に戻ることにしたわ。イレース室長も個人的に情報収集を始めたから、貴方たちも拠点に戻りなさい。ここにいても、期待していた程の情報はないみたいだしね」

 もっともらしい言い方をしたハートマンに対して、敏感に反応したのはフーのほうだった。


「室長はどこに?」

「一旦自宅に戻ったよ。貴方は一旦拠点に戻ってほしいって言ってたから、一応伝えておくわね」

「どうして、わざわざ別行動を?」

「それについてはわからないけど、後で合流するとはいってたから、一旦は区域Bに戻るように~」


 フーの問いかけに対して、ハートマンはそう解答してそそくさと出ていってしまう。それは有無を言わせぬような凄みを感じさせ、その背中を追うようにキャブランもかけていってしまう。


 取り残されたフーは、「なんか、とりあえず戻るわ」とハミルトンに残して同じように管理塔-Iを後にする。




「で、あの2人はどうだったの?」


 管理塔-Iを出たハートマンは、脈絡なくそう尋ねる。

 するとキャブランは、先程までの寡黙さを薄めて今度は饒舌に話し出す。


「恐らくは今回の事件に一枚噛んでいるんだろう。割れている情報を出来レースみたいに探してたしね。おまけに、あの状況で極端なまでに“不自然な点がない”っていうところもおかしい。そっちはどうだった?」

「こっちもプラン通りに進んでくれそうよ。イレース室長は私の想定通り、第三の組織のボスであり、その行動理由は25年前の水爆だ。でもそこからが曖昧なのよね。どうして、こんなことをする必要があったのか……」

「それについては、此処から先が山場なんでしょう? これだけ情報を揃えれば、あとはうちらのボスを問いただせばいい。コクヨウとしては、早急に情報収集及び行動の確定をすれば、ボスもそんなに悪い立場にはならないでしょう」

「正直なところ、二家に歯向かうのは相棒としてやめていただきたい限りだがな」


 キャブランの言っていることは至極まっとうな意見であった。

 二家は魔天コミュニティの中で最も高位な権力者である。それに歯向かえばいくら国家直属のコクヨウであっても無事では済まない。そんなところでこの事態であることを踏まえれば、あまり良くないことは公理といっていいほどの事実だった。

 無論ハートマンはこのことを理解しているものの、それ以上に十分な勝算を感じており、いびつに笑いながらキャブランにいう。


「勿論よ、けれどねキャブラン……もうすぐ、“厄介な味方”がくるはず、そうでしょう?」

「……なるほどね? それがどれくらい役に立ってくれるかって話だがな?」

「確実に持ってくるさ、素敵な情報をね」


 2人は合致した思考で笑う。

 同刻起きていることをしっているような面持ちだった。

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