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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十五章 黙り込む戦火
117/169

相棒

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 今回のサブタイトルは某刑事ドラマとは全く関係がありません。ようやくこの物語の主人公として真っ当な活躍をしている気がします。このやたら長い第15章はもうそろそろ終わる頃合いなのですが、この感じじゃ20章くらいになりそうですね。完結まで向けてごーごーです。

 次回の更新は7月6日12時となっております! 土曜日の更新というイレギュラーなのでご注意くださいまし。


「貴方は一体、どこまでのことを想定しているのですか?」


 それは、今までの一連のハートマンの行動の真意をつく質問だった。


「あら、私は貴方のことを、“ある程度事件に関わっている”と見ているだけですよ」

「……ご助言、感謝します」

「ただ、この戯言を何処まで信じるかは貴方に一任するわ。私が信用に値する情報を提示しきれていないのもまた事実……、だから、最終的な判断は貴方よ」

「ハートマン、貴方はとても知略に優れる。それでいて、コクヨウという特殊部隊に所属している……」

「回りくどい言い方をなさらないでください。仰っていいのですよ? “コクヨウの目的はなにか?”とね」

「では、率直に聞きましょうか?」


 イレースがそう言うと、ハートマンは上品そうに微笑みながら笑う。

 そして、ハートマンの慇懃無礼な言葉遣いを一気に変え、普段の彼女らしい端的な言葉遣いになる。


「一つ言わせてほしい。私は元々、この管理塔-Iで重役についていた。私がコクヨウに所属した理由はね、“すべての情報を知りたい”という純粋な願望のみなのよ。他のコクヨウの連中も変わらない。コクヨウは、好奇心を満たすために所属している。それだけのこと」

「……貴方たちが、コクヨウとしてまとめられた理由がわかりましたよ」

「褒め言葉として受け取っておくわね。さ、解散よ。各々の行動を起こしましょうか。これを渡しておこうかしら」


 ハートマンはそう言いながら、ポケットから通信機を取り出した。それは、見たこともない形の通信機であり、若干怪しい匂いがするものだった。

 怪訝な調子で通信機を一瞥したイレースだったが、ハートマンはすぐに察したのか、くすりと笑う。


「安心してくださいな。これは私が個人的に通信したい人に渡すものなの。いわば、盗聴リスクがなく、メモリーボックスを掻い潜る通信機ね。これからはこれを使ってくださいね」

「なるほど、どうしてこんなもの貴方が持っているのか疑問ですが、ありがたく使わせていただきます」

「国家レベルの情報管理をするにはこれくらいの装備が必要なんですよ。具体的な手法は任せますから、一旦はこれで解散しましょうか」

「わかりました。ありがとうございます」


 ある程度方針を固めたところで、ハートマンはひらひらと手を振りながら去っていってしまう。

 無駄話も多かったが、かなり有益な情報を得たイレースとカーティスは、早速誰もいなくなった室内で会話を始める。

 しかし、その内容は「ハートマンの話を信用するか」というものだった。



「イレース、あの人の話を信じるのか?」


 カーティスはあくまでも疑いの目を緩めなかった。それは、カーティス自身の謎についても、意識し始めていたからでもある。それを理解していたイレースは、すぐさまカーティスに意見を求める。


「……君は、どう思う?」

「俺はさ、自分のことを疑っている、今はね。自分の記憶に残っているのは、確かにグルベルト孤児院で父さんやケイティと過ごした日々だけど、それでは繋がらないものが多いのも事実だ。だからさ、俺は自分の存在について疑問を持っているんだ。俺は、“本当に普通の人なのか”、疑問なんだ」

「普通……?」

「うん、実は思ってたんだ。どうして俺が、こんな大それたことに巻き込まれたのかとかさ、父さんたちの変な反応とか、疑問だったことは多い。俺はそれから目を背けすぎた。きっと、今がそれと向き合うときなんだろう。きっとこれはなにかのめぐり合わせだ、だから、もう少し冷静に見ていったほうがいいんじゃないのかって思う」

「なるほどね。君の言うことは一理あると思う。率直に聞こうか。カーティスはどこまで自分の記憶があるんだ? ハートマンさんの言葉を信じるか信じないかはそれ次第だろうしね」


 カーティスの話を肯定的に受け止めたイレースは、早速カーティスが持っている手がかりを探り出す。

 というのも、イレース自身もカーティスが巻き込まれたことを必然であると解釈しているからだ。今回の複合的な事件は、幾つかの団体が合理的かつ目的に沿った行動を行ったことによって生じた問題であると考えられるため、そこに全く無関係なカーティスが絡むとは到底思えない。むしろ、これまでのどの機関にも属さず、「普通の人間」が巻き込まれたことは不自然である。

 そのことから、カーティスが今回の事件に関わっていることも、「何者かの意図」であると見たほうが現実的だ。


 それならば、カーティスについての情報が、一連の事件を仕組んだ発端を知る手がかりになることは明白であろう。イレースの意図はそんなところだった。


 しかしその一方で、カーティスは自分の記憶に自信が持てないでいた。

 カーティスの記憶はひどく曖昧で、それでいて今まで忌避されていたものだと知っていたからであり、これについて自分に情報がほとんど行き渡っていないことも相まって、カーティスが持っている情報が非常に乏しいものだった。


「いやー……、わからない。俺はイレースみたいに頭がいいわけじゃないから、現状どういう情報が必要なのかもわからないんだ」

「なるほどね。それなら、僕が必要になりそうな情報を話していくから、それに対して答えてほしい。勿論、わからないことは正直にそう言ってほしい」

「あぁ、それなら大丈夫だ。考えるのよろしく」


 カーティスがそう言うと、イレースは早速確認したい事柄に触れ始める。


「じゃあまず、カーティスは小さいときの記憶はある? 具体的に、生後数年程度の記憶ね」

「残念だけど、それについての記憶は一切ない。俺の記憶で最も古いのは、アイザック先生だし、出自については全然知らない」

「それなら、その古い記憶のなかに、両親に関することが一つもなかったの?」

「うん、親のこともそうだけど、どこで生まれたのかもさっぱり」

「……つまり、君のお父さんは君の出自について一切の言及をしなかった、っていうこと?」

「そういうことになるな……なんか、怪訝な感じがするが」


 カーティスの言葉はとても的を射たものだった。

 成人しているカーティスが、孤児院で長いこと生活をしているのならば、少なくともその出自について情報を得ることのほうが現実的だ。にもかかわらず、カーティスは出自について「何も知らない」と主張し、それは直近の記憶操作に原因があるとは思えない。記憶操作は、事件前後の記憶を消し飛ばしただけであろうし、その関与は明らかに乏しいだろう。

 それならば、カーティスの周囲の人物は少なくとも、彼の出自に関する情報を意図的に隠蔽していた、というあまり良くない結論に帰結するだろう。


 そこまでにいきつき、イレースは自分とカーティスの共通項に言及する。


「あまりにも、君の情報がふわっとしている。実は、それは僕も同じなんだ。僕自身、自分がどのようにして生まれたのかも、過去どういう生き方をしてきたのかよく覚えていない。そして、それは今回の記憶操作に原因を持つわけじゃない。これの意味、君にはわかるだろう?」

「……俺と、イレースには似ている点が多すぎる。だからこそ、俺たちがこの状況に立たされているのは、何かしら必然だ、ということ?」

「君も利発じゃないか。明らかに、僕と君は似すぎている。そして、この不可思議な状況に立っている。極めつけは、今回の首謀者からの招待状だ」

「ノア……、ヤツが言っていた、“メモリーボックスを調べろ”ということは、多分ベヴァリッジが俺たちの記憶を消したってことを伝えたかったんだろうけど、どうして俺たちの前に現れたんだろうな。それに、レオンの力を封印したのに、こっちには一切危害を加える気がなかったし、行動が意味不明すぎてな」


 この言葉を聞き、イレースは思慮深く考え直すことにした。

 確かに、ノアの行動は極めて不自然である。しかし、その不自然な行動に合理的かつ論理的な意図を与えるのならば、これは一気に真実につながりうる。

 だが、その意図は、今までの前提を覆すものだった。


「……僕さ、ちょっとヤバめの想像ができることに気がついたんだ」

「はい?」

「僕と君は、共通項が多すぎる。そこから推測するに、僕らの出自は酷似している、もしくは同じであるかのどちらかだろう。そして、ノアが言っていた“メモリーボックスを見ろ”という指示は、こちらだったのかもしれない」

「どういうことだ?」

「考えても見てほしい。ベヴァリッジ様が僕らの記憶を消したって言うことだけを伝えようとするなら、あの場で言えばいいんだ。その場で言えなかった理由は唯一つ、“それを伝える時間がなかった”……だから僕らに、回りくどい方法でこれを伝えたんだ。それなら、ノアが意図したメモリーボックスの情報は多分、まだあるはずだ。僕らが見落としている情報が」

「……それが、俺たちの出自、もっと言えばイレースの出自についての情報であるかも、ということか? イレースにしては、随分と論理的じゃない突発的な考えだとは思うが」

「僕もそう思う。だけど、君との共通項の多さを考えれば、あながち的外れとも言えないさ。それに、僕も気になってはいたんだ。僕自身、どういう誕生をしていたのか、ってね」


 イレースは、少しだけしんみりした調子でそう言いながら、今までのことを振り返るように続けた。


「僕は……とある一点まで記憶がない。そこから先は鮮明に覚えているのだけど、親代わりのベヴァリッジ様を始め、どこかよそよそしい印象を受けたのも事実なんだ。自分の力も上手く使えない、引っ込み思案の僕を、どうしてそんな態度をとるのか、引っ掛かっていた」

「……奇遇だな、俺もだよ」

「え?」

 そして、イレースの話を聞いたカーティスは大きく首を縦に振りながら笑う。


「言葉通りさ。俺も同じような人生だった。どこか少し、気を使われた感じがあった。俺の場合は、アイザック先生だけだけどね」

「……お父さんって、言わないんだね」

「俺は、あの人のことを父親だと思っている。セフィ先生もね。だけど、先生という距離感に甘えているっていうのもある。それはきっと、あの独特な雰囲気を丁度いいと思っているのかもしれないな。そういうところも、なんとなく似ているんだ」

「つくづく、僕と君は似ているね」

「そうだな。俺としては、勉強大好きな変人と似ているのは勘弁願いたかったが……どうやら、バディとして不足はなかったようだな」

「僕としても、一般人を気取った脳筋とバディを組むとは思わなかったよ。だけど、今は最高の相棒だと思っている。これからは、更にそれは深くなるだろうしね」

「勿論だ。俺たちは、最高のバディさ」

「バディ、それならこれから先、僕らがすることはわかるだろう?」


 話を振られたカーティスはすぐさまそれを肯定し、「勿論さ」と笑う。


「メモリーボックスを調べるんだろう? お前の出自を探るって話だ、相棒?」

「流石バディ、早速行こうか、メアリーが見せてくれるとは思えないけどね」

「そういうときは、俺の出番だな?」

「勿論だ。僕の力を存分に使ってくれよ?」


 その言葉に、カーティスは大きく首を縦に振りながら「勿論」とだけ返し、早速ベルベット家に向かい始める。




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