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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十五章 黙り込む戦火
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盤を乱す管理者

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 見ていたドラマが終わって心が荒んでいるので次回もよろしくおねがいします。ついにここに書くことすら浮かばなくなっている…(´・ω・`)

 次回の更新は来週月曜日7月1日20時となっております! 次回もご覧いただければ幸いです!


 ハートマンは、改まった調子で吐き捨てる。


「私は、貴方のことを少し見くびっていたのかもしれませんね」

「どうやら、貴方の言っている“ごっこ遊び”は、私が第三の組織と繋がっていることを断定していますね?」


 これを聞き、ハートマンは更にけたけたと笑う。

 イレースの言葉は、「イレース自身が第三の組織の目的に叶うような振る舞いをしている」というニュアンスが込められている。

 あえて複雑な言い回しをしたいレースであったが、ハートマンはさほど悩むことなく真意にたどり着くことになる。なぜなら、ハートマンはその解答をイレースに期待していたからだ。


「そうね。貴方には悪いけど、私は貴方のことを端っから疑っていたの。だって、貴方不審な点が多すぎるのよ」

「随分とストレートですね」

「貴方、というより貴方の情報を管理しているベヴァリッジが不審、と言いたいんです。イレース室長の記憶をふっ飛ばしたベヴァリッジであることは、一部の連中しか知らない事実です。それは、ベヴァリッジの大義名分があったことは確かですが、何かしら良からぬこともあると思っています。なにせ、貴方はベヴァリッジの記憶操作により失われた空白の間に、貴方が何かしら、今回のビッグ・トラブルに関わっているのは確実だからね」


 そこまで言われて、イレースは押し黙ってしまう。なぜなら、イレース自身、ハートマンが語った仮説を支持する側であったからだ。

 しかし、逆にそれがイレースらがハートマンのことを信用する大きな足がけとなったのは間違いない。

 ハートマンはここまで濃厚な仮説を組みながら、それを他の期間に伝えていないということは、少なくともハートマンはイレース側と提携を結ぼうという意図が見て取れる。そこで、イレースは早速、事を持ちかける。


「……ハートマン、一つ聞きましょう。どうして、私に対して一連の仮説を話してくれたんです?」

「あら、流石に触れます? 私が他の人に話してしまっている可能性も考慮したほうがいいのでは?」

「果たしてそうでしょうか? もし、この話を誰かにしていれば、近いうちに国家内を引っ掻き回すことは日の目を見るより明らかです。そして、今の段階でコクヨウが何かしらのアクションを起こしていない。この中で、貴方たちが絡まなかったのはただ一つ、“そういう命令を受けいていなかった”からだ」

「根拠が薄いわね。もう少し詰めるべきよ」

「それならなぜ、この不自然なタイミングで貴方は動いたんです? いえ、なぜ貴方はここにいるんです? 現在開催されている二家会議が第三の組織により襲撃を受けた。それなのに、なぜ貴方はのんきにここで茶話会を楽しんでるのですか?」

「私は情報収集がメインの業務よ。他の脳筋の連中に任せていると考えることもできるけど?」

「わざわざ、貴方が私とタイマンで話していることがその証拠でしょう。そして、ここまで確度の高い情報を僕に言ったことも、同じ意図に繋がるだろう。教えてください。ストレートかつ、高い信憑性を持つ仮説を、その当人である僕に話したのは、なぜですか?」



 イレースは早口にそういった。そして、それはハートマンを追い詰めた。ハートマンは少しだけ考えた後、微笑みながら言う。


「……それでこそ、“厄介なイレース室長”よ」

「どういうことですか?」

「私の中の、貴方の評価はブラックマーケットに転売されている限定グッズ並に乱高下していますよ。そして、貴方の発言により、急激に高騰しましたね」

「どうやら、お話いただけそうですね?」

「えぇ、率直に言いましょう。貴方の言う通り、私は貴方と協力するためにここにいます。だから貴方にこの話をしたのです」

「私は、貴方のことを味方だと確定しますよ?」

「それについては、任せます。早速、貴方のことについて、私の知っている情報とすり合わせましょうか。貴方の存在は、この事件の空白を完全に埋める最短ルートだと確信していますから」


 断言したハートマンに、イレースはすぐさま口火を切る。


「私は貴方を信用します。しかしそれは、コクヨウを信用するということではなく、私が貴方を信用する、という意味です。いいですか? このことは他言しないでいただきたい」

「それほどまでに重大な情報、ということですね?」

「えぇ。私はこの事件が起きた直前、“カーティス”という青年の人格意識が、私の体にいました。カーティスもこの状況について一切覚えていませんでした。おまけに、同じように2ヶ月間の記憶もごっそりと。恐らくですが、これはメルディス様が行った記憶操作の巻き添えを食らったのでしょう。カーティスという人物については、ご存知ですか?」


 ハートマンは、イレースの荒唐無稽とも思える言葉に特段の疑問を持つことなく首を傾げる。


「……何かしら、関係があるんですね?」

「オオアリです。カーティスは孤児であり、彼が住んでいた院はグルベルト孤児院という名前です。あの事件の被害者であるグルベルトの名前が冠されていることから、事件と何かしらの関係があることは濃厚です。グルベルト孤児院について、なにか知っていますか?」

「まぁ、私の持っている情報とすり合わせることはすべて出揃ってからにしましょう。続けてください」


 なにか意味深にそう促したハートマンに対して、怪訝さを感じたのはイレースだけではなく、カーティスも同じだった。

 カーティスは即座に、「本当に信用できるのか?」と尋ねるものの、それに対してイレースはとりあえずハートマンを信じる旨を伝え、すぐに「信じてみる」と返して、更に続ける。


「わかりました。グルベルト孤児院には、とある重要人物が職員として勤めています。それが、サイライの中心人物であり、DADの原理を開発したアイザック・マクグリンその人だったんです。そして、カーティスはアイザック博士を父として慕っていて、現在、彼はこの魔天コミュニティで情報収集をしています。この情報について、どうぞ内密にお願いします」

「……なるほど、随分と、ビッグ・トラブルに付け合せをしてきたものですね」


 あまりにも急転直下の情報に、ハートマンは皮肉を言うようにつぶやいた。

 そして、すぐに考える仕草をした後、早速自分の情報とすり合わせるように「答え合わせ」を始める


「さて、早速すり合わせましょうか。私が持っている情報で、一連の情報に補足をするのなら、グルベルト孤児院は“天獄”と繋がっている、ということです」

「“天獄”?」

「貴方が知っているのかはわからないけど、天獄はルイーザの社会においてイレギュラーな便利屋です。その多くの情報が謎に包まれているが、“魔天に関係する人物が所属している”ことが示唆できる情報が数多い。どれほどの者が天獄をどのように捉えているのかわかりませんが、私は、天獄に所属しているのは、消息を絶っているエノクであると考えています。しかし、彼らがこの事件に関わっているのは未だ不明です」

「どういうことですか?」

「おおよそ言葉通りです。この件にはエノクが関わっているが、一方でルイーザでは天獄への経済制裁的なことが起こっています。そして、第三の組織はそれを利用している。これらの点から、天獄のメンバーは、半分が第三の組織として活動していて、もう半分が別途真実を求めていると推測できる。これらの情報は、私個人の筋から得た情報ですから、信憑性は高いかと」

「それについて、深い言及はしないでおきましょう。それで、私たちにできることは?」


 情報のすり合わせを行った2人は、早速次なる行動を考えるべく話を振った。

 すると、ハートマンは待ってましたとばかりに言う。


「そのことです。問題なのは、第三の組織に乗っかった魔天コミュニティの思惑も同時に相手取らなければならない、ということです。そして、それはメルディス、トゥール、ゲリラ団体宴、この3つの団体の目的も大切なんです」

「なるほど……トゥール派の目的は“ルイーザ全土の支配”であることはわかっていますが、他の2つの団体は未だ不明瞭、ここがわからない限りは迷宮から脱する事はできないのでしょうね」

「宴は、それこそどちらの派閥の中立で活動しているフシがあるので既に調べています。宴のリーダーであるエンディースは、前リーダーであるケルマータを心酔していたことと、今回の行動を見れば、ほぼ確実に天獄への復讐でしょう。だから非現実的なトゥール派のプランに乗っかったと思われます」

「それなら、トゥール派はどうしてそんなことをプランに組み込んだんでしょうか? ハートマンさんだって、非現実的って断言しているんだったらパールマンが承諾するとは思えないですが」


 イレースの指摘を聞き、ハートマンは首を縦に振りながらその疑問点について言及する。


「そこです。トゥール派は、これから行われる総選挙の票獲得として、ルイーザ破壊計画を提案しました。正直、今までのトゥール派はこんなバカみたいな手段を取ることはありませんでした。それがこの重要なときに、無能っぷりを発揮するのは想定外。何かしら裏の意図があるのではと情報を洗いまくってるんですが、参謀パールマンは完全に動きを止めています。私の情報網を持ってしても、たどり着くことができませんでした」

「……情報が出てこない?」

「えぇ。今までは、パールマンという名前を複数人に使わせて、正体を撹乱していましたが、パールマンはそれすらもせずに完全に沈黙しています」

「それ、給料泥棒じゃないですか」

「調べてみると、パールマンは2ヶ月ほど前から“夏休み”をとっているらしいですが……どこまで真剣に夏休みをしているのかはわかりませんね」


 「夏休み」というひどく馬鹿げた響きすらも、この状況ではあまりにも不気味だった。パールマンが、およそ偶然とは思えぬタイミングで休暇をとっているということは、事件に絡んでいることは間違いない。つまり、これはとある厄介な示唆に繋がるのだ。


「……まさか、紛れ込んでいる可能性が?」

「その通り、多分既に、ヤツはこのトラブルに参加している。ここまでパールマンの行動がないということは、恐らくとんとん進んでいるのでしょう。ですが、ここから我々がベストな着地点に持っていくことを考えれば、それを避けては通れないでしょう」

「えぇ、少なくとも、“パールマンが紛れ込んでいる可能性が示唆できる”段階で、僕らは信頼して進めることができる人物は本当に少ない。区域Aの職員でも、信頼できるのはイリア位だ。率直に聞きましょう、これからどうすべきでしょう?」


 イレースの訪ねに、ハートマンはすぐに答える。


「現在開催されている二家会議は何者かの襲撃により、一旦は中断しています。恐らく、今回のビッグ・トラブルの収束地点となるでしょう。我々はそこに入り込み、話を完全に収束させます。それ以外に、最良の着地点に落とし込むのは難しいと思います」

「具体的には、どうすれば?」

「わかりません。重要なのは、各々がどのように行動するか、ということです。詰まりはかなり臨機応変な対応が求められる。そして大切なことは、我々の思っている“最良の着地点”がなにか、です。貴方は、何を求めるのですか?」

「……すべての真実を解き明かすことです」

「素晴らしい解答ですね。ですが、答えを解き明かすことは具体的な方法論にはなりえません。そのすり合わせは、どうしましょう?」


 ハートマンは、続けて「実はですが」と口火を切る。


「我々は、最低限ルイーザが消し飛ばない状況に持っていくこと、です。そして、方舟の多くの権限が、魔天コミュニティを無力化することです」

「確かに……、今回の事件を収束させる最短は、方舟を食い止めることですね。それなら、ビッグ・トラブルの収束に繋がります!」

「ということは、お互いの目的に叶うということで宜しいですね?」

「えぇ、そしてそのためには僕のなくなった記憶が鍵を握っている。それを探すことがこれからの方針ですね」

「そういう感じね。さて、これから私たちは行動を二分することになるのだけど、此処から先が重要です」


 少しだけ微笑みながらそういったハートマンの顔は少し皮肉っぽく、同時にかなり面倒くさそうである。その表情の真意は、すぐにイレースらにも周知されることになった。


「先程の話から、パールマンは既に魔天コミュニティでこそこそ行動していると思われます。そこで、私はハミルトンが疑わしいと考えています」

「彼が……?」

「ただし、パールマンがハミルトンに化けているというわけではありません。恐らく、パールマンは表立って行動していないだけで、必ず行動を確認しているのでしょう。今までの活躍的に、パールマンが本気でコソコソ行動しているのなら、探りようがありません」

「それならなぜ?」

「ハミルトンは確かにパールマンが唯一信用する人物ではありますが、彼も慈善事業で行動に加担しているわけではないでしょう。ハミルトンが望んでいる見返りを用意しているはず、そこも頭にいれて行動しましょう」

「わかりました。それなら、目的は2つ、僕の記憶を探すこととハミルトン周辺を調べることですね」

「えぇ、そういう感じにしましょうか。私は後者を、イレース様は前者を探ってください。ただし、できる限り、貴方の記憶は“貴方だけで”探してください」


 このハートマンの忠告は、イレースも承知するところだった。それは、「イレースの周りの人物すらも信用に値しない」ということであり、どんな人物も、今のところは信用しないほうがいい、という忠告だった。

 これは、イレース自身が今回の事件に関わっている可能性を考慮した忠告でもある。国を代表するレベルの科学者が、謀反レベルの事件に関わっていたとするなら、話はもはや沽券に関わる程の大事だ。それを思っての発言でもある。


 これらの水面下のメッセージを読み取ったイレースは、すぐにハートマンに対して尋ねる。


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