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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十五章 黙り込む戦火
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首謀者ごっこ

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 今気がついたのですが、一部投稿予定時刻に投稿されていないものがありました。こういう人為的ミスが最近かなり増えているので、少し頭をさっぱりさせたいと思います。休むとかではないのですが:)

 次回の投稿は今週金曜日28日22時となっております! 次回もご覧いただければ幸いです。


 だが、話を伝えたときのハートマンの言葉は、かなり意外なものだった。


「聞きたくないお話だったかもしれないわね」

「どういうことですか?」

「……実は、このトラブルは不思議なところが多かったのよ。なぜ、莫大な力を持っているはずの第三の組織は、ここまで回りくどい方法で隠密行動をしたのか。そして、どうしてその第三の組織に対して、国家側が、ともすれば第三の組織の肩を持つようなマネをしているのか。このビッグ・トラブルに一つの糸を通すことになったわ」

「え?」

「情報のお礼に、私が考えている、このビッグ・トラブルの筋書きをお教えしましょう」


 ハートマンはそう言いながら、複雑難解な一連の問題を紙とペンを持って説明を始める。


「さて、この話を始める前に、このビッグ・トラブルは“25年前の事件”と“100年前のサイライ事件”が関係している。その根拠は、今回の面倒事に関わっている者たち、場所があまりにもあの2つの事件と同じものだ。あの事件に関わった者たちは全員が、“無駄なことはしない主義”だから、そういう連中が一堂に会するって言うことは、“そうしなければならないことがあったから”だと思われる。私は、その根源を知っている。イレース室長、貴方はどうですか?」

「……いえ」

「そうでしょうね。実は、ザイフシェフト事件の少し前、エノクδがルイーザで大暴れしています。そして、そのときに作られた超巨大水爆が開発されています。それは未だに起爆することなく、あの街に眠っている。恐らく、今回の一連のトラブルは、ここが発端でしょう」

「待ってください! なぜそう言い切れるのですか?」


 イレースは驚きながらもそう尋ねる。水爆について話されたのは初めてであるが、それ以上に、ハートマンの限定的な口ぶりがとても気になったのだ。自らも「複雑」であると断定しているハートマンは、明らかに一連のトラブルにかなりの当たりをつけていることになる。

 その根拠について、イレースは求めているのだ。この問いかけに、ハートマンはつらつらと話し始める。


「それは、方舟の権限の多くが魔天コミュニティにあるから、です。これは想像ですが、エノクδがルイーザで暴走していることから、現在もエノクδはルイーザで活動していると思われます。もしかしたら、他のエノクも巻き込んであの場所を守りたいのかもしれませんしね。そして、最たる理由は、エノクや重罪人であるノアが加入しているはずの第三の組織が、これほどまでに隠密に行動する、“最も妥当な理由”になりうるからですよ」

「……それ以上の根拠は?」

「それは、貴方に任せますが、私としては他に理由があるのなら知りたい限りですね。莫大な力を持つ第三の組織が、こんな回りくどい方法でコミュニティに宣戦布告してきたのかを……」


 ハートマンは、ケタケタと笑いながらそう告げる。それはイレースにも同じことを考えていた。

 エノク、そしてノアという謎めいた力を持つ第三の組織が隠密行動をわざわざ取り、かつ未だに魔天コミュニティに対して執着という名の圧力をかけているという大きな謎がそれを物語っている。

 この厄介なトラブルに対して、更に根拠を添えるように、ハートマンは人差し指をイレースに向けながら言う。


「エノク、ノアは魔天コミュニティが梃子でも動かないことを知っていた。だから、回りくどく外堀を埋めていくしかなかった。そして、その一連の計画がこのトラブルで、第三の組織に乗っかった宴やトゥール派があっちこっちで動きまくったから、トラブルがここまで難化した。私はそう思ってるんだけど……さて、ここで一つ、不思議な事が起きたんですよ」

 それまで順調に話していたハートマンだったが、一つ不自然な事柄について言及をする。


「謎めいているのは、貴方の存在です」


 この言葉に、イレースは驚愕する。それは、全く想像していなかったものだったからだ。

「……僕の?」

「貴方がどこまで、自分のことを知っているのかわからないけど、貴方はサイライ事件に関わり、かつベヴァリッジが貴方の情報を不当に隠匿している。そして、貴方はこの事件の直前に姿を消している。タイミングがあまりにも完璧ですし、恐らくは何かしら、一連の事件に関わっていると思っています。管理塔-Iに、貴方が自らの出国記録を調べていたのを見て確信しました。室長、貴方はこの2ヶ月の記録を失い、貴方も関与を疑っている。そうでしょう?」


 ハートマンの考察はかなりの水準で的を得ている。しかし、その解釈については大分違っていて、2ヶ月間の記憶が「手がかり」として見ているイレースらに対して、ハートマンは「明確な関与」として見ている。

 これは字面以上に意図が違ってくる。ハートマンは明らかに「イレースは事件に関わっている」と断定している。端的にいうのなら、イレースの考えと真正面から対峙する形で解釈がずれている。

 これに対して、イレースは、率直にそう解釈した根拠を尋ねる。


「そのとおりですが、どうして僕らが関与していると断定しているのですか?」

「……第三の組織は、魔天コミュニティに対して“知りすぎている”んです。彼らの立てた計画は、内情を熟知して行動しているのが根拠とした。それでは不足ですか?」

「いえ……、でもそれは、第三の組織がやろうとしている行動をある程度わかっていないと判断できないと思います。それ織り込み済みで、と判断していいのですね?」

「えぇ。そう判断していただいて構いません。彼らはその力を使い暗躍している。これが私なりの根拠です。正直なところ、私は彼らの目的を正確に把握しているわけではありません」

「……たった一行で矛盾を生むなんて素晴らしいですね」


 ハートマンの矛盾たっぷりの言葉遣いに、イレースはそう返したものの、彼女が「第三の組織の目的を把握した」と断言した理由はイレースも分かっていた。だからこそ、この皮肉は、完全な「ブーメラン」になり得る。


 というのも、エノクらの力はそれほどに大きい。彼らの力を持ってすれば、できないことは限定されると言っていいだろう。単体で国力を遥かに上回るエネルギーを保有し、それを自在にコントロールできる集団であるのだから、彼らが「隠密な行動」を取る理由がかなり限定的だ。

 その限られた選択肢の中で、数々の機関にスパイを入れ込み、内部から手を回す「潜入役」と、表層で大暴れして目的どおりに事を進める「撹乱役」に分かれて行動したこと、そこにルイーザに取り残された「方舟」を付け加えれば、その答えは自ずと見えてくる。


「……方舟は、その権限の多くが魔天コミュニティにある。そして、第三の組織はその方舟の無力化を行うために動いている。彼らの目的は率直に、“魔天コミュニティの無力化”、ですね?」

「流石、科学者様。私の言いたいことをトレースするなんて、相思相愛かしら?」

「あいにく、私は科学者失格です。エビデンスを重んじる科学者にとって、これは手元にある情報からの推測です。やっていることはいわば、探偵と言った所でしょう」

「探偵ごっこは大好きなの。室長と一緒に刺激的な“ごっこ遊び”は、これからどう進むのかしら」

「……どういうことですか?」


 イレースには、今のハートマンの言葉が随分と棘があるように感じた。それは、全ての真実を見透かした上での発言のようであり、彼女の呟いた「ごっこ遊び」の真意は、直前の「探偵ごっこ」という言葉とは違うニュアンスをはらんでいるようだった。


 無論、彼女もイレースの言葉の真意を理解し、歪に笑いながら言う。

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