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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十五章 黙り込む戦火
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白紙のカード

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 こういう、目的が違う人たちが最終的に共闘する的な展開ってかなり胸アツだと思っているのですが、皆様はどうでしょう。私は大好きです(*´∀`*)

 次回の更新は来週月曜日24日20時となっております。次回もご覧いただければ幸いです!


 ハートマンは嘲笑的な表情でハミルトンを一瞥すると、あどけた調子で言う。


「ハロー、ハミルトン、管理塔-Iのトップになったんですって?」

「これはこれはハートマン様、なにかありましたか?」

「そうなのよ~、件のトラブルのための情報収集よ。国家権力を使って早速情報を見せてもらいたいわ。秘匿情報を教えてくれれば、それ相応の賄賂は弾むわよ?」


 すると、ハミルトンは同じように笑いながら指摘する。

「汚職事件って言葉知ってますか?」

「知らないわねー。ま、どちらにしても国家危機に関わることなんだから、ただで情報を開示しなさい」


 傍若無人極まりないハートマンの振る舞いを間近で見ていたイレースとフーは、死んだ顔で2人の攻防を一瞥した。


「ついでに職権乱用っていう言葉もあるんですよ。あと言葉も選んでください」

「端的に言わせてもらいましょう。トゥール派の電子履歴表をお願いするわ。私の発言はメルディス様のそれよ」

「この人まだ言うのか」

「国家的危機……、そういうことよ。公務執行妨害でひっ捕らえてもいいのよ。逮捕権ないけど」

「どうやら、貴方に噛み付いてもいいことはなさそうですね。すぐに用意しましょう」

「理解の早い男の子は大好きね。さ、私たちは自由閲覧コーナーで情報漁りでもしましょうかしら……あら?」


 喚き散らしたハートマンは、そこまでいってイレースを見つけ、手をたたきながら声をかけてくる。


「あら、貴方、イレース室長じゃない。会うのはお久しぶりね」

「あ……コンニチワ」

「緊張しなくてもいいわ。私はただ、コネが使いやすいここに来ただけよ~。それもただの、情報収集~……横にいるのは、元トゥールね?」

「流石、情報の覇者ですね」

「ふふ、管理塔-Iは、元々私の牙城ですもの~。名前は確か……フーさんね?」

「末端の名前すらも覚えているなんて、変態的な記憶力だ」

「お褒めの言葉として受け取っておくわ。さてさて、イレース室長さん? 貴方は何を求めてここにやってきたのかしら?」


 ハートマンは、話を急展開させるようにイレースに尋ねる。

 その真意については不明であるが、少なくとも敵ではないと思われるハートマンからの質問からか、特段気にせずイレースは話そうとする。

 それを制したのは、イレースの中のカーティスだった。


「おい待てよ! あの人だけならともかく、目の前にハミルトンってやつがいるんだろう? 少しリスキーだと思わんか?」

「え」

「さっき、フーさんだって言ってただろう? 信用ならないってさ。だからここで話さないほうがいいんじゃないのか?」

「あぁ……確かに」

「お前、なにか追い詰められてないか? 明らかにポンコツになってるぞ」


 どうにも頭が働いていないようなイレースに対して、カーティスは少し怪訝な素振りでそう尋ねる。それは、今までにも何度かあった「イレースの思考の鈍り」である。短い付き合いであるが、カーティスはイレースが何らかの精神的負担があった場合、極端に思考力が鈍ることはよく知っている。


 だが、今のイレースはそれまでにはなかった「警戒心の薄さ」が如実に出ているのだ。今まで、思考がまとまらないということは何度もあったが、警戒心が衰えることは少なかった。少なくとも、決定的な地雷を踏むことはなかったはずだ。

 そして、イレースはまさに今地雷を踏み抜きかけている。辛うじてその制止によって、ピンポイントで地雷を踏むことは避けたものの、この状態で話が進むのは地雷原を歩くのと変わらない。


 しかし、この状況においても危険であることは大差ない。現実に見れば、イレースとカーティスの会話は外には伝わらず、イレースはただぼーっとしているだけなのだから、不審極まりない。

 あまり長時間会話することも難しいことを理解したイレースは、とりあえずこの状況を乗り切ろうと、ハートマンに話す。



「あ……えぇっと、ハートマンさん、実はメモリーボックスのことでお話したいことがあって、今いいですか?」

「あら~、メモリーボックスの開発に携わったこの私が、貴方様の力をお貸ししましょう? そこの2人、とっとと情報を取ってきなさい」

「管理塔-Iのトップを顎で使う人は貴方くらいですよ。さ、フーさん、手伝ってください」

「……雑務程度なら」

「ほらほら~、頑張りなさい国家公務員~」


 まさかまさかの行動に出たハートマンは、すぐにイレースに対して「相談室でも借りましょうか」と相談室の扉を指さした。

 そして、キャブランにも同様の仕草で、ハミルトンらについていくように指示を出す。

 それを確認したキャブランは、すぐに首を縦に振りながら「じゃあ2人共、手伝ってくれ」と言いながら2人を連れてどこかへ行ってしまう。


 しっかりとこれを見届けたハートマンは、少しだけ微笑みながらイレースらと共に相談室に入り、すぐに笑いながらイレースに話しかける。


「さて、イレース室長? お話いただけるでしょうか? 事の顛末を……」


 その言葉は実に明白に「ハートマンの意志」を伝えるものだった。ハートマンがイレース側の真意を理解したように、あえて二人っきりの状況を作り出し、そんな言葉を投げたのか。

 それは、「お互いに同じ思考の中にある」ということだった。


「ハートマン、貴方はどこまでのことを知っているのですか? 今回のトラブルについてを」


 対して、イレースはハートマンの行動の真意を探るようにそう訪ねた。

 すると、ハートマンは首を縦に振りながら、表情を不気味に歪め、口調を常体にして語りだす。


「私が知っているのは、ここで起きた事の顛末のみ……おまけに、君に何が起きたのかすらもわからない。とりあえずは、君に起きた事柄について教えてほしいね」

「わかりました。ただ、こちら側に、僕らが貴方を“敵ではないと判断する理由”はない。それでいてこちら側に話を持ちかけるなんて、都合のいい話ではありませんか?」

「勿論。それについてはこちらも承知の上だ。だからこそ、私は取引を持ちかけたいとも思っている。さーて、そこでだ。我々が知っている情報、いわばコクヨウが知っている情報をお伝えしよう。それで、君に判断してもらいたい」


 女性的な口調とは打って変わって淡々とした口調となったハートマンに対して、イレースは警戒して「少し待ってください」と前置きをしながらカーティスに相談を持ちかける。



「どうすればいい?」

「考えることは俺の専門じゃねーが、素人目には相手の意図を探る事が大事に思えるな」

「君は素人にしては玄人すぎるな」

「文法どうなってんだこれ」

「言葉通りさ。どっちにしても、僕も同じことを考えていたんだ。相手の意図は、現時点では不明瞭……この点をどう思う?」

「それはちょっと素人には」

「……もう直接聞いてみるか」


 相変わらずの適当思考に、カーティスは若干呆れと怪訝さを覚えながらも、現段階で判断をするにはあまりにも情報がなさすぎる。そうなると、ここは真相のみでハートマンを欺き、尚且相手の状況を判断する必要がある。


 かなりの実力が問われるが、当然ながらイレースにその実力があるかは怪しいところだ。本人も不安げであるが、余裕たっぷりのハートマンの笑みを一瞥し、意を決して話し始める。


「率直に聞きましょう。コクヨウは……いえ、少なくとも貴方は、味方と判断していいのですか?」

 イレースの言葉に対して、ハートマンはより一層笑みを強めて、また同じように口調を翻して話し始める。


「真実は、貴方が判断することですから、私から言及することはできないわ。ですが、私は貴方の判断材料について言及することはできる。まず、私たちコクヨウは、メンバー間に明らかな情報格差が存在しています。例えば、つい先程行われていた二家会議が、何者かによって襲撃され、一時中止になっている……この情報は、フラーゲルが二家のベルベットから得た情報でした。フラーゲル経由でなければ、コクヨウはこの情報を知りえませんでした」

「つまり、フラーゲルは、他のコクヨウが知らない情報を知っているということですか?」

「解釈は委ねますが、私は、というよりは私とキャブラン、そしてバートレットとジャーメインはほぼ同程度の情報を共有しています。それは、魔天コミュニティで起きた一連のトラブルの顛末に限られる。そして、ルイーザ全土でのトラブル、二家に関係するものはこれに含まれない」

「それなら、残った部分の情報を補填すれば、十分ですね?」


 その言葉を聞き、ハートマンはイレースに「信用に値する、という解釈でいいのかしら?」と尋ねる。


 無論、これにイレースは首を縦に振り、ハートマンに欠如している情報を補填し始める。しかし、カーティスのことまで伝えるのは流石に危険であると判断し、現段階ではこの情報を伝えることは避けることにした。



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