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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十五章 黙り込む戦火
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多角的な疑念

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 15章に入って、なんだかスパイ映画を見ているような気分になったりならなかったりしています。方向性がなんか変なところに向いているような気はするのですが、次の16章では見事に殴り合いになるので特段心配はしていませんハイ

 次回の更新は今週金曜日21日22時となっております! 次回もご覧いただければ幸いです(*´∀`*)



・魔天コミュニティ 管理塔-I



 一方、同刻ベルベット邸を出たイレースとフーは、早速手がかり探しを始める。

 しかし、それについての目的も当ても残念ながらなく、イレースはフーに苦しく尋ねる。

 それは、半ば喚くようでもあり、本人もかなりの混乱があるようだった。


「僕が一体何をしていたのか、全然思い出せない!! 何か知らない!?」

「頼むから落ち着いてくれ。俺の知っている段階では、イレース室長は2ヶ月間別途の仕事をしていて、区域Aには恐らくなにもない。Bについてはわからないが、基本的限定的な状況でしか使わないBになにか情報があるとは思えないのが本音だ」

「それなら……区域Bを調べるのは愚行……? 今は少しの時間も惜しいし、できる限り効率的にいきたいから、フーもなにか意見を出してほしい!」


 混乱しているイレースに対して、フーは「まぁまぁ」と声をかけ、イレースの記憶を取り戻すための手段を講ずる。


「そうだな……、あ、そうだ。管理塔-Iに行って見たらいいんじゃないか?」

「確かに、情報はありそうだけど、開示してくれるかな?」

「メモリーボックスよりも、使用履歴とかは簡単に開示してくれると思うし、マシじゃないか?」

「あぁ……」

 妙に納得させられたイレースに、更にフーは説得力を付すように補足をする。


「それに、室長は2ヶ月間、少なくともこの場所で活動しているわけではないと思うぞ?」

「え、それってどういう?」

「だって、室長は姿を消す前に、“少しコミュニティから離れるから、連絡が取れないかも”って言い残してたぞ」

 ここに来てまさかの情報を聞いたイレースは混乱したように息を呑み、同時に意識化に現れていないカーティスは思わず吹き出してしまう。勿論、その理由は「そんな大切な情報をなぜ言わなかったのか」というものであり、同じような疑問をイレースも感じることになる。


「は……?」

「だから、恐らくはこのコミュニティ外に、なにかしていたって言う可能性があるな」

「それ、もうちょっと早く言ってよ……」

「いやー、言われなかったから」


 当たり前と言われれば当たり前の反応に、イレースは「そうだけどさぁ」と困惑を示し、すぐさまその時の状況について深く尋ねる。


「その時、僕はどこに行くって言ってた!?」

「えぇい、ちょっと待ってくれ。2ヶ月も前の記憶をそんな正確に覚えてない……待ってよ……確か、あの時は、なんだっけかな。俺もよくわからないんだよなぁ」

「そこをなんとか……思い出して!」

「いや、だって室長はほとんど俺たちに何も言わなかったし、なんか訳ありなのかなって……“家族的な意味”で」

「あ……それは確かに聞けないよね……って、納得している場合じゃないよなぁ」

「ま、もし仮に、別の場所に行くにしても、転送装置の履歴くらいは残っているだろうから大丈夫だろう?」

「あぁ、そうだね……」


 あくまでも冷静であるフーに対して、イレースは首を縦に振り、早速言われたとおり管理塔-Iに向かう。



 管理塔-Iは、情報管理という国家的な危機に直結しうることから多くの専門職が複数人で業務を担っている。

 ありとあらゆるものを傍受し、尚且それを記録し続けるメモリーボックスは膨大な情報を保有するという性質から、どうしても「手軽さ」と「優先順位」に欠けてしまう。それを分類し保護する機関である管理塔-Iは、その情報をより民間人および関係機関に届ける役割を持っている。いわば、メモリーボックスに保管されている情報そのものの伝達を担っている。


 そこに行けば、殆どの情報は手に入ることは間違いない。しかしそれは、種類別に分類されるものであり、実際に見られるかはまた別の話である。特に、出国記録に相当する「人間社会への記録」となれば、その利用方法が不明瞭であればほぼ確実に見ることはできないだろう。

 そんな一抹の不安を持って、イレースは管理塔-Iの受付に事情を話すことになる。しかし、半ば想定通りの答えが帰ってくることになる。



「残念ながら、転送装置の履歴については、それに足る十分な理由が認められない限りは、開示することができません」


 テンプレートな対応に対して、イレースは必死に食らいつくことになる。

「待ってください! 今は有事であるはずです。二家会議でも、こちらの情報の重要性についても語られているはずですよ」

 機械的な受付だったが、「二家会議」という名前を聞いた瞬間、顔色を変えてすぐに話し出す。


「……待ってください。今、担当者を呼ばせていだきます」

「お願いします!」


 直ぐに電話をかけた受付は、もうこれ以上関わりたくないといった感情の滲み出る表情でそう言った。


 数分程度、受付の前で待っていると、責任者であるハミルトンが姿を表す。ハミルトンはトゥール派に所属しているものの、公平な態度で接する好人物であることから、人間側への交渉なども担っている重要な人物である。


「管理者のハミルトンだ。会うのは初めてだな、イレース室長」

「僕も……お名前だけは存じています」

「フー、あんたに至っては久しぶりだな。派閥を変えてから会うのは初めてだったかな?」

 ハミルトンが軽い口調でそう言うと、フーは話しかけるなといった雰囲気で突っぱねる。


「どーも」

「上等な返しだな。さて、必要な情報はなんだ? このコミュニティで起きている事態については理解しているつもりだから、なんでも言ってくれ」


 ハミルトンとフーはお互いに適当な挨拶をした後、イレースに開示を希望する情報を尋ねる。

 すると、イレースは首を縦に振りながら、自身の出国記録を尋ねる。


「僕の出国記録を!」

「出国記録? あったかなー……、どこへ出国したかはわかる?」

「いや……その、実はその間の記憶が全くなくて」

 支離滅裂とも言えるイレースの発言に対して、ハミルトンは特段疑問を持つことなく口火を切る。


「あぁ、なるほどね。だからわざわざ自分の出国記録なんて求めてきたんだ。ちょっとまって、今から調べてくる。ただし、出国記録は転送先の履歴と符合したものしか記録されていない。それ以外の、いわゆる“エラーデータ”に関しては、メモリーボックスで特別な権限によって保存されている。ちょい試行錯誤が必要になるかもしれないね」

「お願いします。できる限り迅速に」


 イレースがそう口添えすると、ハミルトンは笑顔で手を上げ「できる限りはね」という言葉を残してそそくさと去っていってしまう。

 すると、フーはため息を付きながら、「鬱陶しい奴だ」と悪態をつく。


「……なにか、彼とあったの?」

「同期なんだ。あいつとはね。まぁ、飄々としていてよくわからんヤツだ。室長、あいつの話は半分程度に聞いておくべきだ。絶対に、ではないがな」

「トゥール派だから?」

「流石にそこまで偏見にまみれているわけではないさ。科学者たるもの、エビデンスに基づく主義なんだ。だが、あいつも前科は多い。フラーゲルと並んで、信用ならん人物だ。イリアもアイツのことは嫌いだろうしな。あいつらはすぐに味方を売るタイプだから、顰蹙を買うのはまぁ仕方がないというか、妥当な結果だわな」

「なるほどねぇ……」


 イレースが言葉に詰まったのとほぼ同時に、ハミルトンは笑顔で書類を持って戻ってくる。


「室長さん、あなたの出国記録がありましたよ。これがその資料だ」

「ありがとうございます!」

「なにか不思議な記録などはありましたか?」

「特段不思議な記録はなかったけど……ただ、ベヴァリッジさんからの承認を受けている、明確な理由のある出国だったみたい。その割に、場所はルイーザの、旧ザイフシェフト地区だったから、目的は気になるね」

「……ベヴァリッジ様からも承認があったんですか?」


 まさかの情報に、イレースは驚愕しつつさらなる真実を求めてハミルトンに尋ねる。


 勿論、ハミルトンがその答えを知っていると思っているわけではない。必要なのは、情報の管理を行う管理塔-Iの責任者であるハミルトンの視座である。科学者としてのイレースの視座からは読み取れない情報や、わかっていない空白に答えを出しているかもしれない。そんな淡い期待を込めての質問だった。

 それを尋ねられたハミルトンは、少し考える仕草をした後、自身の考えを話し始める。


「考えられるのは、メルディス側の利益になることだろうが……実際、ルイーザでどういうことをしていたのかはわからない。何か秘密裏に調べることがあったとかだろうか? それ以外なら、メルディスの個人的な依頼かもしれない」

「それなら……現時点では、理由はわからない、っていうことですよね?」

「そういうことだ。だが、室長さんは確実に、ルイーザに渡っている。その事実は明白だ。話は進んだかな?」

「えぇ……とりあえずは、とても有益な情報でした……」


 ハミルトンにそう言ったものの、確定的な情報が乏しく、参考になったのかというと曖昧なところである。少なくとも、この状況を打開する情報では到底なく、しかしこれ以上の情報は恐らくないだろう。

 それを理解しているからこそ、イレースは首を縦に振るしかなかった。


 完全に手詰まりとなったときだった。後方からハミルトンに声を掛ける2人の人物が現れる。

 それは、コクヨウに所属しているハートマンとキャブランだった。

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