管理者の秘密
前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)
この部分はかなり情報量の多い部になります。今までのフラグを一つにまとめつつ、次のアクションを考えるみたいな、書いていても一番頭を使った部分だったりします(*´∀`*)
次回の更新は来週月曜日10日となります。次回もご覧いただければ幸いです!
・魔天コミュニティ フレックス病院
ビアーズからの指示を受けたコクヨウらは、その拠点を一旦フレックス病院の一室、具体的にはエノクεことレオンが眠っている病室に置くことにし、全員が集結する駄弁を繰り広げていた。
その場にいたのは、ハートマン、キャブラン、バートレット、ジャーメインなどの簡易集会場で集まったときの面々に加えて、フラーゲルやネフライトが退屈そうにまだ来ていない面々について言及する。最初に口を開いたのは、ハートマンである。
「あと集まってないのは、リンデマンとコノプカかしらね。あとリーダーも」
これに対して答えたのは、戦闘員であるバートレットだった。
「潜入している”オフィリア”を除けばそれだけだね」
「コクヨウの中でも特に、メルディスに忠誠を誓っているのが彼女だからね。だがそれよりも、リンデマンとコノプカについては私たちも重く見たほうがいいと思うのよね」
「僕らハクヨウ出身としては、できる限りあの2人と関わりたくないね。フリーランスの傭兵の中でも一際厄介な存在だ。ね~? ジャーメイン?」
突如話を振られたジャーメインは、バートレットの言葉に対して大きく首肯し同僚でありながら、全員から煙たがれるリンデマンらについて愚痴をこぼす。
「全くだな。せめて国防に関する任務に関しては、フリーの仕事と並行的にやらないでもらいたいな」
「まぁ、あのパールマンからの依頼だったんなら、仕方ないっちゃ仕方ないよね。ついでにそれ相応の利益もあれば御の字だし」
「パールマンな~、ヤツは随分なことをしてくれたよな」
意味深な2人の会話に、フラーゲルは「あの秘密主義者、何かしたの?」と尋ねる。
すると、バートレットに代わってハートマンが「パールマン」の正体について話し始める。
「パールマンが今まで秘密主義者として徹底してこれたカラクリが、つい最近分かったのよ」
「へぇ~、化物たちから悟られない方法について、お聞かせほしいわね」
フラーゲルの言葉に対して、ハートマンは疑問を抱くように笑う。
「あら、貴方が知らないなんて、少し驚いたわ。パールマンは、トゥール派の適当な人材に金を握らせて自らの名前を片っ端から名乗らせたのよ。職務についても同じで、不特定多数の人材にパールマンを名乗らせ、署名にも同様にパールマンを書かせる。そして本物のパールマンは報告に受けた仕事をしつつ、自分の仕事もする。いわば金で分身をばらまいたようなものね」
「それ、職務に支障が出るんじゃないの?」
ハートマンの情報に、フラーゲルは呆れ気味にそう尋ねる。
すると、ハートマンはつらつらとこの厄介なからくりについて話し始める。
「そりゃ、名乗らせる人物は精査しているわよ。流石にね。パールマン本人は、部下のハミルトンと大好きなイルシュルにしかその素性を割らせていない。だから普段はその二人を隠れ蓑して職務を遂行しながら、秘密裏に動き回っているって言うわけ。今回も何を企てているのかはわからないけどね」
「気持ち悪いわねー、そんでその秘密主義者は何を企んでいるのかしら」
「面倒事があることはまず間違いないわね~。全く、この国の上層部は二家を見習うべきね。覇権争いなんて馬鹿らしくて呆れるわ」
ハートマンがさり気なく毒づくと、寡黙なジャーメインが問題提起を始める。
「なぁバートレット、本当にこの国家は危機に瀕しているのか?」
「どういうこと?」
「コクヨウが設立されてから結構時間が経っているが、全員が集まることは全体会議くらいのものだろう。実践において召集されたのは初めてなはずだ。にもかかわらず、全員でレオンを看病するなんてありえない。そして、俺たちは確かにビアーズさんの命令でここにいる。妙だとは思わないか? おまけに、リーダーであるティエネスも不在……潜入中のオフィリアは兎も角、ティエネスがここまで顔を出さないのは明らかに不自然だ。何かしらの意図を感じる。そう思わないか?」
「確かに、言われてみれば……はい」
さほどしっくり来ていない脳筋のバートレットだが、これに強く反応したのはハートマンである。
普段こういうことに敏感なハートマンは、すっかり現状把握に苦慮していたためかその事に気がつくのが遅れてしまったようだ。それを実感したのち、すぐにハートマンは話し出す。
「……なるほど。つまり、ジャーメインはこう言いたいのね? ”ビアーズとティエネスは確実に第三の組織側である”か、”我々の動きを止めるために動いている連中がいる”か、ということね?」
対してジャーメインは、首肯しながらも話を進める。
「あぁ、普段からフリーでいないリンデマンらはいいとして、普段いるメンツがいない、普段有能な人物が無能っていうのは明らかに不自然だろう。特にビアーズさんは、合理的で、かつ効率性を重視する。俺たちをここで全員待機なんてバカなことするのは不自然だ。ハートマンの意見では二分したが、俺は前者の意見が濃厚であると思っている。俺たちコクヨウは、いわば二家の性質をそのまま引き継いだ軍事、諜報機関だ。第三の組織が行動するには厄介な連中であることはまず間違いないし、やましいことを考えているメルディス派やトゥール派にとっても同じだろう。ここで俺たちを拘束することは、コミュニティで動くすべてのメンツが大喜びっていうことだ」
「ジャーメイン、私はもう一つの可能性を考えているの。この不自然さ満載を整合させる手がかりとして、第三の組織という存在を挙げる……」
ハートマンの言葉を皮切りに、全員が傾聴の姿勢に入る。それほど、これから議論されるべき問題は今回の惨事を解決する糸口になりうるのだ。
「そもそも、第三の組織とは、何かしら? 今の情報では、彼らの正体はノア含むエノクの集団であり、ここで何かしらの厄介事を起こそうとしているらしい。だが、その目的が恐ろしく曖昧であり、なおかつその意図についても不明……こちらは敵の”正体”については知らされているのに、肝心の”姿”がまるで見えない。これは一体、どういうことなのかしら」
「彼らの出自のみに限定して言えば、単純に考えて復讐が最も濃厚だが……これについてはありえないな」
「ジャーメインの言う通りね、奴らが復讐を行動理念としているのなら、我々はとっくに消し飛んでいるはず。問題は、第三の組織は”必要のない隠密行動をあえてとっている”ということで、それが姿を見せていないということに繋がる。つまり、第三の組織は極めて慎重かつ計画的に、このコミュニティで厄介事を進めている。そしてその対応をするために、我々が駆り出された……にもかかわらず、我々のトップは、本来積極的な活動が求められる我々をあえて拘束するような動きをした。これは間違いなく、裏切り行為とみなしてもいい」
このハートマンの言葉に対して、その場にいた全員が、お互いに臨戦態勢に入り、不気味なスポアの皮膚を露出させた。
コクヨウの根底にあるものとして「裏切り者へは確実なる粛清を行うこと」である。2つの派閥で扱いきれないほど優秀なメンバーは、それぞれ一定のプライドを持ち合わせ、常に味方にもそれ相応の技能を求める。
これが一つに収斂されたものとして、コクヨウはお互いのことを徹底的に監視することを選択している。裏切り者として判断される基準は、「直接的な任務への妨害行為」である。具体的には、与えられた任務を直接妨害するものに限定され、かなり狭義となるが信頼失墜行為はそのままその者への「死」を表す。全員が本気で臨戦態勢に入ったことが、「裏切り者」への強固な意思表示であった。それは例え目上の者であっても、答えは同じである。
そんなコクヨウのメンバーに対して、ハートマンは人差し指を振り子のように動かしながら、さらなる可能性について言及する。
「ただ、一概に裏切り行為であると断定することができないのが苦しいところよ。常識的な範囲で考えられることではないけれど、”第三の組織とコクヨウの目的がある程度符合していたのなら”、ビアーズ様が取った行動は極めて合理的と判断することができるわ。というより、現段階ではこれが最も現実的です」
ハートマンの思わぬ言葉に対して、言及したのはバートレットであった。
「どういうこと? そんなことありえなくない?」
「ところがどっこいそうとは限らないわ。私たちは忘れている。前提として、ビアーズ・アーネストという者は二家であり、二家の絶対的な行動理念は”魔天コミュニティの存続である”、ということだ。つまり、彼らの行動が、現在最も信頼できる、いわば公理として扱っていい情報である、と判断することができる」
若干言葉遣いの固くなったハートマンの影で、ボソリとキャブランが指摘する。
「ハートマンの口調が崩れてきているということは、結構厄介な事態になってるのは確定事項だな」
「流石パートナー」
口調の堅さを口にしたキャブランに対して、この状況を楽しんでいるようなバートレットは笑みを浮かべながら指摘する。一方のハートマンはすぐに口調を改め、にこやかに態度を翻す。
「あら、それは失礼。話を続けましょう。ここから推測されることは、少なくとも”第三の組織はこの国家の存続に関わるものではなく、目的のプロセスとして彼らは行動している可能性がある”、ということです」
「……つまり?」
「端的に言えば、彼らの目的は復讐などではなく、別の目的を持ってここで行動していて、そしてその目的は魔天コミュニティの安寧に叶う、ということです。だからこそ、二家は率先して第三の組織の行動をアシストするために、我々をここに縛り付けたという可能性が高い。それなら、我々は、現在指揮官であるビアーズ様に具体的な説明責任を要求することがまともな選択肢でしょうね」
「なるほどねぇ~、それなら、説明責任を果たしてもらいたいわね~……あ、ちょっとまって」
それに大きく首肯したのはフラーゲルである。しかしフラーゲルは、すぐさまそう静止し、通信機を手に取り急遽話し始める。