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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十五章 黙り込む戦火
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過程と仮定

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 タイトルのギャグ感が好きだったりしますが、言葉遊びっぽくて好きだったりもしています。どんどんこの前書きに書かれることがなくなっており、適当感が強くなっているのは個人的な懸念だったり…。

 次回の更新は今週金曜日7日20時となっております! 次回は遅延なく更新できるように尽力させていただきます(´・ω・`)


「確かにねー、この魔天コミュニティは現在閉鎖されているところが多いけど、残念ながら閉鎖されている多くのところは感知システムが張り巡らされている。無断で使えばあっさりバレるし、近代的なこの国家で潜伏するのはかなり困難だと思う。僕はアイザック君の後者の意見が濃厚だと思う」

「アテはないのか?」

「ベヴァリッジという怪物の目を掻い潜ってここに潜伏する理由を教えてほしいところだね。ただでさえ、プラグマティストな変態ショタコン野郎なんだからね」


 凄まじいディスり方のアイザックに、キャノンはケタケタと笑いながら次の一手についてアイザックに尋ねる。


「あっはっは~、その意見は恐ろしく的を射ているね!」

「まぁ最悪な話ですけどね~……実際のところ、隠せるところはオールレンジ、ここからカーティスの体を探すのは広大な砂漠で落とし物を探すようなものだよ全く」

「それはそれは素晴らしい糞話だ」

「糞話で終われば爽快だけど、実際問題ここでどうすれば先に進めるかだ。キャノンさん、ここでノアたちこと第三の組織が起こしたアクションって、何なんですか?」


 アイザックは、ここに来てようやくキャノンから本格的に情報を引き出すことを選択し、早速柔和な笑みでそう尋ねる。

 するとキャノンは、特段気にした調子もなく、「別にいいよ~」と無邪気に口火を切る。


「第三の組織は元々、宴にスパイを侵入させていたらしくて、今回の事件はそのスパイが大暴れしたことに端を発したことで出てきた事件だ。連中の目的は不明瞭だけど、少なくともこのコミュニティ内に幾人かのスパイを入れていて、宴のスパイが動き出したのも意図的だと思うね」

「奴らの目的の仮説とかあります?」

「僕も具体的な内容について把握しているわけじゃないから、明瞭なことは言えないんだけどね、ビアーズから聞いた話によれば、場を混乱させることをメインに活動している可能性が濃厚なようだよ」

「なーんか、ビアーズにしては曖昧だな」

「僕が無理やり聞いたんだよ。だからふわっとしているんだと思うんだけど、あの感じじゃ半分くらいどういう目的かはわかっていると思う」

「……アイザック、聞いても手詰まりじゃないか?」


 ストラスがそう言うと、アイザックは大きくかぶり振り、「重要な情報だよ」と続ける。


「キャノンさん、第三の組織は、具体的な人名までわかるくらいに活発に動いているの?」

「勿論だよ。そうじゃなかったらノアとか、エノクδみたいな具体名が出てくるはずがない。彼らは自らを名乗る、あるいはそれが分かる程度には能力を扱うっていう感じかな?」

「それなら目的は明白だ。DADの起動を最優先している、これに収斂されるはずだ」

「え? どういうこと?」

「一つひとつ説明します。僕らはルイーザにおいて、方舟という最強の水爆が魔天をエネルギーが流布する事により誤爆する、テンペストの影響を受けることを突き止めました。そして、それは私の見解では、同一座標に存在するこの魔天コミュニティにおいても適用する。つまり、ここで魔天エネルギーを用いれば、そっくりそのままそれがルイーザにおいても適用される。だから方舟の誤爆の可能性が一気に上昇するでしょう」


 キャノンの問いかけに対して、アイザックはハキハキとそう答えると、更にその根拠について言及する。


「基本的に、第三の組織としては構成員や首謀者の名前や属性が知られることは不利に働くはずです。おっそろしいほどのリアリストであり、尚且プラグマティストであるノアの性格上、実用的、または利益のある理由がない限り自ら率先して正体を晒すことはまずありえない。つまり、自分たちの正体を晒すことが意味がある行為であると言っていい。人格的な部分であるからどうにも論理的確証とは言いにくいけど、ここから切り口にしていこうか」

「確かにあの大馬鹿は無駄なことはしない主義だな。というよか、自分の行動を半ば無理やり合理的にさせてる感じだな。被害者が周りにいっぱいいる気がする」

「僕らもその被害者の一人だよ」

「アンタたちあの重罪人となんの関係にあるのさ」


 恐ろしい会話を繰り広げた2人に対して、キャノンは呆れながら意見を吐く。

 すると、アイザックは敏感に「重罪人って?」と訪ねてくる。それに対して答えたのはキャノンだった。


「あぁ~、そうそう、指名手配犯みたいなものなんだ。ノアはこの国家が誕生した付近で厄介な問題ごとを起こした厄介人で、何度かこのコミュニティにもちょっかいを出してきたからね。この国家にはそういう厄介事を起こした奴を警戒するために、要警戒チェックリストみたいなものを個人で作るんだよ」

「え、個人で作るんですか?」

「作るって言っても心に留めるくらいさ」

「……まさか、それは二家の中だけ、ということですか?」


 その言葉を聞き、キャノンはにっこりと笑みをこぼす。


「君は本当に鋭いね~。そういうことさ、つまりは僕らの頭の中だけにある”注意を払う必要がある奴ら”だね」

「なるほど……国家の中で最も高い地位、そして能力を持つ貴方たちが気にかけるほどの連中、ということですね?」


 アイザックの言葉にはかなり多くの意味合いが込められていた。

 魔天コミュニティという一つの国家の中で、この二家という人物たちは極めて異質な存在であった。長い時間と功績により獲得された「完全なる中立」により、恐らくは最大の権力と能力を持つものである。

 それほどの人物が、「個人的に」頭に留めて置くほどの人物など、本当にごく一部のものだろう。なにせそれらの人物は、具体的な資料もなく、それでいて明らかな危険因子であると推測されるほどのものだ。つまり、かなりの特殊性を持ち、尚且秘密裏に取り組まなければならない人物である。

 この条件を満たす者はほとんどいない。そして、例がノアであるということはかなり限定的な対象を相手取ることになる。


 この含みを十分に解したキャノンは、うんうんと言わんばかりに首肯しながら、まぁいいかと重罪人について話し始める。


「まぁヨタ程度だしいいかな。重罪人っていうのは、この国家の法律では、”国家において、武力または組織、経済的において多大なる影響を与えるものを国家的犯罪人とする。これに加えて、特に警戒を払うべき人物を重罪人とする”、というふうに規定されている。ついでに、この条文はあくまでも口実だ。重罪人は二家の4人、そしてメルディスとトゥールがそれぞれを掌握する。これに指定されているのは、ノアやこの国家を抜けたエノクα、そして消息不明となっているε以外のエノク、ついでにこの国家生誕時にいたアインと呼ばれる犯罪者もこれに指定されている」

「……指定された場合、どうなるんです?」

「どうもしないさ。そもそも、これらはいわば、ハクヨウ程度の力では解決することができない場合に、僕ら二家が多くの権限を期限付きで委託することができるということが法的に認められている。特に、これらは武力としては相手が数段上であるから、対談での問題解決が求められ、場合によっては情報線や隠密行動など高度化された専門職が必要になる。その十分な指示を行うために僕らはいるのね」

「どうして二家の連中は公文書みたいな喋り方になるんだよ」


 ストラスが辛くそう指摘するものの、彼はなにかに気がついたようにアイザックから顔を背ける。

 しかし、アイザックはそれに気づくことなく、キャノンに尋ねる。


「それなら、今回二家は相当活発に動いているはずですよね? 相手に警戒されていないんですか?」

「それについてはビアーズがメインに動いているから、僕はお家待機組なんだよね~。戦場はきらいじゃないから、早く呼んでほしいんだけどね」

「……もしかして、メアリーさんも、キャノンさんも、戦うんですか?」


 話が少しずれて、アイザックは突発的な疑問を口にする。

 眼の前のキャノンも、メアリーも柔和な佇まいでとても戦闘をするようなタイプとは思えない。フィリックスに関しては若干納得できる外見をしているため除外するが、特にキャノンは今の所優しい好人物である。

 だが、これに対して即座に反応したのはストラスだった。


「外見に騙されるなよ。キャノンとメアリーは元々ハクヨウ、いわば軍隊所属でその中でもぶっちぎりの実力じゃないとここには嫁げない。特にキャノンは当主であるビアーズを軽く超える。今でもそれは変わらないと思うぞ」

「え」

「露骨に引かれちゃったじゃんこれ」

「あ、だからさっき、”ハクヨウの殺戮マシーン”って……」

「それ僕のハクヨウ時代のあだ名だよ」

「物騒すぎるわ」

「……んで、話逸れちゃったけど、修正しようか。そもそも、ノアとお友達だったら、二人のほうが彼らの目的を承知していそうだけど?」


 そそくさと話をすり替えたキャノンであるが、その表情は露骨に自らの過去に言及されないようにしているだけのようである。

 そのことを悟ったアイザックは、混乱するように口角を上げ、歪に笑いながら口火を切る。


「お友達として見られたくないのですが、あの人はとにかく自分のことを言いたがらない主義なので、できればこちらの情報と照らして推測するのが手だと思いましたんですよ。どうです? より、第三の組織がここで活動した情報が得られる場所はありますか?」

「今まさに、それを協議している会議が開催されてるよ。今、連絡してみようか?」

「参加できるんですか?」

「僕らが口利きすれば参加はできると思うけど、君たちはいいのかい?」


 キャノンがそう尋ねると、アイザックとストラスが顔を見合わせながら、大きく口を開ける。


「……あれ、その会議って、どんな人が来るんですか?」

「そりゃ、二家のビアーズと、メルディスとトゥールの代表、今回は宴のエンディースが参加していたね」

「さっきちょっかいかけてきた奴、エンディースだったぞ」

「……もしかしたら、何かあったのかもね。ウケる」

「いや、これは結構、チャンスかも知れないよ」


 3人は、現在開催されているらしい二家会議に何かしらの問題が生じた可能性を示唆することになる。

 参加者の一人がつい先程、この邸宅の前で襲撃を行ったエンディースであるということは、つまりエンディースが退場になったか、それとも二家会議そのものが中断されたことが想定される。

 まず後者はありえない。この状況で開催される権力者の会合の内容は容易に想像できる。確実に「第三の組織への対応」である。喫緊の脅威がある中で中断はまずありえないと判断できる。

 そして前者についても、エンディースがその会議に参加しているということは、宴と第三の組織が衝突した可能性が濃厚である。それならば、問題解決を特に志向であろう二家会議において、武力での反逆行為に出ない限りは退場という選択はないだろう。

 それならば、「第三の組織が襲撃をしてきて中断となった可能性」が最も濃厚である。アイザックはそこまで気が付き、今後考えられる展望について考察する。


「この状況で、本来テロリストである宴のエンディースが二家に参加しているということは、ほぼ確実に第三の組織の情報を持っているはずだ。それを考慮してこの状況を推測すれば、第三の組織が二家会議をかち割った可能性が濃厚だと思う。それなら、再セッティングの際に僕らが入り込むことができるかもしれない。それに、できなくてもここから推測できる事柄は多いし、更にはキャノンさんを通して情報を共有することもできる」

「あぁ~、なるほどね、僕が君たちを連れていけばいいわけだ。ちょっとまって、今確認してみるからね」


 アイザックの考えを聞きながら、キャノンは首肯しながら早速ビアーズに連絡を入れる。

 その際、キャノンはスピーカーホンにしながら、自らの唇に人差し指を起きながら静止を求める。

 すると、アイザックとストラスはすぐに口をつぐみ、ひっそりと2人の会話に耳を澄ませる。


「キャノン、どうした?」

「もしもし? ビアーズ、今二家会議に参加しているはずのエンディースが邸宅の周りをウロウロしていたんだけど、なにかあったの?」

「あ!? どういうことだ!?」

「いやこっちが聞きたいんだけど。説明願うよマイハニー」

「……どうやら、あいつにはキツーイお仕置きが必要なようだな。こっちは”プラン通り”第三の組織が襲撃をしてきた。いい感じの流れだ。収束に向かっているぞこれは」

「ちょっとまって、プラン通りってどういうこと?」

「二家は第三の組織の目的が明瞭になった、そう判断して俺たちは第三の組織と停戦協定を結び奴らの目的に尽力している。だから、プラン通りだ。というか、エンディースは今何処だ!?」

「追い返したよ。それよか、実は僕の方も今回のトラブル収束のために、とても優秀な人材がいるんだ。立て直した後から参加することは可能かな?」

「なんだと? お前が推奨するくらいだから、それ相応のヤツであるとはわかっているが、素性を説明してほしい」

「アイザック・マクグリン、その名前を聞けばわかるだろう?」


 キャノンがアイザックの名前をつぶやくと、ビアーズは露骨に驚いた調子で、暫くの間沈黙を貫き、「今すぐ、管理塔-Mへ来てほしい」と告げ、連絡を切る。


 どうやら、順調に侵入することができそうであると判断したキャノンは、「オッケー」と楽しげに言い放ち、電話を切った。



「というわけで、アイザック君、入れるみたいよ」

「素晴らしいですね。それでは、僕とキャノンさんで会議に参加しましょうか」

「ちょっと待て、俺はどうするんだ!?」


 しれっと仲間はずれにされたストラスは、そう言いながら大きく悪態をつくものの、すぐさまアイザックはこれを諭して別の指示を出す。


「ストラスはここで別の事柄について調べてほしい。具体的には、宴についてだ。というのも、宴がここまで活発に動いているのは独立した目的があるはずだ。多分、天獄を潰そうとしたことに鑑みれば君たちへの復讐だろう。でもわからないところも多いしね」

「特に、ケルマータの所在とかね。ストラス、アイザック君に頼るばかりでなく、自分で考えることも覚えなさいね」


 謎の説教を食らったストラスは、そのままそそくさといなくなってしまった2人の背中を眺めながら、慟哭じみた声を上げる。



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