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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十五章 黙り込む戦火
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踏み外す者たち


 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 前回もそうですが何度も遅延が起きてしまい申し訳ございません。遅延の理由は、前日までに投稿の準備ができていないことと、仕事が忙しいという現実的な理由だったりします。

 次回の更新はこんな事になりたくないのですが、とりあえずは完走を目指して以降がんばります(´・ω・`)

 次回の更新は来週月曜日6月3日20時となっております。度々遅れてしまい申し訳ございませんでした!


 

「えぇ。否定も肯定もしなくて構いません。実は僕、サイライ事件の関係者でして、イレース君と少しだけ接点があるんです。僕は彼のお世話役でもあったので、サイライ事件当時の彼のことをよく覚えています。あの子は、高度な精神的トラブルがあったようで、全く話してくれませんでしたが、どうやら魔天の類ではあったみたいで、個人的に調べてみたんです。すると、その値は魔天のものを遥かに逸脱したものでした」


 露骨に顔をそむけて「フーン」と言いながら口を閉ざすキャノンに対して、アイザックは更に続ける。


「魔天の値を数値で概算することは好ましいものではありません。ですが、僕は彼のエネルギーを、僕が観測した中では圧倒的でした。それこそ、本来突然変異体である幼児体の魔天の2倍以上でした。僕は長らく魔天について研究していますが、彼のような”逸脱した”エネルギーはダウンフォールを除いてありません。どうしてかなーストラス?」

「知るか」

「立てた仮説は2つです。一つは、”そもそも魔天ではない近種”か、”魔天を組み合わせて作った人工生命体”か、ということです」

「人工生命体?」


 ストラスは疑問を感じながら反復したものの、それ以上にアイザックが視線を向けていたのはキャノンの方だった。

 キャノンはというと、露骨に体をビクリと震わせ、ニンマリして振り向き、アイザックを見据える。


「……まだ、仮説の段階でしたが、ベヴァリッジさんとの対談にて、この話をしたことがあります。例えば、死んでしまった魔天の死体の、それぞれの部分を組み合わせて新しい生命を創造する。倫理・道徳、哲学、すべての分野においても最も否定すべき技術でしょう」

「待て、そんな最低最悪な構想があったのか?」


 ストラスはそう怒鳴る。アイザックもストラスの反応は尤もだということを理解し、大きく首を縦に振りながら、手でストラスを制す。


「うん。これは魔天が、特に死後数十時間程度はエネルギーが供給されるという性質に基づいて組み立てられたものだった。だから魔天は死後も、最長でも1時間は部分的に臓器やその他の細胞が生きているようだった。それらを上手いこと組み合わせて、足りないところを人工物で補填すれば、新しい生命の誕生って言うわけだ。これがもし、”実現していれば”、これほどまでに非人道的なことはないだろう。そして、それを行ったのが、今まで人道派で突き通していた偉人だったら、社会は相当な混乱に包まれることになる。構想のままで、もっと言えば机上の空論でいてほしいところだね」

「……まさか、イレースは……?」

「その、最悪の構想の被害者である可能性がある、っていう、僕の妄想だよ?」


 アイザックはそうやって、あどけなく笑った。

 その表情は、まるで彼の中にある「最悪の感情」を隠す能面のように冷たかった。まったくもって感情が感じられない。普段見ている顔なのに、ストラスには随分と恐ろしげに見えた。


「……でも、そんな綱渡りの技術を使ってイレースを作った理由ってなんだ?」

「それについてはわからないけど、ここまで気持ち悪い執着は、どこか人間的な感情に由来しているような気もするけど……、あ、今のは全部独り言だから」

「お前の独り言は人の言葉と整合するのか」


 ストラスの辛辣な一言に、アイザックは楽しそうに顔を赤める。

 一方で、そこまで言われたキャノンは、もはや吹っ切ったような笑顔でアイザックを見つめている。そして、しばらく沈黙を貫いた後、けたけたと声を上げて作り笑いを始める。


「あっっはあっはは~」

「ついに壊れたか」

「ふふ~ん」

「アイザック、お前の言ったこと全部あたってるっぽいよ」

「いや独り言だから」


 未だ頑ななアイザックとキャノンに挟まれ、ストラスは更に言及する。


「キャノン、どうやらアンタの考えていることはよくわかった。アイザックの話とキャノンの対応、恐らくイレースは、人工生命体だ。それもびっくり仰天、幼児形態の魔天を組み合わせて作ったんだろう? だからその真実を言えなかった。もし、これがイレース本人に知れて精神的ショックを受ければ、”暴走”しかねない。だからこそ、国家危機として認識されていたんだろう?」

「ふふ~ん~」

「これは本当だな」

「僕からは何も言わないからもうベヴァリッジに確認しておいで~」


 キャノンの出した決断は、「否定も肯定もしない」ことだった。既に確定事項であったとしても、それを証言した事自体に重きをおいているようで、キャノンは頑なに話すことはなかった。そればかりか、なんとキャノンは呆れた調子で「お茶飲む?」と露骨に話をすり替え、もうこれ以上話すことはなさそうだ。

 それを察したストラスは、アイザックに対して「ここにいる意味はないんじゃね?」と尋ねる。


「……そうかもしれないね。キャノンさんがこれ以上話さないなら意味はないよね」

「それなら次に何をすればいい? ここから完全に手詰まりだぞ?」

「いや、そこは君に決めてもらわないと……」

「あ?」

「だって僕、魔天コミュニティはよくわからないし……」

「ウケルー」


 アイザックの露骨な上目遣いに、ストラスは白目を剥きながら顔をすぼめる。

 完全に手詰まり状態であるが、ストラスはひとしきり考えた後、アイザックに一つ提案する。


「アイザック、お前から提案してくれないか? 俺は残念ながら、お前のように素晴らしい脳を持っているわけじゃないから、これからしなきゃいけないことを合理的に考えてほしい。そして俺に伝えてくれ。そしたら、コミュニティについての知識を持っている俺が判断する。それで良さげ?」

「そうだね。そういう方針で行こうか。しかしまぁカーティスへの手がかりが無残に消えちゃったから、早速キャノンさんに協力していただきたいなーって思う」


 ストラスの提案を即座に飲んだアイザックは、不気味な微笑みを浮かべながらキャノンを一瞥する。

 それに対して、キャノンは少し考えた後、厄介な事実に直面し、あどけて笑う。


「……あれ? これ、拒否したらイレースの前で”独り言”を言ったりすることってあるの?」

「何いってんだ、協力しないならデッカい声で独り言だ」

「この人たちは自殺志願者かなにかなの?」

「ストラスは自殺志願者だけど僕は息子が大事なだけです」

「血祭りにあげてもいいぞチビ」


 相変わらずのやり取りをしたストラスとアイザックであったが、一切動じることなく、更にアイザックはキャノンを詰める。


「キャノンさん、僕らはキャノンさんに対して、無理を言うわけではなりません。キャノンさんの立場を悪くしないことに限定してもいいので、カーティス探しに協力してくれませんか?」

「あれ、目的が限定的な気がするんだけど」

「いやいや主訴だから」

「まぁ間違ってないからいいか。ということでキャノン、これから定期的に里帰りするから協力してくれ」


 ストラスがそう言うと、キャノンは目の色を変えてストラスに「本当に!?」と口火を切る。


「えぇ~、それなら協力しちゃおうかな!」

「凄まじい手のひらの返し方だな」

「ストラスがどれほど親不孝だったかがよく分かる」

「頼むから心をエグるのやめてくれない?」

「そうだぞストラス!」

「コイツら……」


 当然ボコボコにされたストラスだったが、少しは自分の親不孝っぷりを自覚し、内心で定期的な里帰りを考えながら、キャノンに尋ねる。


「んで? 親不孝者をディスったアイザック君は何か策はあるのかな?」

「そこなんだよ。この状況からカーティスの肉体の位置を調べるのは困難極まりない。そこでだ、状況から少し逆算的に考えていこう」

「どういうことだ?」

「まず第一、カーティスはどこでトランスニューロンの施術を受けたのかだ。トランスニューロンの転送型を採用しているということは、最低でもカーティスの脳の動きを正確かつラグのないように読み取る機器が必要になる。問題なのは、このトランスニューロンというのは、アプローチそのものの非人道さと転送したデータを再現するシステムが鬼門だっただけで、実行する条件が恐ろしくゆるい」

「あの理論的な部分はいいから結論だけ言って」

「ごめんごめん、一応学者だからさ。結論から言うと、トランスニューロンの技術的な簡単さ故に、”カーティスが魔天コミュニティにいるとは限らない”っていう話だ。つまり、魔天コミュニティに情報がほとんど残っていない可能性もある。けれども、僕らは既にルイーザにおいてカーティスに関する情報が殆どなかった、厳密に言えばセフィから得た彼の写真だけが証拠だった。その情報を持って、僕らは旧ザイフシェフト地下を探しまくったけど結局見つからなかった。これがどういう意味か、わかる?」


 アイザックの学者特有と言っていい長ったらしい話を聞き、ストラスは噛み砕くように理解していけば、厄介な推測にぶち当たることになる。


「もしかして……移動させた?」

「多分そうだね。写真はミスリードの可能性がある。相手はノア率いる無駄に精鋭された人たちだ。彼らのプランはこうだ、ノアたちはセフィティナが僕に写真を渡すことを想定していて、旧ザイフシェフトの地下で一旦カーティスを安置した後、すぐに移動させた可能性がある。その先が魔天コミュニティである可能性がある」

「どうして?」

「いくらトランスニューロンだと言っても、ここまでカーティスのことをこき使ってるんじゃ、多分カーティスもこのトラブルに自分から関わった可能性が高い。それならば、カーティスが即時離脱可能なように、魔天コミュニティに居を構える可能性があるっていうこと」

「考えられなくはないが、強引といえば強引だな」

「うん、これがコミュニティにいる可能性だ。僕はこっちは薄いと思う。今回のことを指揮しているのはノアだと推定するなら、彼らはよりプラグマティックに動くだろう。それならば、ベヴァリッジ含む多くの魔天の目に届きうるここにカーティスの肉体を置くことは考えにくい。つまり、カーティスはノア管轄のどこかにある可能性が十二分にあるっていうことだ」


 この厄介極まりない想定を聞き、ストラスは死んだような顔で「面倒事が倍プッシュだ」と悪態をつく。

 一方で、この話に対してキャノンはそれに信憑性を重ねるようなことを口走る。


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