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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十五章 黙り込む戦火
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話さない手がかり

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 この部分で、長かった節が終わります。ここまで細分化したのは微調整とかもあるのですが、リアルがかなり忙しいということが大きな理由でした。今年はこのお話が終わることが一つの目標です。

 次回の更新は今週金曜日24日の20時となっております! 次回もご覧いただければ幸いです!



「しっかし、俺の腕をとったのは久しいな。お前たち、優秀な兵隊になるぞ?」


 ストラスの見解に対して、反論したのは動けなくなった女性口調の襲撃者だった。


「戦神にそう評価されるなんて光栄ですよ」

「あぁ、そうかいそうかい。だが、お前たちは何者だ? どうして宴と共謀している?」


 呆れた調子でつぶやいたストラスは、吹き飛んでしまった腕を気持ち悪そうに見つめ、それを傷口に持っていく。

 同時にストラスは、宴と謎の襲撃者を同じ存在であると判断しており、利害の関係にあることを前提に話を進めていた。当然のことながら、ここで戦闘をするということは、何かしら相手にとって、もっと言えば相手が所属している団体に対して利益になっていなければならない。少なくとも、この状況であれば、当人たちに明らかなメリットがあることは必然であろう。

 それを探ろうと放った言葉であるが、相手が返した言葉は意外なものだった。



「それについては言えません。ですが、私たち2人は雇われ兵士です。貴方と戦えると聞いたので、この仕事を受けたまでです」


 冷静にそういった襲撃者に対して、ストラスは完全に臨戦態勢を解除しながら、それならと言わんばかりに興味なく右腕を傷口にくっつけながら再生を図る。


「それならとっととお家に帰んな。特別に、お咎め無しにしといてやる。俺は懐が広いんだ」

「それはそれは……流石、最も人道的と言われたアーネストですね」

「お前随分と俺のこと知ってんじゃねーか。俺のストーカーかなにかか? 今すぐにでも治安維持機関に通告してもいいんだぞ」


 ストラスがそう言うと、今度は後方から、男性口調の襲撃者が「それはそうだろう」と口火を切る。


「ストラス・アーネスト、アンタはハクヨウだけではなく、今日の軍事的な技術及び教育の観点において、凄まじい功績を残した。そして、コクヨウの整備でもその卓越した技工は組み込まれている。アンタはいわば、教科書に載っているくらいの有名人だ」

 それを聞き、ストラスは少しだけ満更でもない気持ちに駆られながらも、独特な喋り方をする襲撃者に対して吹き出しながら言う。


「コクヨウ? ていうかお前、なんか公文書みたいな喋り方だな」

「コクヨウは、25年前の事件を契機に作り出された国家存亡の危機に瀕する事案に対応する、第三者特殊組織だ」

「ペラペラ話してるけど、お前ホントに条文みたいだぞ」


 ストラスが更にそう言うと、今度はクスクスと女性口調の襲撃者が笑い、厭味ったらしく言う。


「まぁ、伝説の戦神からそんなこと言われるなんて光栄では?」

「……否めないが、褒められている気はしない」

「褒めてねーよ。いやそれより、お前たちは何者だ? そんだけペラペラ話してくれるなら話せよ」

「残念ながら、それは仕事のうちに入ってるんでな。秘匿、そういう契約になってる。ただし、俺たちに与えられた任務は、アンタたちと戦って適当な撹乱程度だった。正直、俺たちも別の仕事を請け負っている立場だったから、雇い主がどの程度までのことをしたかったのかは知らん」

「随分と変な契約をしたんだな? お前たちほどの、いやこの国の中でもトップクラスのフリーランスを雇っているのに」


 ストラスの言葉に、襲撃者2人は少しだけ静止する。

 この言葉は、「襲撃者を雇って撹乱を行った人物が、国の中でも比較的上位の存在である」という仮説に根拠を渡すようなものだったからだ。勿論、2人もこの言葉の真意を理解し、次に打ち出す言葉についで悩んだのだ。

 実際のところ、この状況でストラスの疑いを振り切るのはかなり難しい。沈黙で答えれば「懐疑」を与え、嘘で答えれば「未来的崩壊」を与える。どの選択も雇い主にとって、同時に自分たちにとって危険な回答になりうる。


 そんな中2人が選んだのは、答えに対する沈黙である。


「さて、私たちはこれで御暇しようかしら?」

「あぁそうしよう。別件もあるんでね」


 露骨に話をそらした2人に対して、ストラスは呆れつつも、「めっちゃ褒めてあげるから教えてくれない?」と無茶苦茶な振りをする。

 すると、2人は若干そわそわした調子で、男性口調の襲撃者が返す。


「褒めてはいただきたいが、これに関しては契約の通りだからな。いくら貴方でも言えない」

 襲撃者はそう言いながら、なくなった腕を再生しながらそそくさとその場から立ち去ろうとする。

 しかし、不躾にそのまま消えるのではなく、2人は同じような仕草で振り返り、優しく頭を下げて御礼の言葉を述べる。


「戦神、今回は貴方と戦えてとても楽しかった。ありがとうございます」

 これに対しては、ストラスも首を縦に振りながら、同じように頭を下げる。


「あぁ、俺も珍しい相手と戦えてよかったよ。名前だけでも、聞いておこうか?」

「ふふ……それなら、”パールマン”と、しておきましょうか」

「なるほどな? もう二度と、会わないようにと願おうか」

「それはお断りします。もう一度、いつの日か手合わせを……」


 襲撃者はそのまま、意味深な言葉を残して消えていってしまう。

 それを見たストラスは、何度めかのため息をつきながら、完全なる敗北を噛みしめるエンディースに視線を移し、とどめを刺す一言を告げる。


「……これでもなお、戦うか?」

「…………俺は、貴様を殺すためにここまで来た」

「俺は不殺主義者だ。ついでに、自分で武人だとも思い込んでいる。とっとと失せろ。戦えぬ者が、戦場にいる意味はない」

「貴様!!」


 ストラスの辛辣な一言に大きく怒りを表したエンディースだったが、その首元にストラスのナタ状のスポアが突きつけられる。


「なぁ、俺は敵としてのお前だけを殺した。それ以外に釈明はいるか?」

「ふざけるな……俺は絶対にお前をぶっ殺す!!」

「一つ、提案だ。お前がここでむざむざとおっ死んだら、お前の悲願は誰が全うする? だが、お前が負け犬晒して生き残って、また俺のところに来れば、お前は俺を殺す事ができるかもしれない。そうだろう? 俺はとてつもなく論理的なつもりだ。どうだ?」


 ストラスはそう言いながら、嘲笑的な視線を向けながらエンディースを嗤う。

 これに対して、エンディースは口では反論しようとするものの、自分の状況が完全に理解できないほど愚かではなく、悔しそうに顔をしかめる。


「……それでも…………」

「これ以上はナンセンスだ。俺はお家に帰ることにする。お前のことは、”死んだと思った”、そういうことだ」


 そうしてストラスは、ひらひらと手を振りながら邸宅の中へと帰っていく。

 一方のエンディースは、これに対して何もすることができず、ただ目することしかできなかった。



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