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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第十四章 厄災の母体
100/169

自業の対価

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 この部が記念すべき100部目です! 流石にここまで続くとは思いませんでしたが、トラブル解決に向けてこの物語はもう少し続きます。どうぞ最後までお付き合いいただける方がいましたら幸いです!

 次回の更新は6日20時となっております! 次回もよろしくおねがいします(*´∀`*)


 それを横目にミラは、ルネの頭を撫でながら言う。


「状況が上手く理解できていないようですね。私は、決定事項を通達しているだけです。よくお考えください。どうして、今このタイミングで、私は“交渉に来たのでしょう?” そして、“魔天コミュニティで起きたトラブル”、“エノクδを従える私”、ここまで材料が出揃えば、話はつながるのでは?」

「…………まさか、魔天コミュニティでのトラブルは、貴様の!?」


 ミラの鬼気迫る演技により、アルベルトは見事に勘違いをすることになる。


 その勘違いとは、「一連のトラブルはエノクδの力を使い、ミラが起こしたものである」というものだった。この勘違いになぞれば、ミラが今この段階で交渉に来ているのは「想定外の方舟という存在への対処」であり、これからする行動も見えてくる。

 アルベルトには「ミラらはコミュニティへ宣戦布告を行うことを目的としている」と取ることができるだろう。エノクδに秘められた力が魔天コミュニティの国力を遥かに上回ることを踏まえれば、その選択肢は決して無謀なものではないと言える。


 勿論、これは純粋に上司への鬱憤を込めたミラの演技であるが、この状況でしっかりと勘違いしてくれたアルベルトにほくそ笑みながら、ミラは更に続ける。


「そういうことですよ。この際ですから、私のしたいことも言っておきましょう」

「なんだ……?」

「復讐、それだけです。考えても見てください……、私は、齢5歳にして、複数の国家、魔天コミュニティのせいで、人生を棒に振るわされました。私の感じた理不尽を、貴方に理解はできますか? だから、今度はその理不尽を与える側に回ることにしたんです」

「貴様……」


 ミラは当然、そんなことこれっぽっちも思っていないのだが、普段の怒りを込めて話を盛りに盛り、徹底的にプレッシャーを与えることにした。


 同じくルネも、いい加減無表情のままでいるのがキツくなってきたようで、とりあえず甘えん坊キャラで押し通すことにして、真正面を向いているミラを真正面から抱きつき、アルベルトに顔が見えないように立ち回る。

 そして、その様子を後ろから見ていたケイティは、ルネのダルそうな顔に吹き出しそうになりながらも、必死に囚われのフリをする。


 既に演者の3人は内心苦笑しまくっているが、アルベルトはまさかのルネの行動に驚きを隠せなかった。

 事情を知らないアルベルトは、表情を繕うのに疲れたというルネの心境が伝わるわけもなく、何かしらのアクションである可能性を示唆し、警戒心をむき出しにしながら、意図を尋ねる。


「何をした!?」

「……言ったはずです。この子は私のコントロール下にある。そしてそれは、同時にこの子の精神的な成長を完全に掌握することに通ずる。エノクδの精神はそのまま赤ん坊に等しい。この行動がまさにそれを表現しているでしょう」


 婉曲的に赤ん坊呼ばわりされたルネは、内心「変な設定つけないでよ」と悪態をつくが、どっちにしても、この急ごしらえの設定を真に受けたアルベルトは、顔をすぼめる。


「外道め……」

「私にとっても、この子は実子と変わりません。ですが、その身に眠っている力は、利用させてもらう」

「あくまでも、こちら側の意見が反映することはない、そう言いたいんだな?」

「勿論です。良いお答えを聞けると、私も実力行使をせずに済みますし、貴方も今後、ルイーザで経済を回す事ができます。必ず、結果を出してみせますよ」


 ミラは、楽しげに笑いながら、ルネの頭をぽんぽんと撫でる。特に理由はなさそうであるが、以下に自分がエノクδであるルネを手懐けているかを示唆するもののようだ。

 そして、それを見たアルベルトは、一つの決断をする。


「本当に、パールマンに勝てると?」

「勿論です。承諾いただければ、ですがね」

「……なら、そうさせていただく。こちらとして命が惜しい。だが、一つ条件がある」

「聞くだけなら、構いませんよ」

「我々は、大事に備えて逃げさせてもらう。それでもいいのなら、従おう」


 これを聞き、ミラは少し疑問を感じたように顎に手を置く。そして、ひとしきり考えた後、露骨に疑問を浮かべる。


「言わせていただきます。この状況下において、自らを逃げることを優先するのは、どうしてですか?」

「なんだと……? 当然じゃないか! この状況で自分の身を案じないなんてありえないじゃないか!?」

「ではなく、“どうして他の誰にも言わず、自分たちだけで”逃げようとするのですか?」


 その言葉を聞き、アルベルトは驚愕の表情を浮かべる。

 それは、かなりクリティカルな問いかけであった。現在、ルイーザ全体を吹き飛ばしうる方舟は起爆のリスクにある。普通であれば、国家権力に頼り、なおかつ危険を周知させることが優先される。もし仮に、パールマンに伝わるリスクを考慮したとしても、最初に頼るべきは方舟を解除することができる可能性のある機関を頼ろうとするのが無難なところだろう。

 ルイーザ全体の情勢について、かなりの確度で知っていると思われるアルベルトが、何もせずにそそくさと逃げるということは、「国家的機関に頼ると厄介事が起きる」という事実を端的に表しているのだ。


 それもそのはずだった。ミラー家がサイライ事件、ザイフシェフト事件に関わった証拠はこの国家の中に流失しており、かつそれが判明するのは時間の問題だった。この焦りが、アルベルトの行動に表れてしまったのだ。

 勿論、これを見逃すようなミラではなく、この状況で的確な言い訳が浮かぶはずもなかった。


「……お前、どこまで知っている?」

「私は、貴方が思っている以上に、深い真実を知っている……、ということだけを言っておきましょうか」

「まさか、2ヶ月前にミラー家の資料を流出させたのは、貴様か!?」

「おや、初耳ですね。それは、ミラー家が魔天コミュニティの厄介事の片棒を担いだ証拠ですか?」

「やはり、知っていたんだな!?」


 アルベルトはすっかり冷静さを欠いていた。だからこそ、ミラの言葉に引っ掛かって真実を口走ってしまったのだ。


「貴方、なにか勘違いしていませんか? 私は最初から、ミラー家があの事件に関わっていたことを知っています。そんな証拠を知らずしてもね。理由は酷く単純です。私は天獄と繋がりを持ち、あの事件に関わっていたからですよ」

「ならばどうして!?」

「すべては、一点に収束する。私はエノクδであるこの子とともに生きてきました。そして、ザイフシェフト事件は、私だけではなくこの子すらも、傷つけた。それがどうしても許せなかったんですよ。魔天コミュニティへの恨みを、怒りを、そして、この街を牛耳る貴方への復讐を、望んだんです」

「ならばなぜ……この時点までそれを……!?」


 アルベルトは当然の問をミラに投げる。本当はただ、言い出すタイミングを失っていただけなのだが、ミラはこれまでのキャラ作り的に考えても、騙し合いで情報の隠匿を行ったように見せるため、素知らぬ顔で言う。


「…………貴方から、それを言ってもらうことを待っていたんです。貴方に、一片の良心の呵責があることを願って」

「黙れ!」

「一つ、言わせていただきましょうか。貴方はなぜ、私が今、貴方を殺すことなく、“取引”という形式をとっているのか、わかりますか?」

「なぜ……だと?」

「私は信じていたのですよ。貴方に、グルベルトを今の形にして頂いたのは紛れもない事実、そしてそれにより多くの子どもたちが救われた。私は、貴方に生きてほしい。ですが、同時に怒りもある。あの事件がなければ、私たちの人生が狂わされることはなかった。だから私は試した。貴方に、断片でもいいから、その良心の呵責があればいい、それがあれば、私は貴方を生かそう、そう心に決めていたのですよ」


 即席の繋げ方であるが、ミラの発言は十分アルベルトにプレッシャーを与えるに叶うものだった。

 そして、ミラの言葉に対してアルベルトは、想定どおりの反応をする。


「……何が、言いたい!?」

「それはとても単純です。貴方が握っている情報を、公開していただく。それだけで構いません」

「そんなことが……できると思っているのか?」

「やっていただく、それ以外に貴方が生き残るすべはない」

「クソ……」

「とは言っても、私はそこまでゲスじゃありませんよ。流石に、情報をすべて公開すればミラー家は存続することができない。であれば、私から一つ提案させていただきます。娘さんのケイティさんに、実質的な権利を移譲するのです」

「……つまり、アルベルトの名前で情報を開示に、別の名前にしたケイティにミラー家の財力を移譲させておく、そういうことか?」

「そちらについては、貴方たちに委ねます。我々としては、情報が公開されればそれでいい。もし、そうならなければ……実力行使をするまでです」


 ミラはそう言いながら、右腕を掲げて模様をうねうねと蠢かせる。

 言っていることは端的であり、アルベルトがスケープゴートになり、情報を公開しろというもので、究極の二択を強いるものだった。そして、ミラはこれに後押しをするように、つぶやくように口走った。

「貴方の良心の呵責に、委ねましょう。それでは、私はこれで。あぁ、以降はケイティさんをインターフェースにして取引させてください。時間は1時間です。失礼します」


 最後に、ミラは後味の悪さを引くように吐き捨て、そのままルネを抱えたまま部屋を出ようとする。考えてみればそのままおろして歩かせたほうが見栄え的にいいのだが、ルネがその行動に瞬時に反応できるわけもなさそうなので、この形のまま立ち去ることにしたのだ。


 今後の展開については、ケイティがある程度の後押しをしてくれると踏んでのことである。それを察したケイティは、神妙な調子でアルベルトに視線を向け、圧力をかける。

 簡単に下せる結論ではないのだが、今は状況を見極めてほしいという思いも込めて、ミラとルネはそそくさとその場を後にする。



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