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不条理なる管理人  作者: 古井雅
第三章 三相の天使
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死に水の支配者

 前回から引き続き見ていただいた方、ここから読み始めた方、いつもありがとうございます(*´ω`*)

 ここは本格的な戦闘を描写しなくてはならず、かなりの粗が目立つ印象を受けます(´;ω;`)

 私はとにかく、こういう動的な動きの描写が苦手なので、この連載が終わる頃には素敵な着地点に到達することを願っています(*´∀`*)

 次回の更新は金曜日の20時です! 興味を持たれた方はぜひぜひどうぞ☆(´ε`

 微かな沈黙の後、それを打ち破るような音の変形にその場にいた全員が目を丸くする。轟音だった。爆発に近い激音が耳を劈いた後、何者かが侵入してくる音が続いた。

 カーティスは、爆音と強烈な粉塵に紛れた人影を認識した。その様はまるで、そこにあるのに認識できない錯覚のようである。


「カーティス! 恐らくはさっきの連中だ! アゲート君にレオンを渡してB-3に避難させろ! B-3は核シェルターだから」

 イレースは冷静に指示をする。そして、カーティスはそれに従ってアゲートにほとんど同じ指示をし、B-3にレオンを避難させる。

 それから粉塵が晴れるまで、カーティスはあたりの状況を把握することに全神経を集中させていた。辺りに溢れる雑踏に耳を澄ませれば、どうやら単体のようだ。足音の重さから、先程戦闘したような分身体ではないようで、かなりの重量の人物が蠢いているようだ。


「……何者だ」

 カーティスは、相手が素直に言うとは思えなかったが、連続する襲撃に苛立つようにそう言い放つ。

 しかし、その思惑とは裏腹に、侵入者が嗤笑する。

「わかっているだろう? 目的はわかっているだろう。エノクεをよこせ。そうすれば命だけは見逃そう」

 上げられた声は若干嗄れている男性の声だった。今までの中で最も重圧な声で、強い意志を感じさせる声色である。

 それに合わせるように、今まであたりを覆い尽くしてた粉塵が晴れていく。

 徐々に明瞭な輪郭を取り戻していく視界の中で、カーティスは先程の轟音と粉塵の根源たる崩壊した壁を目の当たりにする。そして、その付近にある襲撃者に、恐ろしげに声を上げる。

「……お前…………、なんだ、その体……」


 襲撃者は、もはや人型という形容が適切であるとは到底思えなかった。

 勿論原型そのものはヒトのそれに近いのであるが、肢体すべてが醜悪なほど歪んでいて、それこそイリアが変形させた腕に似ている。しかしそれとは比にならない変形の仕方で、何より非常に綺麗なのだ。イリアの変形は、ゴツゴツした表面に刃がついているような形状であったが、こちらは黒色の皮膚に幾つものカッターナイフの刃を整然と並べたようである。

「もう一度言おう。エノクεをよこせ」

 挑発的な声でそう告げる襲撃者は男性のようである。声音から相当に自信があるようだ。

 対して、その様を見てイレースはカーティスに1つ忠告をする。


「カーティス、あれは分身体と同じ高等技術、スポアのアーマーだ。物質としての肉体の性質を天でスポアに近い形にする。使い手によっては分身よりも遥かに厄介な相手になる。スポアの強靭な能力が付与した体を使って攻撃されるから、破壊力は普通の数倍に近い。その上、纏ってる能力者固有の能力まで扱える。技量によってはとっとと逃げよう」

「頼むから状況見て言ってくれ。逃げ切れるかどうかより、倒すことに集中したほうが良さそうだ」

 カーティスは、あたりを一瞥した後、イレースにそう言うと、襲撃者の後方に広がっている大きな穴に注目する。

 その穴は襲撃者がコンテナをぶっ壊して入ってきたところであるが、既に塞がりかけている。恐らく、先程と同じようにスポアによる壁であろう。

 ここまでの用意周到さがあれば、かなり綿密な計画を持って侵入していると考えるのが妥当である。そこまでを見越してカーティスは判断していて、言葉には出さずともイレースはそれを理解していた。

「確かに……否めないかもしれない」

「相当ピンチってところか」


 カーティスは状況を認識した後、自分をスポアを出そうと精神を集中させる。しかし、あまりの窮地に集中力が持続せず、先程のようにうまく展開することができない。ようやくひねり出せたのは、たった3本の触手のみで、心許なさそうに背部から伸びている。

「……ちょっと調子が悪い」

 残念すぎる状態に、カーティスは大きくため息をつく。

 一方の襲撃者のうち、男声で喋った襲撃者はけたけたと笑いながら、右腕をカーティスに向ける。

 そして、前腕から数本の触手状のスポアを展開し、右腕を大きなドリルのように変形させる。形状そのものは先程戦闘した分身に近いが、それよりも一つ一つの刃が非常に鋭利であり、先程の数倍程度の攻撃力を誇りそうである。


「最後に言うが、渡すのか? 渡さないのか?」

 男は相変わらず嘲笑うような調子でそう尋ねてくる。

 しかし、カーティスの答えは変わらず、大きく頭振る。

「絶対に嫌だ」

 カーティスがそういった瞬間、恐ろしい俊敏さで一気に距離を詰め、カーティスにドリルを突き立てる。

 そんな速度で距離を詰められれば避けることは到底できない。即座にそう判断したカーティスは、逃げるのではなく受け止めることを選び、3本だけ出てきた触手を体を守るように纏いつつ、両腕を顔の前で合わせた。


「カーティス! 無事!?」

 大きく吹き飛ばされたカーティスは、イレースの声で意識を取り戻す。どうやらあまりに強烈な攻撃に一瞬意識が飛んでしまっていたらしい。しかし、気がついたときには更に深刻な現状を目のあたりにすることになる。

 とりあえず攻撃をガードした腕に関しては吹き飛ぶことはなかったが、3本の触手に関しては完全に破壊されてしまい、その破片が不気味に部屋の中に散乱していた。体内から離れたスポアは、硬質化した状態で倒れた機器の上に飛び散っている。

 それに加えて、B-1に続く扉に安全装置がかかってしまって扉からの脱出が不可能になってしまう。勿論それはB-3も同様であり、それについてはレオンを守る上では良いのだが、状況は最悪である。

 つまり、戦況は最悪で逃げ場も存在しない。目の前には勝ち目がなさそうな敵がやる気満々で大きな刃を宙に浮かしている。

「無事でもないし状況最悪だし……どうする!? このままじゃ2人でご臨終だ。なんかないのか!?」

 怒号のような声とともにカーティスは、すぐに立ち上がり、攻撃してきた襲撃者を睨みつける。すると、攻撃を行った右腕が異常な変形を見せている。

 何より腕が大きすぎるのだ。あれ程の重量がありながら、異常なほどの俊敏さを兼ね備えているということは、あまりにも違和感がある。カーティスが持っている魔天の知識だけではなんともないが、俊敏さとは若干矛盾する気がした。

 その疑問に対して、無自覚に解答したのはイレースだった。

「あいつ、足元の触手をバネにしてあそこまでの俊敏さを作っている。だからあれ程の推進力と破壊力を生み出したんだ」

「つまりスピードを殺せばあれ程の威力が出せないってことか?」

「そうとも言える。だけどそれよりも、逃げることを考えたほうがいい」

「なら考えてくれ俺は逃げる」


 イレースと会話しているカーティスに対して、襲撃者はお構いなしに再び攻撃態勢に入る。

 よくよく視線を足元に向けてみると、たしかに足元に変形した触手が見える。あれを使って推進力を生み出していたのだと理解したが、それをなんとかすることはできず、近くにあった機械を幾つか投げ飛ばし、俊敏さを足止めする。

 すると、案の定スピードは先程と比べて大分抑えめになっている。それに加えて、バネを使った俊敏さは数秒程度の溜め時間が必要なようだ。


 対して襲撃者は、押さえつけられたスピードを認識すると、今度は両方の腕を大きな刃状に変形させ、大振りな仕草でなぎ払いを行う。

 カーティスはかろうじてそれを回避するが、大きく伏せたことにより体は壁に激突してしまい、大きな隙が生じてしまった。その隙から垣間見えた攻撃態勢の襲撃者に、カーティスは微妙に死を覚悟する。


 しかし、強烈な攻防の最中、2人は室内に起き始めた異変に気づき始める。

 室内の床や壁に、不自然な光沢が生じ始めたのだ。まるで何かの膜が生じたようだった。先程の強烈な粉塵が生じる前までこんなことはなかった。反応からして襲撃者の能力でもないだろう。

 一体いつからこんな不気味な光沢が生じ始めたのだろう。特にそれを感じたのは襲撃者である。その光沢は本当に不気味であった。色としては無色であるのだが、壁や床に氷が纏っているようで、あまりにも非現実的な光景な上、どこに原因があるのかわからないということが、襲撃者を過度に恐怖させた。


「なんだ……これ……」

 その奇怪な不安感はカーティスも同様である。

 だがこれは同時にチャンスでもある。初めて隙を見せた襲撃者に、カーティスは即座に攻撃を行う為、大きな触手状のスポアを展開し全力で襲撃者に攻撃を行う。

 その攻撃は見事に襲撃者の体幹に必中するが、全く動じている調子はなく、攻撃が全く通っていない。どうやら硬度がまるで違うらしい。イレースの言うとおり、勝つことなんて不可能であろう。

 加えて攻撃を行ったことにより、襲撃者がこちらに対して再び攻撃態勢に出始め、けたたましい笑みを残して大きく振りかぶろうとした時だった。


 怒号のような激音が後部から聞こえてくる。

 それは壁が軋むような音で、その後異常な爆発音が響き渡る。

 それに対して一番に反応したのはイレースだった。

「シェルターの壁が……あれが壊れるなんて……」

 イレースの反応からして、B-3の壁が壊れることなどありえないという様子である。

 しかし、壁が破壊されたこと以上に、その場にいた全員を驚かせたのは崩壊したB-3の壁からだらだらと垂れてくる液体状の物質である。その液体は透き通ったもので、粘度としてはほとんど水であり、状態としては真水に近い。

 そして、B-3から侵入してきている水は徐々に部屋の中を埋め尽くし始める。恐ろしいことに、室内を覆っていた透明の膜と混じり始めて、更に水量を上げている。


 あまりに不自然な状態であるが、襲撃者はその水に触れることを恐れて、まだ水が侵入していない部分へ逃げる。対してカーティスは、先程の攻防によるダメージの蓄積により、ほとんど動くことができないでいた。

「これ……触れたらどうなる?」

 カーティスは咄嗟にイレースにそう尋ねると、彼もどのようなことが起きるのかわからないらしい。

 そうこうしているうち、謎めいた水が眼前に迫っていて、カーティスは逃げ切ることを諦めて甘んじて液体に触れる。


 気がつけば、カーティスの半身は水のような液体に触れてしまっていた。

 しかし、特に影響がないのか、カーティスの体に及ぼした影響は普通に衣服が濡れている程度である。

 やはり普通の真水なのだろうか。カーティスは一瞬そう思ったが、あたりの光景を見てそれが間違いであることに気がつく。


 液体なのはカーティスの周りのみであり、あたりの液体であった物質は流動的に相を変形させ、まるで生きているように振る舞っている。

 特に壁を走っている液体は部分的に波打ちながら固体と液体を無自覚に変形させている。そして、その物質らは襲撃者に纏わりつくようにアーマーを侵食していく。

「糞……これは……やばい! ミア!! 解除しろ!!」

 襲撃者は思わず大きく声を吐く。そして、その言葉に従ってアーマーがぼろぼろと床に伏していき、そのままの勢いで肉壁で塞がれていた壁の前に移動し、肉壁を溶かして外に出ようとする。

 そして、襲撃者はそそくさと外に飛び出ていってしまう。一先ず、この場は乗り切ったようである。


 しかし、辺りの奇妙な物質の動きは未だに収まっておらず、うねうねと生物のような佇まいをしている。

 そんな中、カーティスはとりあえずは大きなため息をつき、安堵の表情を浮かべるが、すぐにシェルターが破壊されたことを思い出し、B-3に飛び込んでいく。安全装置がかかっていたものの、扉ごと決壊しているので、そのまま核シェルターに入ることができたのが幸いだった。


「レオン! アゲート君! 無事か!?」

 カーティスは完全決壊しているシェルターに大きな声を響かせる。それに反応したのはアゲートである。

「私は大丈夫です。だけど、レオン君が……なんかよくわからないことになっています」

 瓦礫の中から出てきたアゲートは、けほけほと咳き込みながら、レオンがいるらしいカプセルの方を指差した。

 すると、そのカプセルは先程の液体が大量の溢れ出ていて、中に爆睡しているレオンが見える。

「レオン!!」

 カーティスは、カプセルの中で爆睡を決め込んでいるレオンを起こそうとする。

 すると、それに気がついたのかレオンは大きな欠伸をしながら、近づいてきたカーティスに向かって抱っこをせがむ。

 その瞬間、辺りを取り囲んでいた液体が一瞬で蒸発していき、最終的には薄い膜がレオンの周りを取り囲んでいる。そして、そこまで行った時、水と同じように薄い膜も蒸発していき、レオンはニコニコしながらカーティスに再び抱っこをせがんだ。

 勿論、カーティスはそれを受け入れ、すぐにレオンを抱っこして、体をチェックする。

「濡れてない……どういうこと?」


 レオンの体は、液体状の物質に囲まれていたのにも関わらず、一切濡れていない。その状態を見て、アゲートは冷静に分析を行う。

「彼の力でしょう。ダウンフォールは”エノクαレポート”によるとスポア以外の物質化を行うらしいので、恐らくはレオンは水のような物質に変化するようですね。あ、この物質に関しては確保しているので安心してください」

 突如よくわからない単語が飛び出てきたものの、カーティスはひとまずレオンが無事で安心する。

「とりあえずは大丈夫か……」


 すっかり安堵した状態で、カーティスはレオンとともにへたへたと腰を下ろす。

 一方、そんな空気をぶっ壊すようにイリアらが大声を上げて中に入ってくる。

「2人共! 無事!?」

 聞こえてきたイリアの声は恐ろしく怯えている。流石にこんな状況だからか、相当に恐れを感じているようである。

「この通り一応無事だ。レオンもな」

 カーティスがそうやって返すと、イリアは同じように大きく安堵してため息をつく。

 状況は最悪であるが、ひとまず越えた危機に対して、一同は永遠に続いてほしいと祈った。


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