久しぶりのチャパコット
チャパコットの花卉ハウス群を最初に見て回る。
ベゴニアとプルメリアの出荷最盛期だったようで、作業員達がせっせと世話をしていた。植木の方では、ゴールデンシャワーやランタナといったツル性の花木が目立っている。
一方でランは小休止の時期らしく、出荷されているのはエリデスとリンコスティリスの二種類が主だった。
カルパナがKL培養液や光合成細菌の散布頻度を指示しながら、ゴパルに話を続ける。
「半月後になれば気温が下がってきますので、さらに多くの花が出荷できます。ちょうどティハール大祭の需要に合わせた形ですね」
ティハール大祭ではマリーゴールドの花が人気になるのだが、それ以外の花もよく売れるらしい。
ゴパルは花の名前をいまだに覚えていないのだが、これから本格的に忙しくなる事は理解できたようだ。
「今の時期にハウスを巡る事ができて良かったです。花栽培でも、KLや光合成細菌が上手く働いてくれているようで安心しました」
カルパナが少しいたずらっぽく笑った。
「意外と作物よりも使いやすいですね。花の場合は土を毎回入れ替えますから、育苗土を大量につくるような使い方になります」
切り花用の花はハウス内で栽培するのだが、それ以外は全て鉢植え栽培だ。
土はチャパコットの尾根向こうにある、南斜面の崩落地から取っていると話してくれた。土道なのだがシャンジャ郡でも多くの車道が伸びている。その道の掃除や土砂崩れで生じる土を無料で集めているらしい。
様々な場所から土を集めてきているので、鉢植え栽培をすると花の生長にバラツキが生じる。今まではそれが大きな問題点だったのだが、土ボカシ化する事で均質化できたと喜んでいるカルパナだ。
ゴパルが感心しながらメモする。
「なるほど。そういう使い方もあるんですね」
ハウスを巡ってから次に、キノコ栽培のハウス群を見て回った。ここではヒラタケやオイスターマッシュルーム、フクロタケの他に、少量だがエリンギ栽培も加わっていた。
ただ、連作障害を回避するために、今後はハウスを別々の場所に設ける予定らしい。申し訳なさそうにコメントするゴパルである。
「連作障害はKLを使っても多分起きると思います。ハウスを建てる場所を毎回移動させないといけないのは、面倒ですよね」
カルパナの方はそれほど困っている様子ではなかった。
「そうでもありませんよ。チャパコットの集落内で栽培場所を転々と変えますので、農家さんは喜んでいます。この辺りはマガール族が多いですからね。みんなで一緒に栽培するのを好みます。私達のようなバフン階級とはちょっと違いますね」
そういえば、パン工房のマガール族従業員は一糸乱れぬ仕事ぶりだったっけ……と思い出すゴパルだった。集団行動が得意なのだろう。バフンやチェトリ階級はその逆である。
キノコ栽培の様子を撮影してから、最後に森の中へ入ってヤブツバキの林に到着した。北斜面なのでまだ森の中は湿っぽい。吸血ヒルも少数だがまだ頭を振って待ち構えているので、見つけたら踏み潰したり鎌で切ったりしていく。
ヤブツバキの林では実の収穫が始まっていて、数名の作業員達がカルパナに合掌して挨拶してきた。
カルパナも合掌して挨拶を返し、近くの実をもいだ。それをゴパルに見せる。大きさはゴルフボール程度だ。その分厚い果皮が割れて、中から大きな種が顔を見せている。
「このような見た目になったら収穫適期です。土ボカシや生ゴミボカシを与えたおかげで、今年は豊作になりそうですよ」
野犬や野ネズミ等は生ゴミボカシをある程度食べてしまうのだが、野菜栽培とは違ってヤブツバキの木に被害は出ていないらしい。残念ながら、吸血ヒルの数は減らなかったようであるが。
収穫した実は育苗用と椿油用に分けて、椿油用を一週間ほど天日乾燥させる。
育苗用の種は、すぐにKL培養液を千倍に水で薄めた中に一日浸けてから、育苗土を使って発芽させて苗に仕立てる予定だそうだ。
カルパナが実を近くの作業員のカゴに入れてから、ゴパルに聞いた。
「ゴパル先生のお母さまですが、今年も一瓶で足りますか?」
ゴパルが両目を閉じて頭をかいた。
「今年からは、定価で買います。お金持ちになりましたからね。一瓶予約しても構いませんか? 結構、気に入ったそうなんですよ」
カルパナがニッコリと笑った。
「毎度ありがとうございます、ゴパル先生」




