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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
お祭りの季節は忙しいんですよ編
983/1133

マイケルの忠告

 ナヤプルではジョムソンから走ってきた小型四駆便に乗って、直接ダムサイドまで到着できたゴパルであった。走行ルートが変わったので、大助かりである。

 これまではポカラのバスパークに到着して、そこからタクシーや市内バスに乗り換えてダムサイドへ向かっていたので、手間がかかっていた。ダムサイドの停留所からは、ルネサンスホテルまで歩いて数分の距離である。

「さすが観光シーズンだね。便利になってる」

 しかし、走行ルートは度々変わるものなので、次回もこのルートのままかどうかは分からないが。


 ともあれ機嫌を良くしたゴパルが、最近のインド映画のダンス曲を口ずさみながらホテルのロビーに入った。

 と、そこには中国人のマイケルが居て、協会長と何やら話をしていた。しかし、それもゴパルがチェックインを済ませた頃には終わったようだ。ゴパルに手を振って挨拶をして、軽く雑談を交わした。

 低温蔵で実験している子豚の脚を使った火腿づくりは順調だとゴパルが知らせると、素直に喜んでいる。

 その後で、ゴパルがリュックサックの中から取り出した野生キノコ入りの袋を見て、興味津々の表情になった。マイケルは冬虫夏草の取引にも関わっているそうで、今年の収穫はいつも通りだったと穏やかに笑って話してくれた。

「封がされているのか……どんなキノコなのか見たかったのですが残念」

 ゴパルが軽く頭をかいた。

「残念ですが、冬虫夏草は含まれていませんよ。採集時期が終わったそうで、今は普通の野生キノコばかりです。セヌワの森で採れたそうですよ」


 マイケルが少し残念そうな仕草をする。

「そうですか……しかしまあ、これはこれで有益な情報ですね。お礼に一つ、噂話を……」

 穏やかな表情のままで声が低くなった。

「米国の有機農業団体のタン女史ですが、我々の間ではあまり評判が良くありません。気をつけた方が良いと思いますよ」

 ゴパルが目を点にして聞いている横で、協会長も目を点にしていた。カルパナが運転するジプシーがホテルへ走ってきたのを見て、マイケルが話を切り上げた。

「では、私はこれで。この噂をカルパナさんにするかどうかはゴパル先生とラビン協会長に一任します」

 そのままロビーから去っていった。ゴパルと協会長が顔を見合わせる。

「どうしましょうか、ラビン協会長さん」

 協会長が少し考えてから、軽く肩をすくめて答えた。

「タン女史の良くない噂は、私もある程度は知っていますが……とりあえず、カルパナさんに知らせておいた方が良いでしょう。少なくとも、マイケルさんの周囲の中国人の間では、そのような噂があるという事ですので」

 了解したゴパルが、ちょうどロビーに入ってきたカルパナに知らせた。意外にも、カルパナもある程度は予想していた様子である。

「隠者さまも似たような事を仰っているんですよ。実際、ジェシカさんとタンさんが仲良く話している場面を見た事はありませんし」

 少しの間考えてから、顔を協会長へ向けた。

「そうですか……中国人の商人の間でもそんな噂が流れているのですね。ラビン協会長さんも気をつけているようですし、注視しておきます」


 空気が少し重くなったので、ゴパルがキノコ袋をカルパナに見せた。ついでに、いつもの男スタッフに頼んでサビーナを呼んでもらう。

 カルパナが袋を持ち上げてゆっくりと振る。ある程度は乾燥しているのか、カサカサと乾いた音がしている。ニッコリと微笑むカルパナだ。

「雨期が終わると野生キノコのシーズンが始まりますね」

 そして、ロビーに顔を出したサビーナに手を振った。

「サビちゃん、こっちこっち。カルナちゃんから野生キノコが届いたよ」

 サビーナが小走りでやって来て、袋を受け取った。彼女の目もカルパナ同様にキラキラしてきている。

「おお。量が結構あるわね。やるじゃん、カルナちゃん。それじゃあゴパル君、写真よろしく」

 早速、ゴパルに命じて彼のスマホで袋を受け取った姿を撮影してもらった。これで受領完了である。


 ゴパルがカルナ宛てに写真を送っている間に、封を切って袋の中身を確認するサビーナだ。

「ササクレヒトヨタケ、マツタケ、タマゴタケ、ブナハリタケ、アカモミタケ、それとチチタケか。マツタケは人気がないからヤマっちに売りつけるとして、今晩のメニュー表に色々と書き足せそうね」

 ゴパルが軽いジト目になった。

「転売するんですか、サビーナさん……」

 サビーナがニコニコ笑顔のままで、カルパナの分を仕分けしながら肯定的に首を振った。

「日本料理店の石先生から、色々とマツタケの料理方法を聞いている段階なのよ。当面はヤマっちに任せるわ」

 厨房スタッフが来て、仕分け済みのキノコを厨房へ運んでいった。カルパナ向けのキノコも結構な量である。

 サビーナがチャットでカルナに礼を書き送ってから、カルパナに聞いた。

「こんな量でいい? 巡礼者の人数もこれから増えてくるでしょ」

 カルパナが袋を閉じて穏やかにうなずく。

「うん。栽培キノコがあるから、それに加える形になるかな」

 今もチャパコットの簡易ハウスでヒラタケやフクロタケ、エリンギを栽培しているらしい。土道がそろそろ乾いてきたので、そのうち行ってみようという事になった。

 そういえば、長い間チャパコットに行っていないなあ……と思うゴパルである。


 レストランから給仕長が顔を出して、サビーナを手招きした。

「サビーナさん。すいませんが、そろそろ厨房へ戻ってきてください。新米シェフが困っています」

 小さくため息をついたサビーナが、笑顔をカルパナとゴパルに向けた。

「新装開店するレストランが最近多いのよ。そのシェフを育てるのも任されててさ、結構大変。それじゃあ、また後でね」

 そのまま去りかけたのだが足を止めて振り返り、ゴパルとカルパナを指差した。

「ああそうだ。お菓子づくりの撮影もするから手伝いなさい。今回はクレーム・ブリュレ。その後でヤマっちが食事しに来るから、一緒に食べていきなさいな」

 そう言い残して、小走りで厨房へ戻っていった。ゴパルがカルパナに困ったような表情を向けた。

「予定が増えてしまいました……」

 クスクス笑うカルパナだ。

「ダサイン大祭の前ですからね。私もご一緒します」


 その時、ゴパルとカルパナのスマホで同時にアラームが鳴った。慌ててテレビ電話のアプリを起動させる二人だ。さすがにポカラ市内なので高速通信ができている。

 すぐに、ツクチェのリンゴ農家であるビカスの日焼けした顔が映った。今回もカウボーイハットに首手ぬぐいの姿である。

「こんにちはラー。ポカラは雨期明けラね。こっちは夜が涼しくなってきたラー」

 相変わらずのラーラー語尾である。ゴパルとカルパナも慣れた様子で挨拶を交わした。

 ラビ助手の顔は見当たらず、代わりに謝罪コメントが届いた。風邪をひいたので休むらしい。それを読んで同情するゴパルである。

「やっぱり過労だよね。季節が変わると風邪をひきやすくなるとはいえ、仕事のし過ぎだよ、ラビさん」


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