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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
お祭りの季節は忙しいんですよ編
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ルネサンスホテルのランチ

 レカはホテル協会のポータルサイトの更新作業があるので、ゴパルはカルパナと二人でポカラへ戻った。

 ルネサンスホテルへ到着してみると、ジェシカ達はランチを終えて観光に出かけたとラビン協会長が教えてくれた。

 少しがっかりするカルパナである。

「そうですか……行き違いになってしまいましたね。それじゃあ、私はパメへ戻ります。種苗店の店長なのに、あまり店の仕事をしていませんし」


 カルパナを見送ったゴパルが軽く背伸びをした。眼前にはフェワ湖が広がっていて、青空を映してキラキラと輝いている。マチャプチャレ峰とアンナプルナ連峰は、半分ほどが雲に覆われているのだが白銀に輝いていた。

 すっかり見慣れてしまったようで、写真や動画を撮る気になっていないようである。

(ジェシカさん達は、本当に観光しに来ているみたいだなあ)


 そこへラビン協会長がやって来た。彼の服装は気温が下がってきたためか、スーツの生地が少しだけ厚めに変わっている。ゴパルにチヤを手渡した。

「雨期が明けると忙しくなりますね。ジェシカさんですが、実は先程、鈴付き山羊に服を食べられてしまったのですよ。麻製の服だったそうで。それで、レイクサイドへ服を買いに行っています」

 どうやら観光ではなかったようだ。頭をかいて反省するゴパルである。

「そうでしたか。それでは後で、カルパナさんの店に行くのかな。桃がちょうど出荷を始めたそうですし」

 協会長が穏やかに微笑んだ。

「西王母の桃でしたら、先程のランチで召し上がっていましたよ。皆さん気に入った様子でした」


 ゴパルが少し考えてから、そっと聞いてみた。

「ジェシカさん達って菜食主義ですか? そんな印象を受けたのですが」

 協会長がそっと答えた。個人情報なのだが、知らせた方が良いと判断したのだろう。

「菜食主義の方は来ていませんよ。農作業で体力を使うのでしょうね、良い食べっぷりでした」

 そう言ってから、ゴパルに今日のランチのお勧め料理を紹介し始めた。この辺りは商売人である。

 米ナスのパルマ風グラタン、西王母の桃をトマトの代わりに使ったカプレーゼ、ニース風サラダ、ナスのチーズ揚げ、アスパラガスのパイ……といった料理が人気らしい。


 ゴパルが感心しながらも軽く肩をすくめた。

「野菜料理が多いんですね。やはり、ポカラの富裕層が好むからですか? バフンやチェトリ階級の客が多いのかな」

 協会長が肯定的に首を振った。

「今はグルンやマガール族の富裕層でも、野菜料理を好む人が多いですよ。商談の場としてもレストランを使いますし。あまりお腹にたまらない料理の方が良いそうです」


 ニース風サラダは、サラダ菜にトマト、ピーマン、オリーブ、アンチョビ、茹でたマグロ、茹で卵などを一緒にしている。

 直径十五センチほどもあるサラダ皿に盛りつけて出すのが、サビーナのやり方らしい。注文に応じて、これに茹でザリガニのむき身を混ぜてもいるとか。


挿絵(By みてみん)


 ナスのチーズ揚げは、ナスの原型を留めていなくて団子型だ。

 ナスを大きめの輪切りにしてから茹でてアクを抜き、さらに野菜のダシを使って柔らかく茹でてから細かく潰す。

 これに卵黄と干しブドウ、ペコリーノチーズを加え、オレガノやナツメグといった香辛料を足して塩コショウで調節する。これを平たい団子型にまとめて、卵黄を絡めてからオリーブ油で揚げる。

 リコッタチーズを上から削りかけ、野菜を赤ワイン酢でマリネした上に乗せて客に出す。好みに応じてアンチョビを追加したりもするらしい。


 アスパラガスのパイは、フランス料理ではメインディッシュになったりもする。大量のアスパラガスをパイ生地で包んで焼き、ハーブで風味をつけたバターソースをかけて食べる。


 協会長が何やら思い出したのか、軽く肩をすくめて微笑んだ。

「ジェシカさんがメニューでこの料理を見つけて給仕に聞いたそうなのですが、アスパラガスには一家言あるようですね。色々な料理法をサビーナさんに教えたそうですよ」

 ゴパルでもすぐに使えそうなものだと、アスパラガスは茹でる直前に皮をむくべき……らしい。特に日に当てないで育てた白アスパラガスの場合には、そうする事で香りが立つとか。

 素直に聞いてスマホにメモをするゴパルである。

「なるほど。実家の母や兄嫁に知らせてみます。ABCではアスパラガスは見当たりませんねえ……サンディプさんに今度注文してみようかな」


 他にランチで人気になっているのは、季節の果物盛り合わせと米粉パンだと協会長が教えてくれた。ニコニコしながらゴパルに礼を述べる。

「米粉のパンが次第に知られるようになってきました。ゴパル先生のおかげです。ポカラ特産のパンに育ってくれると嬉しいですね。自家製酵母のブレンドも人気ですよ。パンの食感や香りが違ってきますね」

 ゴパルが恐縮した。

「私は提案しただけに過ぎませんよ。商品化したのはパン工房長さんです」


 そう言ってから、少し真面目な表情に変わった。

「ランチのメニューですが……肉料理は何がお勧めですか?」

 穏やかに微笑んで答える協会長である。

「ダチョウ肉のクリーム煮が今日のお勧めですね。ブトワルのダチョウ農家と契約しまして、今はダチョウ料理の宣伝をしているんですよ。バクタプール酒造の白ワインとも、それなりに相性が良いと思います」

 ニッコリと笑ってうなずくゴパルだ。

「良いですね。それではニース風サラダとダチョウ料理にしようかな。最後に西王母の桃をデザートにします。ずっと桃園の外から指をくわえて見ていたんですよ」

 給料が増えたので豪気になっているゴパルであった。


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