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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
98/1133

セヌワの民宿

 民宿街は、セヌワから少し離れた街道沿いにあった。

 急斜面から突き出た、ロバの鞍のような小さな尾根の上に、数軒が一まとめになって建っている。斜面のコブに生えたキノコの群落のようにも見える。

「凄い場所にあるなあ」

 ゴパルが感心しながら、予約しておいた民宿へ入った。看板には『ホテルセヌワ』と、英語の手書きで書かれてある。

 ここもチョムロンの民宿と同じく、建築して間もないようだ。白い石造りの二階建てで、明るい水色のトタン屋根の上には、太陽光発電パネルと温水器パネルが設置されている。


 民宿の入口には、ナヤプルから目的地までの主な山村の標高が、簡単な地図と共に記載されていた。

 それを見ると、ここセヌワは標高二千三百メートルとある。ガンドルンが千九百メートルなので、今日は四百メートルほど登った事になる。

「アンナプルナ氷河のある場所は、アンナキャンプか。うん、四千百メートルだな」

 事前に調べた観光情報サイトでは、アンナプルナ ベースキャンプという地名だったのだが、アンナキャンプの方が短くて言い易い。ゴパルも、こう呼ぶ事にしたようだ。


 予定では、今日はセヌワに泊まる。翌日にデオラリという場所に一泊して、次の日に氷河のあるアンナキャンプに到着する計画だ。

(しかし、これまでの道は、泥道だったけれど、歩き易かったな。体力も余裕があるし、先に進んでも構わないかな……しかし、そうすると、今日中にデオラリに到着しないといけない、か)

 どうしようかと思案するゴパルであった。


 セヌワの民宿は、ガンドルンの民宿ローディを、さらに簡素化したような造りだった。

 受付とバーと食堂とロビーと物干し場を、全て兼ね備えた土間に入る。奥は調理場と客室のようで、木製の階段がある。二階部分は客室だけのようだ。

 ロビーにはテレビがあったが、電波の状態が悪く、画面が荒れている。ここも国営放送を流していた。

 歌番組を流していて、今は数名の欧米人観光客と、そのガイド達が、チヤやコーヒーを飲んで寛いでいた。歌番組では、ジーンズを履いた男が、ランタン連峰が望めるカカニ展望公園で、軽く踊りながらフォークソングを歌っている。


 その彼らと一緒になって歌番組を眺めていた、四十代後半の男が、ゴパルに振り向いた。

「やあ、いらっしゃい。泊まりですか、食事ですかナ?」


挿絵(By みてみん)


 かなり年季の入った革製の登山靴を履いていて、板敷きの床を鳴らしながらやって来た。身長は百六十センチくらいで、骨太の筋肉質な体をしている。あまり脂肪はついておらず、俊敏な動きだ。

 グルン族らしく、一重まぶたの黒い瞳で、一見、眠そうにも見える。眉は太く短く、刈り上げた黒髪と似合っている。

 ゴパルが合掌して挨拶をした。

「予約していたゴパルです。よろしくお願いしますね」

 グルン族の男が、ニッコリと笑った。

 分厚く大きな右手をゴパルに差し出してくる。その手は、野良作業を子供の頃から続けてきた事を、雄弁に物語っていた。

「ようこそ、ホテルセヌワへ。俺は宿の主をしているニッキっす」

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