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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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竹林の寒村セヌワ

 実際には、チョムロンからセヌワまでは、谷をもう一つ越える必要があった。山の斜面は、さらに急峻になり、モディ川を挟んだ向かい側の斜面も、より近くに迫ってきている。時刻は昼過ぎになろうとしていたが、山に囲まれているせいで薄暗い。

 森の木々も、ネパールハンノキからシャクナゲに、置き換わり始めている。

 シャクナゲはネパールの国花なのだが、有毒植物なので、畜産農家からは嫌われている。餌にできないためだ。他に、細い竹も目立つようになってきた。

 段々畑も小さく、少なくなってきた。

 しかし、ここまで田舎になると、自給用の作物を栽培する農家が増えてきているようだ。耕作放棄地は、相変わらず多いのだが、しっかりと耕されたジャガイモ畑や、シコクビエの畑が見える。

 道も完全に土道となり、石板に代わって、露出している岩が、階段の役目を果たすようになってきた。ロバ隊も、盛んに行き来しているようで、ロバ糞があちこちの岩の窪みに詰まっている。


 東西から高山が迫っているので、日差しがあまり差さないのだろう。気温が急速に下がってきた。

「氷河からの冷気が、ここまで来ているのかな。両側の山も、そろそろ高さが五千メートル級になるだろうし」

 しばらく歩いて行くと、行く手に小さな集落が見えてきた。これがセヌワだろう。

 チョムロンも急峻な斜面に貼りついたような印象だったが、セヌワはその印象がさらに強い。一目で寒村だと分かる。

 細い竹が、林になって険しい斜面に生えている。セヌワの周囲に、特に多く竹が多いので、植林してもいるのだろう。

 ゴパルが、セヌワに接している竹林に向かった。若干、方向オンチのところがあるので、セヌワの集落が見える場所で採集するつもりのようだ。


 ネパールの竹は、日本と違い、一ヵ所にまとまって生える種類が多い。そのために、竹林の中は竹だらけで、足の踏み場もないほどだ。太さは、親指ほどしかない。

「新芽が出ているね。これは、採集しておこうかな」

 竹の葉には、広葉樹や雑草とは違う種類の細菌やカビが付着している。酵母菌も付いているので、発酵用に使える場合があるのだ。

 早速、リュックサックを下ろして、中から採集道具を取り出す。

 竹やぶの中は、何度も刈り取りが繰り返されているようで、切り株みたいになっている。切り口が鋭いので、足を怪我しないように、慎重に竹林に踏み入るゴパルだ。

「今は雨期なので、埃が立たないね。この新芽が良いかな」

 手早く、プラスチック製の試験管チューブに新芽を突っ込んで、綿栓で閉めていく。今回は十分間ほどで、採集を終えた。まあ、竹しかないので、飽きたのだろう。


 竹林と接しているセヌワの集落は、チョムロンよりもかなり小さくて、家の造りも素朴なものだった。

 石板を瓦屋根として使っていて、白く塗った石の壁、黒褐色の木製のドアや窓が印象的だ。屋根からは、薪かまどの煙が細く立ち昇っている。

 家の周辺には、竹で編んだ小屋も多く建っていた。ここで竹細工をしているのだろう。

 学生は見当たらなかった。時間を見ると、今は授業中だ。

「さて、セヌワの宿に向かおうかな。今日の採集物を首都に送る必要もあるし」

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