ニンニク、ニンジン、トマトにブロッコリー
その次に立ち寄ったのは、ニンニク苗を定植する予定の畑だった。面積が千平米ほどあり、生ゴミボカシを三百キロ、カキガラ粉を二百キロ、牛糞堆肥を五トン投入して、耕うん、畝立てして敷草で保湿してある。
カルパナが少しいたずらっぽく微笑んだ。
「カキガラ粉は輸入品です。将来は、バルシヤ養鶏さんやレストランから卵の殻をたくさん分けてもらうつもりですよ」
ポカラには他にも養鶏企業がいくつかあるので、そことも交渉するらしい。感心して撮影するゴパルだ。
「なるほど。トラックが必要になる訳ですね」
ニンジン畑にも立ち寄って撮影をする。順調に育っていて、若草色をした芝のようにも見える。葉の形は尖がっていないが。ここも、生ゴミボカシを千平米あたり三百キロほど撒いたと、カルパナが説明してくれた。
「犬やネズミですが、ボカシの熟成期間を延ばすと寄り付かなくなりました。餌と認識されなくなるみたいですね」
目を点にして聞くゴパルだ。
「マ、マジですか。あれほど試行錯誤して土ボカシで回避したのに……熟成期間を延ばすだけで解決したんですね……ははは」
ただ、それでも大きな塊は餌になる恐れがあるので、細かく粉砕して散布したらしい。カルパナがその作業を思い起こしたようで、クスクス笑う。
「油を使わないアチャールの臭いそのものになっていました。畑全体がそんな臭いになって、ちょっとした騒ぎになりました。ですので、やはり土ボカシを使ったほうが平和で良いかもしれません」
ニンジン畑の今後については、生育を見ながら追肥をし、ニンジンよりも背の高い雑草だけを抜く作業になるそうだ。
そのような雑談をしながら、竹製の簡易ハウスに到着した。
中に入ると、冬トマトの育苗が始まっていた。底に穴を開けた底の浅い木の箱に、育苗土が詰められてある。
カルパナの説明では、KL培養液を水で五千倍に薄めた液を散布して、土の水分調整を行っているという事だった。これに深さ一センチほどの溝を刻む。溝と溝の間隔は六センチだ。
トマトの種はKL培養液を千倍に薄めた液に一晩漬けこんでから、溝に蒔いていく。種と種の間隔は一センチ。その後、土を被せる。発芽適温が二十五から三十度の間なので、日中は日に当たるようにし、夜はビニール等を上に被せて保温する。
「四から六日で発芽します。テライ地域ですと三十五度を超える日がありますね。ポカラはその点で気楽です」
簡易ハウス内にはトマトの他に、ブロッコリーのポット苗も育っていた。カルパナが本葉に軽く触れながら、ゴパルのスマホカメラに向かって説明する。
「ブロッコリー苗ですが、本葉の数が五、六枚になったら畑に定植します。ここにある苗は、明日あたりに定植する予定ですよ」
ブロッコリー苗を定植する畑では、幅六十センチほどの高畝を設けてあるらしい。その高畝に四十センチ間隔で苗を定植していく。平米あたりでは五株くらいの密度だ。ただ、この時期は曇り空ばかりで暖まりにくいので、植穴の深さは十五センチまでにしている。
定植後は株元の土をよく押さえて、株元を除いた高畝の全面を刈り草で覆う。この時期はよく雨が降るので、特に水やりをする必要はない。
その後は、生育を見ながら生ゴミ液肥を散布していく予定だ。
簡易ハウスの撮影を終えて、ゴパルとカルパナが外に出た。まだ小雨模様で、どんよりと曇っている。北の空では雷雲も発生してきているようで、時々雷鳴が聞こえる。
カルパナがその他の農作業について、簡単に紹介した。
「ナウダンダではエシャロットという西洋香味野菜の育苗を準備しています。今は育苗用の畑に、雑草や緑肥をすき込んでいる最中ですね」
そう言ってから、スマホで時刻を確認する。
「まだ時間がありますが……そろそろ雨が強く降り出しそうな雰囲気ですね。ルネサンスホテルへ送ります。シスワではグアバとスナックパインの収穫が始まったのですが、またの機会にしましょうか」
ゴパルも北の空を見上げて同意した。稲光も見えてきている。
「そうですね。スマホのバッテリーもそろそろ切れそうですし、ここまでにしましょう」
竹製の簡易ハウスの扉を閉めて、一応カンヌキをかける。放牧されている山羊がハウス内に突撃してくる恐れがあるためだ。
それを手伝ったゴパルが、改めてカルパナに礼を述べた。
「カルパナさん、KLの事業が始まって一年が経ちました。私が農業に詳しくなくて迷惑をかなりかけてしまいましたが、ここまで付き合ってくれてありがとうございます。今後ともよろしくお願いしますね」
カルパナが照れながらニッコリと微笑んだ。
「こちらこそ感謝していますよ、ゴパル先生。でも、まだようやく第一歩を踏み出した所です。課題は山積みのままですから、頑張らないといけませんね」
サビーナさんと同じく、仕事熱心だなあ……と感心するゴパルであった。とりあえず敬礼する。
「ハワス、カルパナさん」




