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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
ポカラは雨がよく降るんだよね編
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キャラメルタルト

 鍋に生クリームとグラニュー糖を入れて、火にかけて沸騰させた。それをチョコレートを入れたボウルに注ぎ入れて、よく混ぜ合わせる。

「この時に、空気が入らないように混ぜるのがコツね」

 別のボウルに生クリームを入れて、氷水を入れた大きなボウルの上に置く。これを泡立てて、六分立てにする。その後チョコレートを溶かしたボウルに移し、軽く混ぜて馴染ませた。

「これでガナッシュの完成。ラップを被せて冷蔵庫で冷やしておく事。それじゃあ次にキャラメルクリーム作りね」

 鍋にグラニュー糖を入れて火にかけた。

 砂糖が溶けてきたら水あめ、バニラ入りの生クリーム、それに無塩バターと塩を加えてじっくりと混ぜていく。


「糖度計があればブリックス値は七十八が目安ね。持っていなかったら、こんな風にして確認する事」

 サビーナが小さな味見用の皿に少し垂らした。少し冷ましてから、指で線を引く。

「線がくっきり残って、指から垂れてこなければオッケー」


 ここでオーブンが鳴った。中から焼きあがったタルト器を取り出して調理台の上に置いていく。

「それじゃあ、詰めていくわね。まずはキャラメルクリームから」

 タルト器の八分目まで、キャラメルクリームを注いでいく。

 その作業が終わってから、冷蔵庫で冷やしておいたガナッシュを取り出した。とはいっても、短時間しか入れていないので大して冷えていないようだが。

「本当はキャラメルクリームを注いだ後で、タルト器ごと冷蔵庫に入れて、冷やした方が良いんだけど……まあ、大丈夫でしょ」

 キャラメルクリームの上にガナッシュを注いでいき、最後に粉糖とココアパウダーを全体にまぶした。

「ほい、完成。今回はちょい熱いから、ゆっくり食べなさい」


 ゴパルが早速一つ試食した。まだ温かいのでキャラメルクリームが溶けだして慌てている。

「うわおわ……漏れる。熱いのも美味しいですね。タルト器もまだ温かくて、まさに焼きたてって感じです」

 カルパナもクリームが溢れ出してきたので、慌てながら食べていた。

「あわわ……サビちゃん、家庭向けでもちゃんと冷やした方がいいよ。焼きたての美味しさは捨て難いけど」

 サビーナはタルトを一口で食べてしまい、予想外の熱さに目を白黒させていた。水を飲んで一息つく。

「あちち……キャラメルクリームが曲者だな。意外と冷めないのか。菓子作りが専門じゃないから、こういう失敗もあるわね」

 レカが撮影を終えて、最後にタルトを食べた。やはり熱かったようで、水を飲んでいる。

「でも、こーゆーのも好きー。洋菓子って冷たいのが多いしー、たまには熱いのも良いー」


 菓子作りの後片付けをしていると、協会長がヤマと援助隊員の男を案内して会議室に入って来た。

「残念。お菓子作りは終わってしまいましたか」

 ゴパルとカルパナに合掌して挨拶をする。

「お二人はご無事のようですね」


 ゴパルが合掌して挨拶を返し、軽く頭をかいた。

「言われてみれば、無我夢中で助けに行きましたから、ケガを負う危険もありましたね。運よく無事です」

 カルパナも頬を指でかいて苦笑いしている。

「そうですね……電気自動車なので爆発しにくい事を忘れていました」


 協会長が穏やかに微笑んで、次にヤマと援助隊員に視線を向けた。

「彼らの精密検査が終わりました。異常は無いそうですよ」

 ほっとするゴパルとカルパナだ。サビーナとレカは事故現場をその目で見ていないので、聞き流しているが。

 ヤマに続いてアバヤ医師も顔を出した。既に普段着である。

「おうおう、残念。仕事をした後は甘いものが食べたくなるんだが、無いか」

 ヤマと男の援助隊員がつたないネパール語でカルパナとゴパルに礼を述べた。

「アリガトウゴザイマシタ。感謝タクサンです」


 アバヤ医師が改めてヤマ達二人の精密検査の結果を知らせた。

「エアバッグに助けられたな。特に異常は見られなかったから安心せい。ただし、ヤマ氏は血糖値やら色々問題があるので気をつける事だ」

 素直に了解するヤマである。アバヤ医師が医者らしい威厳を見せて、太鼓腹を張って笑った。ジョギングをしているという事らしいが、あまり体型が変わっていない。

「検査代は事故保険がおりるんで、問題ないぞ」


 レカがジト目になってアバヤ医師を見つめているのに気づき、アバヤ医師がコホンと咳払いをした。

「検査料金の割り増し請求とか、二重請求とか、不要な検査とかしておらんわい。ワシは医師協会のストライキにも参加しない善良な町医者だからな」

 その割には、具体的な単語が三つほど出てきたような気がするのだが。レカがジト目のままで、口元を緩ませた。

「わたしは何にも言ってないけどー。お仕事ごくろうさまー」


 ヤマが英語に切り替えて、軽く肩をすくめて自虐的に微笑んだ。バーコード頭が少々乱れる。

「私はまた始末書を書いて、日本に一時帰国ですよ。インド製の小型四駆車なので多少安いのが救いですね」

 隣の若い男の援助隊員は、帰国せずに首都でしばらくの間療養する事になるらしい。片言のネパール語で話してくれたのだが、彼は国営ラジオ局に派遣されていて、ネパール各地を回って電波の受信状況を調べる仕事をしているという事だった。

 同情するゴパルである。

「大変な仕事ですね。山深い集落とかたくさんありますよ。下痢にかかりやすいですから、飲み水には十分に気をつけてくださいね」

 サビーナがギリラズ給仕長と相談してヤマ達に提案した。

「それじゃあ、無事だった事を祝いましょう。ついでに日本への一時帰国おめでとう会もね。急に決めたから、凝った料理は用意できないけど、何か作るわよ」


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