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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
ポカラは雨がよく降るんだよね編
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とりあえず移動

 この救出騒動でカルパナとゴパルは泥だらけになってしまったのだが、レインウェアを着ていたので水浴びして汚れを落とした。

 ちゃっかりと吸血ヒルが足に咬みついていたので、引きはがして踏み潰す二人である。傷口を消毒して、血が止まってから絆創膏を貼る。

 ゴパルがレインウェアの襟元を広げて、下に着ている半袖シャツをカルパナに見せた。

「こんな服装なんですが、大丈夫でしょうか」

 カルパナがサビーナに電話して確認する。

「問題ないそうですよ。レストラン内ではなくて、隣の会議室を使うと言っていました。レカちゃんも来るそうです」

 ゴパルが両目を閉じて小さく呻いた。

「こういう事になると迅速に行動しますよね、レカさんって……」


 小雨が降り始めたので、レインウェアのままでバイクに乗ってルネサンスホテルへ向かう事になった。レイクサイドの繁華街を通ったのだが、雨なのであまり人は多くない。

 おかげでスイスイと走り抜けていくカルパナである。これですっかり機嫌が良くなったようだ。後部荷台のゴパルに、無線器を通じて明るい口調で話しかけてきた。

「雨の日は涼しくて良いですよね。私も農作業が忙しくなってきましたので、車を買う事にしました。ヤマさんが乗っていたジプシーにするつもりですよ」

 ゴパルがうなずいた。

「ジプシーですか。確か、インド軍が採用している車でしたよね。山道を走るには良い車だと、兄のケダルからも聞いています」

 まあ、軍仕様と一般向けとはかなり違うのだが、そこは指摘しないカルパナである。ジプシーの調達では、レカナートの軍駐屯地前で茶店に入り浸っている、軍の偉い人の口添えがあったようだ。


 そんな話をしながらルネサンスホテルに到着すると、コックコート姿のサビーナがロビーで出迎えた。もうすっかり興味津々の顔つきである。

「聞いたわよー、カルちゃん。また武勇伝が増えたわねっ」

 カルパナがジト目になって、サビーナの肩をポカポカ叩いた。

「増えたとか言わないでってばー」


 協会長もロビーに出てきた。表情はいつも通りなので、こういう事はよく起きているのかもしれない。

「ヤマ様と、日本人の援助隊員の男性は、無事にアバヤ先生の病院に到着しましたよ。外傷や骨折はしていないという診断ですね」

 そう言ってから、腕時計を見て時刻を確認した。

「今は精密検査をしている最中ですが、それも間もなく終わると思います。問題なければ、このホテルへ来るように伝えてあります」

 感心して聞いているゴパルだ。レインウェアを脱いでいるので、今は半袖シャツにジーンズ、サンダルの軽装になっている。

「さすが情報が速いですね。ほとんど止まっている車が、ゆっくりと下の段々畑に落ちただけです。落差は二メートルくらいかな。ですので、おそらくは大丈夫でしょう」

 二メートルといえども、その落差で自由落下するとかなりの運動エネルギーが発生する。ヤマの体重が不明なので算出できないが、太っているのは事実だ。

 協会長が事故の様子を聞いてきたので、ゴパルが警察に話した内容をもう一度話した。腕組みをして深刻な表情をする協会長だ。

「雨期ですからね……路肩が崩れやすくなっていますよね。分かりました。あとは警察に聞いて調書を見せてもらいますよ」

 警察にも顔が利くんだな……とゴパルが改めて感心した。


 サビーナが協会長とゴパルの話を聞いてから、考える仕草をしている。

「……そうか、こっちへ来るかもしれないのね。二台目の車が潰れてしまって落ち込んでいるだろうし、何かつくってあげるか」

 そういえばそうだったな……と今になって思い当たるゴパルである。


 少しするとレカが目をキラキラさせながらロビーに駆けこんできた。

 ゴパルが外に目を向けると、リテパニ酪農のピックアップトラックが停まっている。レカの兄のラジェシュが面倒臭そうな表情をして運転席に座っているのが見えた。

 彼に軽く手を振って同情の意を伝えてから、レカにジト目を向ける。

「レカさん。人の不幸を喜んではいけませんよ。ラジェシュさんも仕事中だったのではないですか?」

 ゴパルに言われて、不満そうな表情になるレカである。

「し、ししし失敬なー。わたしはサビっちのお菓子作りの撮影に来ただけだー。断じて日本人ハゲの事故目当てじゃないー」

 どうやら詳しく情報収集をしていたようである。ちなみにヤマはバーコードとはいえ髪が生えているので、正確にはハゲではない。


 サビーナが肩をすくめて笑った。

「確かに呼んだけどね。指定した時間には二時間くらい早いけど。それじゃあ、せっかくだからお菓子作りをするか。カルちゃんとゴパル君は試食係をしてちょうだい」

 ゴパルがそっとサビーナに聞く。

「レストランの仕事は大丈夫なんですか? 今はランチタイムですけど」

 サビーナが少しドヤ顔になって微笑む。

「手下が育ってきてるからね。簡単なメニューなら彼らに任せてあるのよ。それじゃあ、まずはチョコ菓子から作るか」


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