ジヌー
翌日は朝にABCを発って、セヌワのシイタケほだ木の状況を確認する事にした。その後はジヌーに下りて一泊する。
ジヌーでもヒラタケ栽培をしているので、その様子を見て回るゴパルだ。農家の納屋を借りてのヒラタケ栽培で、収穫後は別の農家の納屋に移動する方式だ。連作障害を避けるためである。
雨期に入って高地でのキノコ狩りをしなくなったカルナが、ゴパルと一緒に農家を回ってくれた。ゴパルはグルン語が話せないので、通訳も兼ねている。
「スバシュさんがつくったソルガム種菌の出来が良いですね。ヒラタケの収穫量も、微生物学研究室で実験していた頃に比べて多いと思いますよ」
ゴパルがスマホで撮影しながらカルナに告げる。カルナが農家の爺さんにグルン語で翻訳して知らせて、少しドヤ顔になって微笑んだ。
「良い副収入になってるわね。ジヌーって見ての通り、急な斜面に囲まれてて日当たりも悪いから、野菜とか植えても出来が良くないのよ」
パメのキノコ種菌生産が本格化したので、ヒラタケ栽培を始める農家が増えてきているらしい。稲ワラはディワシュに頼んで、ブトワルの水田地帯から安く買って運び入れてもらっていると話してくれた。
農家を回り終えてカルナに礼を述べたゴパルが、ドローン配達の実験やポカラとジョムソンでの電気自動車関連の実験の話をする。
カルナもおおよその話は聞いていたようだ。ただ、かなり懐疑的な表情をしているが。
「どうなのかしらね。ガンドルンとかABCにはヘリポートがあるから、ドローンも飛ばせると思うけど……盗まれたりするかも」
ゴパルも同意見だ。
「ですよね。盗賊団も潜んでいますし、高価なドローンは狙われやすいと思います」
カルナが軽く肩をすくめて笑った。
「盗賊団の構成員にグルン族が多くいるんだけど、退役軍人も混じってるって噂なのよね。そういう人ならドローンも飛ばせると思うし、売り先も心得ているんじゃないかな」
退役軍人といっても多様だ。階級が低い身分のままで退役すると、それほど裕福ではない場合が多い。神妙な態度で聞くゴパルだ。
「クシュ教授に、そういう噂がある事を知らせておきますね」
カルナが少しいたずらっぽい表情になった。
「でも、ディワシュやサンディプは乗り気みたいよ。新しいモノ好きだしね。ほら、わざわざナヤプルからここまでやって来てる」
ゴパルがジヌー温泉ホテルに目を向けると、ニッコニコな笑顔の二人がブンブンと手を振っていた。どちらの腕もゴパルよりも明らかに太い。
「よお、ゴパルの旦那あー。話は聞いたぜー。ドローンについてチャイ、ちょっと教えてくれや」
ディワシュに続いて、サンディプも分厚い胸板を反らせて白い歯を見せながら笑った。
「ヒラタケ栽培が広がってるなあ。ナヤプルでも増えてきたぜ、ゴパルの旦那」
思わず足が止まるゴパルである。その背中をカルナが押して、ニヤニヤ笑った。
「今晩はジヌーで一泊するんでしょ。観念して酒に溺れなさい」




