創作ダンスの発表会
さて、女児三人組が出る順番になった。貴賓席からやんやの歓声が上がる。よく見るとスバシュやケシャブ達の姿も見えた。
音楽は予想通りネパール映画のダンス音楽をもじったものだった。大音量で容赦なく巨大スピーカーから音楽が流れ始めると、舞台へ着飾った子供達が十数名ほど一斉に駆け入ってきた。
それを見て感心するゴパルである。
「へえ……バフンやチェトリ階級の正装をアレンジしていますね」
男の子は黒いトピを被り、右前合わせの襟がない白い長袖シャツと、同じく白いズボン。ズボンは足にピッタリと合うような仕立て方だ。白いシャツの上には黒のベストを羽織り、腰には白い帯を締めている。足元は裸足である。
女の子は白地に鮮やかな花柄のサルワールカミーズだ。ただし、襟元はピッタリと合わさっている。首には大きなネックレスがかかっていて、左肩には白地の短いストールが縫いつけてあった。右手首と裸足の足首には色とりどりの輪がはめられていて、軽やかな音がする。
子供達がそれぞれの親に手を振ってドヤ顔になり、創作ダンスを踊り始めた。親バカ達が一斉にスマホ等で撮影を開始する。
カルパナもいつの間にか誰かからスマホを渡してもらったのか、自身のスマホで踊りを撮影し始めた。ニコニコしている。
そのため、隣であくびをしているレカに聞いてみるゴパルだ。ネワール族は別のグループで踊るのだろう。
「レカさん。カルパナさんやサビーナさんの親戚の子供って、何人くらい小中学校に通っているんですか?」
レカが小首をかしげて少し考えた。
「んー……正確な数は知らないけどー、四十人はいるかなー。集落四つ分だしー」
納得するゴパルである。
「なるほど。貴賓席に座ってゆっくりと鑑賞応援するのが正解ですね」
創作ダンスはすぐに終わり、別のグループの順番になった。音楽が終わると同時に、舞台上から飛び降りてカルパナに体当たりしてくる女児三人組だ。超音波を含む歓声を上げているので耳が痛い。
アンジャナが目をキラキラ輝かせながら、カルパナを見上げる。
「ね、ねっ。どうだった? かっこよかった?」
カルパナがニッコリと微笑んだ。
「うん。かっこよかったよ。素敵な踊りだったね。去年よりもずっと上手になってて驚いちゃった」
再び超音波を含む声で喜び合う女児三人組だ。レカが音圧に負けて、ヨロヨロしながらゴパルの背後に隠れた。
「その声やめろー」
ゴパルがレカの支えになって肩を貸しながら、女児三人組を褒めた。
「踊り上手だったよ。親御さんや親戚も貴賓席で喜んでたみたいだね」
ここでようやくゴパルの存在に気がついたらしい。女児三人組が一斉にゴパルを見つめて、指さした。
「あー! 牛糞先生だー」
「牛糞色に染まってるー!」
「臭い奴はやっつけてやれー!」
うきゃー! と超音波を発しながら、ゴパルに飛び蹴りを食らわせる女児三人組である。どさくさに紛れて、レカもローキックをゴパルに放っているようだが。
ゴパルが頭をかいて両目を閉じながら忠告した。
「水洗いしたけれど、まだ泥だらけだよ。そんなに蹴ると、きれいな衣装が泥で汚れてしまいますよ、お嬢さん達」
ピタリと攻撃が止んだ。カルパナが穏やかな口調で女児三人組に告げる。
「貴賓席に行って、褒めてもらってきなさいな。オヤツも用意しているみたいだよ」
オヤツと聞いて、貴賓席へ全力で駆けていく女児三人組だ。
「オヤツ、オヤツー」
「お腹すいたー」
「きゃはははは」
両手で耳を塞いでいたレカが、ほっとしながら手を離した。
「ふひー……やっと去ったかー」
カルパナがゴパルに謝る。
「すいません、ゴパル先生。結構蹴られていましたが、大丈夫ですか?」
ゴパルが明るく笑った。
「山歩きのおかげで足腰が強くなりましたからね。あの程度でしたら問題ありませんよ」
そう言ってから、周囲を見回した。バドラカーリーのヒモバンドのメンバーは、相変わらず娘達や子供達に囲まれて騒いでいるようだ。
「泥遊びして、少し小腹が空きました。屋台を巡ってみましょうか、カルパナさん、レカさん」
レカが即座に同意する。
「賛成ー。ガキ共ばかりオヤツは許せんー」
カルパナがクスクス笑いながら、屋台が建ち並んでいる一角を指さした。
「それでは、サビちゃんが指揮している屋台に行きましょうか。割引料金で何か出してくれるかも」
この時期はSLC試験の結果発表があるので、ホテル協会としてはフェアを開催していた。屋台でも商品の一割引きサービスを学生にしている所が多いようだ。とはいえ屋台なので、ジュースや揚げ菓子のような商品ばかりだが。
ちなみに女児三人組は十歳なので、SLC試験を受けるにはまだ六年ある。そのため、割引サービスもまだ六年間有効だ。




