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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
ポカラは雨がよく降るんだよね編
919/1133

創作ダンスの発表会

 さて、女児三人組が出る順番になった。貴賓席からやんやの歓声が上がる。よく見るとスバシュやケシャブ達の姿も見えた。

 音楽は予想通りネパール映画のダンス音楽をもじったものだった。大音量で容赦なく巨大スピーカーから音楽が流れ始めると、舞台へ着飾った子供達が十数名ほど一斉に駆け入ってきた。

 それを見て感心するゴパルである。

「へえ……バフンやチェトリ階級の正装をアレンジしていますね」

 男の子は黒いトピを被り、右前合わせの襟がない白い長袖シャツと、同じく白いズボン。ズボンは足にピッタリと合うような仕立て方だ。白いシャツの上には黒のベストを羽織り、腰には白い帯を締めている。足元は裸足である。

 女の子は白地に鮮やかな花柄のサルワールカミーズだ。ただし、襟元はピッタリと合わさっている。首には大きなネックレスがかかっていて、左肩には白地の短いストールが縫いつけてあった。右手首と裸足の足首には色とりどりの輪がはめられていて、軽やかな音がする。

 子供達がそれぞれの親に手を振ってドヤ顔になり、創作ダンスを踊り始めた。親バカ達が一斉にスマホ等で撮影を開始する。

 カルパナもいつの間にか誰かからスマホを渡してもらったのか、自身のスマホで踊りを撮影し始めた。ニコニコしている。


 そのため、隣であくびをしているレカに聞いてみるゴパルだ。ネワール族は別のグループで踊るのだろう。

「レカさん。カルパナさんやサビーナさんの親戚の子供って、何人くらい小中学校に通っているんですか?」

 レカが小首をかしげて少し考えた。

「んー……正確な数は知らないけどー、四十人はいるかなー。集落四つ分だしー」

 納得するゴパルである。

「なるほど。貴賓席に座ってゆっくりと鑑賞応援するのが正解ですね」


 創作ダンスはすぐに終わり、別のグループの順番になった。音楽が終わると同時に、舞台上から飛び降りてカルパナに体当たりしてくる女児三人組だ。超音波を含む歓声を上げているので耳が痛い。

 アンジャナが目をキラキラ輝かせながら、カルパナを見上げる。

「ね、ねっ。どうだった? かっこよかった?」

 カルパナがニッコリと微笑んだ。

「うん。かっこよかったよ。素敵な踊りだったね。去年よりもずっと上手になってて驚いちゃった」

 再び超音波を含む声で喜び合う女児三人組だ。レカが音圧に負けて、ヨロヨロしながらゴパルの背後に隠れた。

「その声やめろー」


 ゴパルがレカの支えになって肩を貸しながら、女児三人組を褒めた。

「踊り上手だったよ。親御さんや親戚も貴賓席で喜んでたみたいだね」

 ここでようやくゴパルの存在に気がついたらしい。女児三人組が一斉にゴパルを見つめて、指さした。

「あー! 牛糞先生だー」

「牛糞色に染まってるー!」

「臭い奴はやっつけてやれー!」

 うきゃー! と超音波を発しながら、ゴパルに飛び蹴りを食らわせる女児三人組である。どさくさに紛れて、レカもローキックをゴパルに放っているようだが。

 ゴパルが頭をかいて両目を閉じながら忠告した。

「水洗いしたけれど、まだ泥だらけだよ。そんなに蹴ると、きれいな衣装が泥で汚れてしまいますよ、お嬢さん達」

 ピタリと攻撃が止んだ。カルパナが穏やかな口調で女児三人組に告げる。

「貴賓席に行って、褒めてもらってきなさいな。オヤツも用意しているみたいだよ」

 オヤツと聞いて、貴賓席へ全力で駆けていく女児三人組だ。

「オヤツ、オヤツー」

「お腹すいたー」

「きゃはははは」


 両手で耳を塞いでいたレカが、ほっとしながら手を離した。

「ふひー……やっと去ったかー」

 カルパナがゴパルに謝る。

「すいません、ゴパル先生。結構蹴られていましたが、大丈夫ですか?」

 ゴパルが明るく笑った。

「山歩きのおかげで足腰が強くなりましたからね。あの程度でしたら問題ありませんよ」

 そう言ってから、周囲を見回した。バドラカーリーのヒモバンドのメンバーは、相変わらず娘達や子供達に囲まれて騒いでいるようだ。

「泥遊びして、少し小腹が空きました。屋台を巡ってみましょうか、カルパナさん、レカさん」

 レカが即座に同意する。

「賛成ー。ガキ共ばかりオヤツは許せんー」

 カルパナがクスクス笑いながら、屋台が建ち並んでいる一角を指さした。

「それでは、サビちゃんが指揮している屋台に行きましょうか。割引料金で何か出してくれるかも」


 この時期はSLC試験の結果発表があるので、ホテル協会としてはフェアを開催していた。屋台でも商品の一割引きサービスを学生にしている所が多いようだ。とはいえ屋台なので、ジュースや揚げ菓子のような商品ばかりだが。

 ちなみに女児三人組は十歳なので、SLC試験を受けるにはまだ六年ある。そのため、割引サービスもまだ六年間有効だ。


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