表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
ポカラは雨がよく降るんだよね編
918/1133

演説終了

 そんな雑談を交わしていると、カルンの演説が終了したようだ。群衆がざわざわと移動を開始した。同時に泥遊び用の水田で、泥投げ合戦が始まり歓声が上がる。

 これはヤバイと、ゴパルとカルパナが急いで水田から逃げようとしたが……捕まってしまった。レカがカルパナを強引に水田の方へ引っ張っていく。この時ばかりは力を発揮するようである。

「メインイベントに参加しなくてどーするー。いくぞー」

 いつの間にか弟ナビンの嫁のブミカもやって来て、レカと一緒にカルパナを泥沼水田へ引きずっていく。

「カルパナ様も一蓮托生ですよー。仲良く泥まみれになりましょう」

 さすがにレカとブミカの二人がかりで引っ張られると、力負けしたカルパナであった。それでも必死で抵抗する。

「ちょ、ちょっと待って、待って。この後で小学校生徒の踊りがあるでしょっ。泥だらけの姿じゃ見に行けないってばっ」


 問答無用~……とばかりに水田に飛び込む三人である。泥沼と化した水田は水深が浅いのだが、それでもあっという間に全身泥まみれになってしまった。ここでカルパナの何かのスイッチがオンになったようだ。

「やったなー、こら~」

 ブミカとレカに泥を投げつけながら体当たりして、そのまま泥沼水田にダイブしている。その豹変ぶりに苦笑しながらも引いているゴパルだ。

「うわー……カルパナさんもキレるんだ」


 そのゴパルを両脇から抱きかかえているレカの兄のラジェシュと、カルパナの弟のナビンが続いて泥沼水田に突撃した。迎え撃つのは既に泥沼水田の中で仁王立ちしている、サビーナの兄のラビンドラである。

「今年も泥まみれにしてくれるわー! はっはっはー」

 ゴパルが何とか逃げようともがくのだが、ラジェシュとナビンの二人にがっちりと組みつかれているのでどうしようもない。

「ああああー……」

 情けない悲鳴を上げて、ゴパルの体がラビンドラ目がけて放り投げられた。そのまま砲弾のようにラビンドラに命中……せずに、途中で割り入ってきたスバシュに叩き落とされた。派手な水しぶきと泥を跳ね上げて、泥沼水田の中にうつ伏せで沈んでいくゴパル。

 その後はバドラカーリーのヒモバンドのメンバーによる、泥投げ合戦が繰り広げられた。水田の縁には、若い女性ファンや子供達が集まっていて、それぞれの推しメンバーを応援している。


 ゴパルが何とか泥沼水田から這って脱出すると、隣に泥だらけのディーパク助手が居た。顔や手足に吸血ヒルが食いついていたので、摘まんで潰す。

「災難でしたね、ディーパクさん。ヒルに咬まれて血が出ていますから、すぐに水道水で洗って消毒してください」

 放心状態で座り込んでいたディーパクが正気に戻った。夢から覚めたような表情をしている。

「……あ。こんにちは、ゴパル先生。うわ、確かに血が出てる」

 ゴパルにも数匹ほど吸血ヒルが取りついていたので引き剥がした。こちらは吸血する前だったようで、出血は見られない。それでも一緒に水田横に設けられたシャワー施設に、ディーパク助手を案内する事にしたようだ。

「では、泥が乾く前に洗い落としましょうか」


 ゴパルとディーパク助手が野外シャワーで泥を洗い流すと、入れ替わりにカルパナ達とバドラカーリーのヒモバンド達がやって来た。彼らも全員が頭から足先まで泥だらけだ。

 少し呆れながらも穏やかに笑ってシャワーをカルパナに渡すゴパルである。

「誰が誰だか分かりませんね、ははは」

 カルパナが自虐的に微笑んで答える。

「毎年こうなってしまうんですよね……困ったものです」


挿絵(By みてみん)


 水洗いだけだと衣服に付いた泥汚れは落ちない。そのため、全員が茶色に染まった服を着ている状態だ。

 吸血ヒルに咬まれたのは、ディーパク助手とレカ、ラビンドラ、それにスバシュの四人だった。長時間水田に入っていたためだろう。揃って救護所で消毒してもらい、小さな絆創膏を傷口に貼ってもらっている。

 救護所には他にも多くのケガ人が集まっていて、外国人観光客がキレて暴れているのが見えた。その外国人を見ながら、ゴパルがしみじみとつぶやく。

「出血するようなケガ人が多く出るイベントって、珍しいですよね」

 カルパナが軽く肩をすくめて答えた。

「隠者さまは、たくさんの血を供物としてバドラカーリー神やドゥルガ神に捧げているから、良い事だと笑って仰っていますけれどね」

 ちなみに二柱ともに女神なので、男の血の方が良いらしい。


 カルパナが救護所のテントに掛けられている時計を見上げた。

「そろそろ野外ステージでダンス発表会が始まる時刻ですね。アンジャナちゃん、ディーパちゃん、ラクチミちゃんも踊りを披露するそうですよ」


 少し離れた場所にある野外ステージでは、グルン族やマガール族、それにタカリ族やプン族の伝統舞踊と歌が終わって、地元ポカラの小中学校による創作ダンスが始まっていた。

 山岳民族の伝統舞踊と歌はイベントがあるたびに披露されているので、特段珍しいものではなくなっているようだ。普通にヤジが飛んでいる。

 一方で小中学校の創作ダンスには、親や親戚が大挙して見に来るので雰囲気がガラリと変わる。基本的に親バカしか居ないのでヤジは飛ばない。

 女児三人組が通っている小学校では、民族ごとにグループを分けて創作ダンスをしていた。まあ、創作ダンスといってもインド映画やネパール映画、それにテレビドラマの劇中歌を真似たものばかりなのだが。いわゆるインドダンスである。


 野外ステージには貴賓席が設けられていて、そこにカルパナやサビーナ、それにレカの親や親戚が座っているという事だった。

 カルパナとレカはその貴賓席へは向かわずに、野外ステージの一般席に向かう。首をかしげるゴパルに、カルパナが茶色く染まったTシャツを指で摘まみ上げて見せた。

「ドロドロですから……不審者と間違えられてしまいます」

 レカはサバサバした表情で開き直っている。

「あんな堅苦しい席になんかいけるかー。カルちゃんも道連れー」

 苦笑するしかないゴパルである。

「なるほど。貴賓席を避けるために泥投げをしていたのですね、レカさん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ