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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
ポカラは雨がよく降るんだよね編
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雑談

 その後は、普通の日本食の居酒屋料理になった。酒もすっきりした風味の日本酒に、ヤマが銘柄を変える。岩手県産という事だった。

 ゴパルがスマホで日本地図を表示して、おおよその位置を確認する。

「へえ……日本の北部なんですね」

 クシュ教授も地図を見て興味深い表情になった。

「ほう。冬は氷点下になるんですか。そんな気候でも稲作をしているのは凄いですね。テライ地域ではそこまで気温が下がりませんよ」

 稲の品種特性もあるのだが、ネパールで似たような気温となるとマナンになる。マナンでは稲作はしておらず、ソバやシコクビエ、粟の作付けをしている。


 ヤマはマナンへ行った事がない様子なので、クシュ教授が話題を変えた。実は教授も行った事がなかったりする。

「そうそう、ゴパル助手。言いそびれてしまったが、スリランカ出張ご苦労さま。バクタプール酒造のカマル社長や、ツクチェのマハビル社長が興味を抱いてくれたよ」

 ゴパルが今回訪問したスリランカの農園と、色々な試験事業を計画しているらしい。

「カカオ、コーヒー、紅茶、バニラでのリキュールづくりを考えているんだよ。規格外品で売れないモノが出るからね、その有効利用だね」


 既に夕食を済ませていたので、あまり食べられず残念がっているゴパルである。そんな彼を愉快そうに見ながら、日本酒をチビチビと飲むクシュ教授とヤマであった。

 と、その時、店内の隅の隔離席にたむろしていた援助隊員が数名ほど、酔っぱらって騒ぎ始めた。日本語で何か喚いているが、周囲の一般客は慣れた様子で見もしていない。どうやら日常茶飯事のようだ。

 ヤマがジト目になって大きくため息をつく。

「……教師隊員ですね。シャンジャでの騒動で肩身を狭くしていたそうですが、これに加えて明日はSLC試験の結果発表です。生徒の親御さんから何か言われないかと心配なのでしょうね」


 合格率は州や郡によってかなり差があるのだが、平均して六十%程度になる。ネパールは学歴社会なので、不合格になってしまうと就職先の選択肢が狭まる。そのため、親も生徒も必死だ。

 ゴパルが首を引っ込めて視線を窓の外に向けた。瞳に生気がない。

「博士号を取得しても、こんな状態の私も居ますし……あまり真剣に思い詰めない方が良いと思いますよ」

 愉快そうにクスクス笑うクシュ教授だ。

「低温蔵の研究を頑張るしかあるまい。期待しているよ、ゴパル助手。そろそろ危険地手当が加算された給料が口座に振り込まれるはずだ。ラメシュ君達に美味しい食事でもおごってあげなさい」


 ヤマが自身のスマホを見て、ジト目になった。

「明日って、そういえば『稲の日』なんですね。余計な行事に呼ばれそうだなあ……」

 稲の日は、全国で一斉に行われる政治的なイベント日だ。政治家が農民と交流を深め、支持を拡大しようと画策する日である。政治家は各国政府の役人や事業者ともつながりを持つため、ヤマが呼ばれる可能性は高い。

 ジト目になったままで日本酒をすすっているヤマを愉快そうに眺めてから、その視線をゴパルにそっくり向けた。嫌な予感が背筋を走るのを感じるゴパルだ。

「ポカラでも開催されるそうだよ、ゴパル助手」


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