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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
ポカラは雨がよく降るんだよね編
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鴨の焼き鳥 アンチョビソース

 この鴨は欧州産だとヤマが話していると、石が料理を運んできた。前回と同じく角刈り頭で、和食料理人用のコックコートを着ている。

 オーストラリア訛りの英語で話しながら、料理を置いて回っていく。すでに切り分けられていて、酒のツマミとしてちょうど良い量になっていた。

「お待たせしました。鴨の焼き鳥です。サビーナさんと電話で相談して、アンチョビのソースにしてみました」

 石によると、この鴨は海鴨だったらしい。魚臭いので料理が難しい素材だ。しかも冷凍焼けまで起こしていたと話してくれた。

 ヤマがジト目になって肩を落とす。

「そうだったんですか……あのバカ、売人に騙されたな」

 石が料理の皿を配り終えて苦笑している。

「私も海鴨は料理した事がないですね。サビーナさんとテレビ電話で色々話し合って調理方法を決めました」

 味付けは和食というか焼き鳥に準じたやり方にしたそうで、確かに焼き鳥風の香りがしている。

「しょう油ベースのタレを使って、それでアンチョビソースに仕立てています。ですので、赤ワインよりは味の濃い日本酒の方が相性が良いと思いますよ」


 料理方法は、以下のようなものだった。

 海鴨を解体して、胸肉と腿肉を鍋に入れる。この鍋に水と料理用の日本酒を注いで火にかける。沸騰寸前になったら火を止めて、ゆで汁を捨てる。その下処理を済ませた肉をオーブンに入れてグリルする。

 ある程度火が通った後でオーブンから取り出して別の鍋に入れ、アンチョビのダシ汁で煮る。肉に火が通ったら鍋から上げて、少し乾燥させる。

 鍋にしょう油ベースのタレを加え、ダシ汁を煮詰めてソースにする。

 肉にハチミツを塗り、粒コショウを砕かないで付ける。最後に焼き鳥の要領で、ソースを塗って炭火焼きして完成だ。


 石が少し申し訳なさそうな口調で弁解した。

「冷凍焼けを起こしていたので、その部分は切り取っています。見た目が少々悪いのはそのせいですね」

 ヤマが首をすくめた。石が遠慮がちに話を続ける。

「海鴨なので魚臭いですね。臭み抜きの湯通しをして、さらにアンチョビのダシで煮て、焼き鳥にしたのは、その臭み対策です」

 日本酒は石が推薦する銘柄を選んだゴパル達三人だ。ヤマが日本酒だけを最初に口にして、少し驚いた表情になっている。

「おおう……これは随分と濃い日本酒だね。色も少し黄色っぽいな」

 石が銘柄を伝えたのだが、日本語だったので理解できなかったゴパルである。

(しまった。スマホの自動翻訳機能を起動させておくんだった……)

 英語で会話できていたので、すっかり忘れていたようだ。それでも、産地が富山という事だけは理解できたが。


 さて、味の方だが、可もなく不可もなくという評価だった。まあ、冷凍焼けを起こしていた肉なので、仕方がないだろう。

 ゴパルがパクパクと海鴨肉を平らげて、濃い日本酒をクイッとあおった。幸せそうな表情になって、垂れ目がさらに垂れている。

「十分に美味しいですよ。鴨肉って魚風味でも料理できるんですね。驚きました」

 クシュ教授は冷静な表情で食べている。

「湯通しをしたから、鴨の血の味がほとんど感じられなくなっておるのが残念だな。まあ、魚臭さがまだ少し残っておるから、この料理方法で異存はないよ」

 ヤマもクシュ教授に同意している。

「私は海魚や海藻をよく食べますから、魚臭さはそれほど気になりません。ですが、鴨の血の味が薄くなってしまったのは残念ですね」

 そう言ってから、石に顔を向けて微笑んだ。

「無理なお願いを聞いてくれて、ありがとうございました。知人にはきつく言っておきますね。まだ鴨肉の残りはあるんですか?」

 石がニッコリと笑って答えた。

「面白い食材でしたので楽しかったですよ。鴨肉はまだ胸肉と腿肉が半分、それに手羽と首、心臓などの内臓がまるまる残っていますね。焼き鳥にして常連客に出してみますよ」

 酒のツマミ料理として出したので、大して使っていなかったようだ。


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