雨期直前の農作業
ミカンの畑を撮影し終えて、ゴパルが話題を変えた。
「今日は夕方の飛行機で首都へ戻ります。スリランカ出張は四日後になりますね。ラメシュ君達から土産を頼まれているんですが、何か良さそうな物ってありますか?」
カルパナがゴパルと一緒に段々畑を下りて、種苗店へ向かいながら小首をかしげて考え込んだ。
「……うーん。私もあまり行った事がないので、よく知りません。紅茶とかが有名ですから、それで良いのでは?」
ゴパルが困ったような笑顔を浮かべた。
「ですよねー……私もスリランカの事は詳しく知りません。やっぱり定番の紅茶でいいかな」
カルパナが穏やかにうなずいた。
「それで良いと思いますよ。レカちゃん家の紅茶は気にしないでくださいな」
ゴパルが両目を閉じて頭をかいた。
「……そうでしたね。紅茶はリテパニ酪農産と被ってしまうか。でも紅茶でしたら軽くて日持ちがしますし、お土産の候補に考えておきますね」
その後は、収穫を終えたタマネギ畑へ行く。いくつかのタマネギ株が残されていて、トウが立って花が咲いていた。カルパナが花を撫でながら説明する。
「タマネギの自家採種をするつもりです。途中からKLを使っていますが、いつもの年よりも良い種が実りそうですよ」
ゴパルがスマホで撮影してから聞いた。
「色々な野菜で自家採種して種取りをしているんですね。この前は確かニンジンでしたっけ」
カルパナがニッコリと微笑んだ。改めて顔を見るとよく日に焼けている。
「種の値段が高いせいもありますね。農業開発局で種を注文してもなかなか届きませんし。何よりも、こうして育てるとパメの土地に合った育ち方になります」
確かにパメからナウダンダまでは標高差が千メートルもある。場所によって気温が違い、栽培条件も変わってくる。その場所に適した種を育種する事は、理に適っているといえるだろう。
そのナウダンダでは、エリンギの菌床つくりの材料として使うために大豆を植えたという事だった。食用の品種ではなくて、安い緑肥用を植えているとカルパナが教えてくれた。
他に今日行っている農作業としては、シスワ地区のイチジク園で白い寒冷紗を被せているらしい。ゴパルが首をかしげた。
「ん? もうそろそろ雨期ですよ。曇りの日ばかりになると思いますが、日除けするならもっと前にしておいた方が良かったのでは?」
カルパナが穏やかにうなずいて、上空を見上げた。黒雲が急速に立ち込めてきていて、日差しが遮られて日陰になった。ゴロゴロと雷鳴も聞こえてくる。
「雹の被害を軽くするためです。そろそろ降ってくる時期なんですよ。雹の季節を過ぎても、そのまま雨期明けまで被せ続けますけれどね」
ゴパルも空模様を見上げて眉をひそめた。
「雹ですか……野菜が穴だらけにされますよね。困ったものです。ゴロゴロ鳴り始めましたので、種苗店でチヤ休憩でもしましょうか」
カルパナが微笑んだ。
「サビちゃんが試食をゴパル先生にお願いしていますよ。二十四時間営業のいつものピザ屋で待ち合わせています。そこでチヤ休憩をしましょう」




