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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
暑いと夏野菜を植えたくなるよね編
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ポーク祭り

 翌日、ポーク祭りがポカラで開催された。場所は五か月前にマゲサンカランティ祭があったクリケット競技場である。

 主催はレカナート市とそこの養豚組合なので、ポカラ市のホテル協会やカルパナ達はあまり関わっていない。リテパニ酪農は関わっているようだが。

 祭りは三日間続き、その間に養豚組合が豚肉の宣伝をする。ダンスショーやのど自慢大会、バンドの演奏会等も行われる予定だ。


 会場内でゴパルがキョロキョロして、人混みの中からカルナの姿を見つけようとしていたが諦めたようである。

(ラメシュ君の言う通り、目当てのコンサートにだけ参加するみたいだな)

 バドラカーリーのヒモバンドは、最終日の午後に演奏する予定になっている。

 ゴパルは祭りの初日だけ参加して、その後はABCへ戻る事にしている。そのため、ポカラで会う機会はなさそうだ。

 カルナは雨期前の農作業や民宿の修理等で忙しいようで、セヌワやジヌーにも居なかった。ニッキやアルジュンに聞くと、今はテライ地域のブトワルまで再び資材の買い出しに出ているという話だった。

(ラメシュ君から伝言を頼まれていたんだけど、まあ後でいいか。チャットに書いておけば問題ないだろう)


 気をとり直したゴパルが、改めてクリケット競技場の会場内を見回した。ポーク祭りなので屋台も豚肉料理を出す所が多いようだ。当然のように居酒屋もできていて、既に十名単位で酔っ払いが陽気に騒いでいる。

(参加者はやはりグルン族やマガール族が多いなあ。それとネワール族にチベット系の人達か。バフンやチェトリ階級の人も居るけど、少数派だね)


 豚肉はヒンズー教では不浄扱いである。高位カーストの人を中心にして、今でも食べない傾向がある。

 昔は、豚に触れるだけでも沐浴をして体を清める人が居たようだ。ネパールの場合では、チェトリ階級のある氏族だけはイノシシを食べていたが。現在では豚肉を食べる人も増えていて、養豚経営者になるバフン階級も居る。

 商業的にも大きな産業になりつつあり、ポカラだけで豚肉の需要は毎日四トンにも達している。供給が追いつかない現状だ。ちなみにネワール族が好む水牛肉も、豚肉同様に広く親しまれてきている。

 ただ高位カーストでは、外食で食べる肉という位置づけだ。自宅で料理して食べたりする事はしない人が多数派である。


 ゴパルが会場内を散策していると、カルパナに声をかけられた。彼女の隣には中年太りで太鼓腹のギャクサン社長が居て、ゴパルに手を振っている。彼はレカナートの養豚団地の社長だ。

「こんにちはゴパル先生。何か興味を引く物は見つかりましたか?」

「ガハハ。よう、ゴパル先生。見てくれ、祭りは大盛況だ」

 ゴパルが合掌して挨拶を返した。

「凄い人混みですよね。豚肉が受け入れられてきている証拠でもありますね」

 カルパナと一緒にギャクサン社長が並ぶと、彼の頭の大きさが際立っている。身長はゴパルと同じくらいの百七十センチ台で、チベット系の顔立ちだ。

 その顔も坊主に近いくらいの短髪にしている。目は一重まぶたで細く、少しだけ垂れている。その目の上では太くて短い眉が躍っていた。

「ポカラだけじゃなくて、ブトワルとかにも出荷してるよ。向こうではタル族が多いからな、祝い事には欠かせないそうなんだ。リテパニ酪農のクリシュナが紹介してくれて販路ができた。大助かりだよ」

 素直に喜ぶゴパルである。

「それは良かったですね。タル族については詳しくないのですが、豚肉料理を歓迎してくれているんですか」


 タル族はテライ地域に住んでいる。旧カースト制度では『酒飲み階級』に属するのだが、グルン族やネワール族と違い、高位カーストの連中が奴隷として使う事ができる階級に当たる。これはギャクサン社長が所属するチベット系住民も同様だ。

 ギャクサン社長の話によると、タル族は伝統的に家で豚を飼い、祭祀の時には料理して食べる習慣があるという事だった。王政時代では高位カーストの目を気にして、家の中でだけ豚肉料理を食べていた過去を持つ。

「今では町の食堂でも堂々と豚肉料理を売ってるな。おかげで豚肉の需要が増えているんだよ」


 ゴパルが小首をかしげた。

「ん? ですがタル族では家で豚を飼っているんですよね。ポカラの豚と競合しませんか?」

 ギャクサン社長がニッコリと笑って答えた。

「田舎豚って事で、家飼いの豚は大人気だよ。ポカラの豚肉は安い普段食い用だ。棲み分けはしっかりやってるよ」

 だけどな、と細い垂れ目をキラリと輝かせた。

「東ネパールのリンブー族が育種してきた地豚を、俺の養豚場で肥育する事になってな。これが出荷できるようになれば、高級豚も取り扱えるようになるぜ」


 リンブー族も酒飲み階級だ。東ネパールではライ族が幅を利かせていて、紅茶園や黒カルダモン園を経営して儲けているのだが、このリンブー族も東部を代表する民族である。

 特に小型の黒毛豚を育種していて、彼らの神への供物としても捧げている。王政時代や現在の政府が欧州産の大きな豚を導入しようと圧力をかけたのだが、美味しくないという事で拒絶した歴史を持つ。さらにこの欧州産の豚と地豚を掛け合わせて、独自の黒毛豚を開発してもいる。


 ギャクサン社長が導入の話をつけたのは、この欧州との掛け合わせ品種だという事だった。少し残念そうな表情になる。

「肉の量や肥育速度は、こっちの方が良いんだけどな。旨さとブランドではリンブー族の黒豚に劣る。まあ、実績を積んで信用を得て再交渉するさ」

 ちなみにリンブー族が育てている地豚の品種には、チワンチェ、バンプッケ、フッラ等がある。どれも黒毛の小型豚だ。黒毛にこだわっているらしい。


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