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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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出発

 民宿の会計を済ませて、カード払いなのだが、領収書をもらう。これが無いとゴパルの自腹になってしまう。

 レインウェアを着こんで、リュックサックの防水シールを確認し、足に巻いている保護シートに隙間が生じていないかをチェックした。手には、赤と白の縞模様が交互に入っている、測量用のポールを持つ。手袋もして、これにも防水シールを施した。

 寝袋は真空パック袋から出したので、空気を大量に含んで膨らんでいた。それを体重をかけて押し潰して、リュックサックの中へ押し込む。それでもかなりの体積なので、リュックサックがパンパンに膨れ上がっていた。


 欧米人客のガイドらしきネパール人が一人、民宿にやって来た。顔なじみのようで、アネルと簡単に挨拶を交わしている。

 そのガイドを見て、ゴパルがアネルに聞いた。

「アネルさん。この先セヌワまでは一本道ですか?」

 アネルがガイドを調理場に案内しながら、明るい声でうなずいた。

「そうですよ。チョムロンの手前で、沢に降りる道があるくらいっすかね。まあ、スマホで電話もチャイ、通じますから、問題ないと思いますナ」

 ガイドの男が、アネルに文句を言い始めた。彼にとっては、仕事を否定されたようなものなので、当然だろう。


 ゴパルが、リュックサックを担いで、調理場に居るアネルに挨拶をした。

「では、行ってきます。いつ帰るのかは、アンナプルナ内院での仕事次第になりますね」

 アネルが調理場から顔を出してニヤニヤした。

「この時期は、どこの民宿もチャイ、部屋が余ってますよ。当日に宿へ来ても、何とかなります。酒なんかは、他の宿や、居酒屋からの調達になりますけど」

 ゴパルが頬を緩めた。

「では、予約を前日までに入れるように、心掛けますよ」


 この民宿ローディは、ガンドルンの最上部の尾根筋に建っているので、とりあえず道を下って、氷河があるアンナプルナ内院方面の道に出る。

 上に向かうと、ゴレパニ方面だと案内板に書かれていた。普通に歩けば二日かかる距離のようだ。

 しかし、上に向かうゴレパニへの道は、深い森の中へ続いている。昨日は、この森の入口付近で採集をしていたのだったが、危うく道に迷いそうになってしまったゴパルである。

 森の木々は、薪や飼料として、何度も枝葉が刈られているのが普通だ。そのために、枝の切り口からは、細かい枝が密生して生えている。

 しかし、ここガンドルンでは、灯油や電気が得られるので、他の田舎に比べると、残っている枝の数が多い。

 そのような里山なのだが、奥地は大木が林立する深い森だ。樹種は落葉広葉樹と、常緑広葉樹とが混じりあう混交林で、ネパールハンノキが多い。その木々で覆われた山は、山腹の途中から分厚い雨雲で覆われていた。


 朝なので、家で飼っている山羊や雌牛を、放牧に出す時間帯と重なっていた。この仕事は、爺さんがする場合が多いので、ゴパルも行き交いながら合掌して挨拶を交わす。

 爺さんも、雨続きで冷えるために、民族服では無くレインウェアを着ている人が多い。

 グルン族の民族服は、半袖半ズボンのような軽装なのだ。男は背中に白い小さなほろのような、万能型の風呂敷を背負う。簡単なパーティでは、ジーンズに長袖シャツの姿に、トピを被って、この幌を背負う事が多い。

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