マナンから戻って
酒盛りはどうやら夜まで続く見込みだそうで、その前にマナン空港へ戻ってポカラへ飛ぶ事にするゴパル達であった。
マナン空港に到着すると、ソナムが大きめの袋をサビーナに手渡した。
「カルナさんから頼まれていたのですが、チャーメで採れた野生キノコ各種です。料理に使ってください」
袋の中身を確認してサビーナが喜んでいる。
「アンズタケと、ササクレヒトヨタケ、ヒマラヤヒラタケか。チャーメのアンズタケは毒抜きしなくて良いのかしら?」
ソナムが少しドヤ顔で肯定した。
「毒はありません。ですが、小さなムシが紛れ込んでいる事があるので、生では食べない方が良いですよ」
ゴパルがキノコを興味津々の様子で眺めている。カルパナも目をキラキラさせているのだが、サビーナがゴパルに告げた。
「ゴパル君。ポカラへ戻ったら試食してみる? 今晩の料理として、野生キノコのリゾットを考えているのよね」
これらの野生キノコを掃除してから、茹で上げた米と合わせる。それに魚介類でとった濃い目のダシをかけてリゾットにする予定らしい。
「クリームは使わない方が良さそうかな。コレはさすがに、いつものバクタプール酒造産の白ワインじゃ力不足になるから、バター風味のある他の白ワインを飲んでもらう事になるけれどね」
ゴパル以上にカルパナが小躍りしながら喜んでいるのを見ながら、サビーナに答える。
「美味しそうですね。でもまだ給料が振り込まれていないようなので、白ワインの値段は抑えてくれると助かります」
その時、ゴパルのスマホにチャットが入った。
サビーナに断って文面を読んだゴパルの表情が、見る見るうちに曇っていく。最後には捨てられた子犬のような目になって、サビーナに告げた。
「すいません、サビーナさん。低温蔵で留守番しているラメシュ君が風邪をひいて寝込んでしまったそうです。急いで戻らないといけなくなりました……キノコ料理は食べられそうにありませんね」
マナン空港町から見えるアンナプルナ連峰の壁をヒョイと乗り越えればABCへ着くのだが、残念ながらゴパルの身長はそれほど高くない。
サビーナがカルパナと視線を交わしてから、小さくため息をついて肩をすくめながら微笑んだ。
「風邪なら仕方がないわね。また次の機会に回しましょ。試食はカルちゃんと協会長さん達二人にお願いしようかな」
しかし、ジョムソンのサマリ協会長が申し訳ない表情を浮かべて辞退した。
「天気予報では明日から荒れそうだという事なので、今日中に飛行機を乗り継いでジョムソンへ戻ります。私の体力では、マナンから馬でトロン峠を越えるのは厳しいですしね」
ラビン協会長が同意している。
「陸路でポカラからジョムソンへ戻るのは疲れますからね。飛行機が使えるならそれで戻りたいのは、よく理解できますよ」
レカも、チャーメ産の搾りたてヤク乳と冷凍馬乳をポカラへ持ち帰る事になっていたので辞退した。
「コレさえ無ければ喜んでキノコ料理を食べるんだけどねー」
リテパニ酪農のクリシュナ社長とラジェシュが、チーズや馬乳酒を作りたいらしい。冷凍馬乳の一部は、首都の微生物学研究室まで陸送される事にもなっている。
ポカラ行きの小型プロペラ機に荷物が運ばれていくのを見てから、ソナムがゴパルにニッコリと笑いかけた。
「冷凍庫や冷蔵庫を積んだトラックも買う予定なんですよ。そうなれば、ポカラや首都にチーズや馬乳酒に発泡シードルなんかを出荷できるようになります。チーズの菌の件、よろしくお願いしますね」




