桑の葉の続報
ラビ助手が農家の会話を興味深く聞いていたが、もう一つ知らせる事があると思い出したようだ。
「ああ、そうでした。忘れていました。桑の葉エキスの研究ですが、面白い事が分かってきましたよ」
一般的に植物は葉を害虫に食べられると、特殊な芳香性の香り物質を空気中に放出する。この香りを頼りにして、害虫に寄生する寄生バチや寄生ハエが飛んでくる。そのため、この香りは害虫を間接的に撃退する役目を果たしている。
ところが桑の葉を食べるカイコの幼虫には、寄生バチや寄生ハエが気づかない事がよく起きる。そのため、あんな大きな体の幼虫になっても堂々と葉を食べている。
ラビ助手が淡々とした口調ながらも、やや早口で話を続けた。
「カイコの幼虫は、この香り物質を分解する酵素を出しながら葉を食べている事が分かりました。そして、この酵素は、他の蝶や蛾の仲間にも共通している事も判明しました」
専門用語が混じっているので、ゴパルが農民達に平易な言葉に置き換えて説明している。それでも農民たちはあまり分かっていないような感じだが。
ラビ助手が淡々と話を進めた。
「この香り成分を合成して、害虫に散布すれば生物農薬の一種として使えそうです。寄生バチや寄生ハエを増やす努力も併せて必要になりますけれどね」
カルパナがゴパルに代わって、農民達に解説した。
「蝶や蛾の幼虫は、リンゴでも大問題になっています。モモシンクイガの被害ですね。この幼虫をハチやハエに退治してもらおうという考えです。今の農薬は虫にだけ効くようになっていますけれど、桑の葉エキスであればより安全という事ですね」
おおー、とどよめいて納得するヤード達農家と、画面の中に映っているビカスであった。
ゴパルが背中を丸めてへこんでいる。ラビ助手が話を締めくくった。最後まで淡々とした口調だ。
「まだ研究中ですので、実際に農家で使えるようになるにはまだ時間がかかると思います。ですが、KL培養液を作る際に、桑の葉を臼で潰したものを加えてみると効果が出る可能性がありますね」
香り成分は葉にダメージを受けないと生成されないので、潰したり切り刻んだりする必要がある。ただ、葉の汁はアルカリ性なので、あまり大量に混ぜるとKLのペーハー値が下がらなくなって発酵に失敗するため、注意が必要だろう。
ゴパルの専門分野のKL培養液についてもラビ助手が提案したので、さらに背中を丸めてへこんでしまったゴパルであった。
その後は再び、カルパナが画面を通じてビカスに指導するという形で講習会が進んでいく。ツクチェのリンゴ園はチャーメと似ているようで、ヤード達も理解しやすい様子である。
ツクチェではちょうどリンゴの果実数を調整する『摘果』の作業を続けている所だった。最初の摘果作業なので『粗摘果』とも呼ばれている。




