テレビ電話を使って
ヤードに案内された先では、既に数名の農家の男達が待っていた。彼らもチベット服だ。ズボンはジーンズの人が多いようだが。
彼らに合掌して挨拶をしたゴパルが、食堂の液晶テレビに自身のスマホの画面を映して同期させた。これでゴパルのスマホ画面が、このテレビ画面でも見る事ができる。余談になるが、この時代ではスマホをテレビのアンテナ代わりに使う人が多い。
テレビ画面にツクチェのリンゴ農家であるビカスの顔が映った。やはり首にタオルを巻いている。さらに首都に居るラビ助手の顔も映った。
ラビ助手は相変わらずのヨレヨレ白衣を着ていて、テレビ電話の状況を確認している様子である。その作業も終わったようで、最後に今回のテレビ電話の最大延長可能な時刻を表示させた。衛星が動いているので、テレビ電話に適した電波状況も変化するためだ。
その延長可能時刻を見たゴパルとカルパナがほっとした表情を浮かべた。ゴパルが自身のスマホに向かって話しかける。
「今回は十分に時間がありますね。食事会まで続ける事ができそうです。では、始めましょうか。よろしくお願いします、ビカスさん、カルパナさん、ラビさん」
まずは育種学研究室のラビ助手が話し始めた。
「ビカスさんが栽培しているリンゴの品種ですが、調べてみた所、日中の最高気温が三十二度以上に上がると、果実に日焼けが生じる恐れがありますね」
という事は、気温だけを見るとポカラでもリンゴ栽培ができるのかな? と思ったゴパルであった。実際には他の要因があるので栽培できないのだが。
ラビ助手が話を続けた。
「でもまあ、ツクチェではそこまで気温が上がらないでしょうから、気にせず日光に当てて果実を赤くすれば良いと思います」
リンゴの実は日陰だと赤くなりにくい。そのため日に当てるのだが、気温が高いと日焼けしてしまうのだ。
マナンのリンゴ農家達はテレビ画面を見るだけで、彼らの顔は映っていない。それでも時々ゴパルがスマホのカメラを向けるので、ビカスやラビ助手にも認識できている様子だ。
ヤードが気楽な表情で反応した。
「チャーメでも三十二度にはならないらー。リンゴの品種はツクチェと同じものがあるから、それは大丈夫ら」
ラビ助手がうなずいた。
「チャーメのリンゴ品種についても調べてみますね。後でカルパナさんに知らせますよ」
カルパナが穏やかな表情で了解した。
「分かりました。ヤードさん、後でチャットのアドレスを交換しましょうか」
ヤードの他の農家の男達も交換を申し出てきたのだが、窓口は一つにした方が良いというラビ助手の指摘でヤードだけが交換する事になった。
ドヤ顔で仲間の農家達に自慢するヤードだ。
「役得、役得」
ヤードはチャーメのリンゴ農家のリーダー的な立場らしく、他の農家もそれ以上は騒ぎ立てなかった。感心して見ているゴパルだ。
(統制が取れているなあ……でもまあ、そうでないとリンゴ栽培は大変なのかもね。収穫作業とか出荷とか一人じゃできそうにないし)
ここでゴパルが、参加者が全員チャーメの農家である事に気がついた。ヤードに聞く。
「ヤードさん。リンゴ農家ってチャーメに多いんですか? そういえばマナンの町には、リンゴ園がありませんよね」
ヤードがドヤ顔でうなずいた。
「らー。マナンや空港町じゃ土が乾き過ぎら。植えても育つけど、生育が悪いら」
ツクチェのビカスが深く同意している。
「ラー。ジョムソンじゃリンゴ植えても上手く育たないラー。そんな感じラね」




