マナン
そんなこんなでマナンの町に到着した。
ジョムソンほどではないのだが結構大きな町で、松材造りの民宿やホテルが建っている。政府機関の支所もいくつかあるようだ。
一般の家は完全にチベット様式の屋根のない造りで、屋上には色とりどりの仏旗が連なって風にはためいている。
(ブータンのプナカの町みたいな華やかさは無いか。マナンの場合は、やっぱりどこか西部劇風の雰囲気があるような)
町にはチベット寺院や仏塔が建っているのだが、これらもプナカで見た様式とは異なっている。ただゴパルには、どう違うのかまでは見分けられていないようだが。
町の造りにも興味がある様子だが、それ以上に周囲の自然の絶景に息をのむ。マナンの町は谷の上流部分にあって、その先は乾燥した山になっている。町も高台にあり、石垣で囲まれたソバ畑が取り囲んでいる。ソバの若草色の葉の色が目を引く。
マナンの町がある高台から川を挟んだ南側には、丸い氷河湖を抱くガンガプルナ峰の氷河がある。氷河の下端は大量の土砂に埋もれてしまっているのだが、それでもこれだけ氷河を間近で見る事ができる場所はアンナプルナ内院の他にはここだけだ。
ガンガプルナ峰は7455メートルあり、アンナプルナ連峰の壁の一部になっている。マナンの町の標高が3540メートルなので、その差3900メートルの氷雪と岩の壁だ。なお、アンナプルナ主峰はここからでは他の峰に遮られていて見る事はできない。
ソナムが小型四駆車を役場の駐車場に停めた。ジョムソンのサマリ協会長がゴパル達に告げる。
「それでは各々の仕事を始めてください。終わったら食事会です」
二人の協会長はマナン側の競馬祭り担当者に、サビーナは民宿やホテルの料理人達に出迎えられて、そのまま一緒に去っていった。
レカはどうなんだろう、と心配になるゴパルであったが杞憂だったようだ。マナン側の酪農家は顔見知りのようで、普通に会話している。
ソナムは競馬祭りの担当者の一人なのだが、今はレカと一緒に居る事にしたようだ。彼自身も酪農家なのだろう。
ゴパルとカルパナを出迎えたのは、やはりカウボーイハットを被ったチベット服の男だった。年齢は四十代後半だろうか、よく日焼けしている。一重まぶたの目を細めてニッコリと笑い、武骨な手で合掌して挨拶をしてきた。
「ようこそマナンへ。チャーメでリンゴ農家をしているヤード・ガレらー。今日はよろしくら」
ゴパルとカルパナも微笑んで合掌して挨拶を返した。簡単な自己紹介も済ませる。
同時にカルパナとゴパルのスマホに、首都のラビ助手からチャットが入った。それを読んでゴパルがヤードに告げる。
「テレビ電話を始める時間になりそうです。時間が限られていますので、早速始めましょうか」
インドの準天頂衛星がテレビ電話に適した位置になってきているようだ。即座に了解するヤードである。
「分かったらー。講習会場はすぐそこの民宿の食堂になってるら」




