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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
暑いと夏野菜を植えたくなるよね編
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食後の……

 結局、食後にチーズを選んだのは誰も居なかった。ゴパルが何気なくレカを見ると、さっと顔を逸らす。

「だってチーズはいつも食べてるしー……デザート食わせろー」

 スルヤ教授とカルパナは季節の果物を、他の三人はダックワーズを注文した。給仕が早速運んできたのを見て、ゴパルが驚いている。

「あれ? 挟んでいるクリームが二色ですよ」

 給仕が困ったような笑顔を受かべながら説明してくれた。

「サビーナ総料理長の言いつけで、厨房スタッフが作り直しました……バタークリームにカカオパウダーとクチナシ色素の二つを使っています」

 ゴパルが感謝しながらも同情した。

「大忙しの中で、無茶をしますねサビーナさん」

 無言で笑う給仕であった。とりあえず首振りは肯定的な意味合いのように見えるが。


 ダックワーズはメレンゲ生地をサクッと焼いているので、かなり軽い食感だった。これにバタークリームの重さがずっしりとくる。

(生クリームやカスタードクリームだと、重さが足りなくて食後のデザートとしては力不足になるのかな)

 そのような事を思うゴパルだ。一方のレカはニマニマ笑いを満面に浮かべながら、幸せそうに食べている。

「うーまーいー。臭いチーズなんか食えるかー」

 家業を全否定しているレカである。


 デザートを食べ終わって、コーヒーやエスプレッソを頼む男性三人だ。

 カルパナとレカは紅茶を頼んでいる。ドヤ顔で紅茶のカップに顔を近づけるレカである。ストレートティーにしている。

「んん~。二番茶さいこー」

 カルパナもニコニコしながら紅茶をすすっている。こちらはミルクティーだ。

「だよねー、レカちゃん」


 スルヤ教授はコーヒーにしていたが、紅茶の香りに興味を抱いたようだ。

「ほう。良い香りがここまで届いているよ。後で私も試してみようかな」

 レカとカルパナがニコニコしながら促した。

「ぜひぜひー」

「ちょうど今、摘み取りの時期なんですよ、スルヤ先生」

 ディーパク助手もスルヤ教授に続いて試飲を希望した。彼はエスプレッソを飲んでいたので、紅茶の前の口直しのために水をもう一杯給仕に頼んでいる。

「レカさんずるいですよ。こんな良い香りでしたら、紅茶にしたのに」

 レカがニマニマ笑いながら、ドヤ顔の上から目線で答えた。

「その言葉が聞きたかったー。満足であるー」

 ゴパルがジト目になってコーヒーをすする。

(レカさんは、まったく……でも、ディーパクさんにはかなり懐いているみたいだな。やはり、ボサボサ頭同盟か)

 失礼な妄想を頭に浮かべているゴパルであった。


 紅茶も飲み終えたスルヤ教授とディーパク助手が、満足そうな表情で一息ついた。

「うむ。良い食事会だった。呼んでくれて感謝するよ」

 サビーナが再び厨房から出てきて、ホテルの外まで見送った。

「割引価格にしてあげるから、気軽に食べに来なさい」


 ゴパルはここのホテルに泊まるので、サビーナと一緒に見送る側だ。レカの兄のラジェシュが運転するピックアップトラックに乗り込んだ二人とレカに手を振る。

「私も楽しめました。今後ともよろしくお願いしますね」

 そう言ってから運転手のラジェシュに声をかけた。

「こんな夜に呼び出してしまって、すいません。今回は明日の朝からABCへ戻るのですが、すぐにまた下りてくる予定です。次回はリテパニ酪農にも遊びに行きたいですね」

 ラジェシュがたくましい腕でハンドルをポコポコ叩きながらニマニマ笑いを浮かべた。

 弱い癖がある黒髪は首の後ろで無造作に束ねてあるのだが、その長髪の先がリズムに合わせてヒョコヒョコ跳ねている。上機嫌なのか、いつもよりも無駄な動きが多く混じっているようだ。

「おう、ぜひ遊びに来てくれ。発酵チーズもあれから順調だしな。それじゃあ、また会おう」

 軽快に車を発進させて、レイクサイド方面とは逆の方向へ走り去っていった。


 サビーナがゴパルの背中をバンバン叩く。やはり咳き込んだが、お構いなしだ。

「発酵チーズづくりは本当に頑張りなさいよ、ゴパル君。チーズって食事の後に出すけれど、それを目当てにレストランへ来る客って居るのよ。ネパール人にもチーズ好きが増えてきてるし、追い風なんだからね」

 両目を閉じて適当な敬礼をするゴパルだ。

「ハワス。ガンバリマス」

 カルパナがクスクス笑いながら、迎えにきたスバシュのバイクの荷台に腰かけた。横座りでヘルメットを被る。

「体調にはくれぐれも気をつけてくださいね、ゴパル先生。トマトも赤くなり始めましたから、そろそろ試食できるようになりますよ」

 ゴパルが再び適当な敬礼をしてカルパナに答えた。

「ハワス。種の段階からKLを使ったトマトですから、試食を楽しみにしています。風邪をひいて食べ損なうと悲しいので、体調に注意しますね」

 カルパナを手を振って見送る。

 続いて、厨房へ小走りで駆け戻っていくサビーナを見送ったゴパルが、月明りに照らされているアンナプルナ連峰とマチャプチャレ峰を見上げた。

「やっぱり薄ぼんやりして見えるなあ。さて、クシュ教授にも食事会の内容を報告するかな」


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