丸鶏のキノコ詰め
料理を見たヤマに、給仕長が赤ワインを変更するかどうか聞く。ヤマが気楽な口調で答えた。
「これでしたら同じ赤ワインを続けましょう。ゴパル先生もそれで構いませんか?」
肯定的に首を振ってから、慌てて西洋式の仕草で答えるゴパルだ。首を振りながら肯定するのは、外国人にとって戸惑うばかりである。インド人やネパール人ですら間違う場合があるのだ。
「は……はい! 同じ赤ワインでお願いします」
すぐに赤ワインが注がれて、藤カゴにもバゲットと小さなパンが補充された。
皿に盛りつけられた鶏料理を見て、ゴパルが感心している。
「大きな鶏だったんですね。丸鶏なので骨付きかなと思ったのですが、肉が既に切り分けられていましたか」
皿には肉だけがキレイに盛りつけられていた。赤ワイン系のソースが別のソース皿に添えられている。
早速ナイフで鶏肉を切って、ソースに浸けて食べてみるゴパルだ。いきなり驚いたような表情になっている。
「キノコうまっ……見た目は家庭料理って感じなんですが。野生キノコかあ、コレ。でも、山羊と違って鶏なので、食べる順番が逆だと良かったかな」
同意するヤマだ。ゴパルの感想がやや支離滅裂なのだが、特に指摘はしないようである。
「そうですね。まあこれは、追加料理なので仕方がないでしょう。キノコの風味が強烈ですね。鶏肉はキノコを包む巻物の役目という所ですか。キノコが主役の料理ですね。良いと思いますよ」
ゴパルが赤ワインを一口飲んでから、深く納得した。
(なるほどなあ……サビーナさんやカルパナさんがキノコ狂になる訳だ)
丸鶏のキノコ詰めの作り方を簡単に記しておこう。六人分の分量だが……
内臓を取り除いた丸鶏を用意する。今回は1.2キロだ。背骨に沿って包丁を入れて左右に開く。この際、皮を破かないように注意。手羽と腿の先の方の骨は外さずにおく。
詰め物の材料として、別に用意した鶏の胸肉を二枚と、季節の野生キノコを二百グラムを用意する。どちらもみじん切りにする。これにパン粉を五十グラムと卵一個を加えて、よく混ぜ合わせておく。
開いた丸鶏の上に、この詰め物を乗せて巻く。今回はタコ糸で編んだ網を使っている。元々これは南イタリアの家庭で、生ハム作りをする際に使用されるものだ。ただの網なので、これはポカラ産である。サビーナがマレパタン地区の農家に頼んで作らせているらしい。
巻物ができたら、鶏の手羽や腿の先を添えて鶏っぽい形にする。もう一度タコ糸の網を用意して巻き、形を整える。
なおレストランの中には、豚の網脂を使って巻く店もある。しかし、豚の臭いが残りやすいのでサビーナは採用しなかったという話だった。レカナート市の養豚団地から調達する事になるので、避けたのだろうな……と想像するゴパルであった。
さて、これを熱したフライパンの上で転がして、表面を軽く焼き固める。そうしてから、ブイヨンを入れた鍋に入れて、沸騰させないように弱火で茹で上げる。鍋には子羊の足を一本入れておくと味が良くなる。
一時間半ほど茹でてから巻物を取り出して、別に取り分けた茹で汁の中に入れて保温しておく。
残った茹で汁は半量になるまで煮詰めて、赤ワインを加えてソースにする。このソースは別のソース皿に入れておく。
最後に保温していた巻物を取り出して、タコ糸の網を切り取って外す。六人分に切り分け、皿に盛りつけて完成だ。好みの付けあわせを添えておくと見た目も良いだろう。




