そろそろ夕食
ロビー兼食堂では、昼間から居座っている欧米人客達が、ピザとパスタをビールで流し込んでいた。今は国産のフィリピンビールだ。
テレビでは、国営放送の英語ニュースが流れている。首都での燃料不足と、計画停電の現状を取材して、映像とともに流しているようだ。相変わらず、電波状態が思わしくないので、画面にノイズが走っている。
ゴパルが、欧米人客達に軽く挨拶してから、席に座った。ネパール人の客は、ゴパル一人だけだった。すぐに、民宿オヤジのアネルがニコニコしながら、ゴパルの席へやってきた。
「こんばんは、ゴパル先生。食事は出来上がってますが、先に酒とツマミにしますかナ?」
ゴパルが垂れ目をキラキラさせて、大きくうなずいた。
「では、せっかくガンドルンへ来たので、シコクビエの焼酎のぬる燗と、豚チリでも頼もうかな。どぶろくは、あるのかい?」
アネルが残念そうに肩をすくめた。
「どぶろくはチャイ、新米では無いので、お勧めはできないですね。来月になれば、美味いのが飲めますけど。今はシコクビエの焼酎が、お勧めです」
アネルの意見に、素直に従う事にするゴパルだ。
「そうなんだね。では、その焼酎にするよ。でも、食べた後も仕事をする予定なので、コップ一杯だけにしておきますよ。豚チリも小皿でお願いしますね」
アネルがニッコリと笑った。
「かしこまりっ。すぐに持ってきますね」
そう言って、本当にすぐに、ぬる燗のコップ酒の焼酎と、手の平サイズのアルミ皿に盛られた豚チリがやって来た。
ゴパルが、ポケットに入れていた小さな携帯ラジオを取り出して、電源を入れた。国営放送のニュースが流れる。テレビ画面が、ノイズだらけになってきているので、ラジオを聞く事にしたようだ。