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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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焼酎

 この焼酎の製造方法は素朴だ。蒸したシコクビエに、マルチャと呼ばれる白っぽい団子状のクモノスカビの塊を、砕いて粉にして振りかける。発酵補助として砂糖水を加える場合もあるが、それだけだ。

 日本では、種麹は麹菌を使うのだが、ここではクモノスカビを使う。小麦や米等の、生の穀物を使って菌を培養する方式だ。ちなみに、店頭で普通に売られている。日本で採用されている種麹の場合は、蒸した米や小麦等の穀物を使っている。


 その後、水分調整をしてから密閉して、常温で発酵させる。気温によって、発酵完了までの期間が異なるので、味を見て判断する。

 使われる発酵タンクは、KLを培養した際に使用したような、密閉式を使う。タンクの容量は、シコクビエの量によって変えている。少量仕込みであれば、二十五リットル容量の黒いプラスチック容器を使ったりもする。

 しかし、安宿ではプラスチック製の、ごみバケツを使う場合もある。これは密閉状態が不完全なので、ハエやゴキブリ等の虫や、トカゲやネズミ等が入り込んでしまいがちだ。安い居酒屋で飲む地酒や焼酎が、たまにゴキブリ臭いのは、それが理由である。

 もろみが丁度良い具合に発酵したら、布袋に入れて搾れば濁り酒になる。蒸留すると焼酎だ。もろみをそのまま水で溶くと、どぶろくになる。


 伝統的な焼酎を造る場合には、大鍋に、もろみと水を注いで、薪かまどの上に置く。

 大鍋の上には、一抱えほどもある大きな素焼きの壷を乗せ、壷の底に素焼きの器を入れておく。壷は専用に焼いた物で、かなり分厚い。底にはいくつか穴が開いている。

 この壷の口に、水を入れた金属製の器を乗せて、壷との隙間を布で塞ぐ。これで蒸留の準備が完了だ。薪かまどに火をつける。

 もろみが入っている大鍋から生じる、アルコールが混じった水蒸気の湯気が、壷の中を通って、立ち昇っていく。その蒸気が、壷の口に置かれた器の水で冷やされて凝結し、雫となる。その雫を、壷の底に置かれている、素焼きの器の中に溜めていく。

 器の水は、すぐに温められてしまうので、頻繁に冷水と交換する。

 見ての通り、かなり開放的な蒸留方法で、しかも水滴を直接集めるので、混雑物がかなり多い。薪かまどの煙も、隙間からどうしても侵入してくるので、木灰の臭いが付く。度数も低い。

 しかも、蒸留を始めたばかりの頃は、美味しい焼酎にならない。そこで、冷却用の水を入れた器が、三回ほど熱湯になった後、水を冷水に入れ替えての四回目以降から、焼酎を回収し始めるのがコツである。

 出来上がった焼酎は、若干白く濁っているが、概ね透明だ。シコクビエの甘くて香ばしい香りがする。


 現在では、欧米製の小規模蒸留器を使う酒造所が増えている。こちらの方が、度数の高い透明な焼酎ができるためだ。

 専門用語になってしまうが、これは単式一回蒸留の手法である。ちなみに、コニャックは単式二回蒸留だ。アルマニャックは基本、連続一回蒸留である。


 こうして出来た焼酎や濁り酒は、ビール瓶や、中国製の保温ポット、プラスチックの十リットル入り容器等に入れて、注文者に引き渡される。

 居酒屋や民宿、レストランでは、小さな樽に詰めて、客の注文に応じてグラスや、ジョッキに注ぐという形式になる。

 瓶詰めして売る酒造所は少ない。かなりの設備投資が必要になるためだ。

 また、保存性も良くないので、樽等に入れて長期熟成させる酒造所も少ない。


 アンナプルナ地域では、ジョムソンへ向かう道の途中にある、タカリ族の町の一つツクチェに、リンゴのブランデー等を造る酒造所があるくらいだ。

 ここでは、瓶詰めして国内へ出荷している。ただ、リンゴのブランデーなので、風味がかなり強くて癖があるが。

 民宿の一角を利用している、簡易酒造所で作る酒は、もっぱら民宿内で消費されてしまいがちだ。流通しても、山村内に留まる場合が多い。

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