クシュ教授とゴパル助手
クシュ教授もチヤを飲み干して、小さくため息をついた。スポンジが少々ハミ出しているソファーが、ギシリと音を立てた。
「外は、こんなに雨が降っているんだけどねえ」
ゴパルも窓の外の景色を眺めた。また一段と強く雨が降ってきたようだ。雨音が強くなり、曇った窓ガラスが雨に洗われていく。
「ガネシュ連峰では、大雪になってますね、これは。雪と氷はあるんですけれどねえ……」
クシュ教授が、大きな黒い瞳をキラリと輝かせた。小さいが節くれだった指を鳴らす。パキンという音が、研究室に響いた。
「それだな!」
嫌な予感を、ひしひしと感じるゴパルである。ラメシュら三人の博士課程の学生も、同じ予感を感じたようだ。ゴパルと目を合わせて、眉間にしわを寄せた。
なんですか?
という問いや反応を待たずに、クシュ教授がドヤ顔になった。太鼓腹をさらに大きく膨らませる。再び、ソファーがギシリと軋んで音を立てた。
「最寄りの氷河に、小屋を設ければ良いのではないかね? 冷蔵庫や冷凍庫として使えるはずだ。そうだろ?」
嫌な予感が、見事に的中した事を喜ぶゴパルであった。ラメシュ達三人は、視線をクシュ教授とゴパルから逸らして、再び窓枠の雨漏りを調べ始めた。必然的に、クシュ教授の視線を一身に浴びる事になるゴパルである。
「……確かに、最も電気を消費するのは、冷房と冷凍装置です。これを氷河の氷水で代用できれば、安上がりになるとは思いますが……場所の問題がありま」
「うむ! では、早速調べなさい。ゴパル助手」
口をパクパクさせるゴパルであったが、それも数秒間だけだった。軽く肩を落として、スマホを取り出す。
「はい、教授」
クシュ教授が、ゴパルをさらに強い視線で見つめた。
凝視ともいえる。
「ついでに、ミニ水力発電機と、太陽光発電パネルについても調べておきなさい、ゴパル助手」
ゴパルがさらに沈んだ口調で答えた。
「はい、教授」