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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
とりあえず使ってみた編
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シャウリバザールでチヤ休憩

 バスパークは砂塵が舞い上がっているので、少し歩いた先にあるシャウリバザールの茶店でチヤ休憩をとる事になった。バザールという名前が付いているが、茶店が一軒あるだけである。ロバ隊が土道を下ってきたのを見送って、茶店の粗末な木製のベンチに座るゴパルだ。

「バスパークができる前にあった本家シャウリバザールから、ここへ移ってきたそうです。ここのチヤはちゃんと水牛乳を使っているので気に入っているんですよ、カルパナさん」

 カルパナがゴパルの隣に座って、茶店の奥にある赤土づくりのかまどを眺めた。ススで真っ黒になったヤカンが甘い湯気を立てている。

「それは楽しみです。アンナプルナ街道の茶店って脱脂粉乳を使う所が多いんですよね。元々のシャウリバザールにも、何度か行った事があります。プン族の方が多いですね」


 この茶店はかなり簡素な造りだ。森から切ってきたネパールハンノキを数本、枝を切り落として柱にしている。それに横木を渡して補強してから、上に穴が開いた中古のトタン屋根を被せているだけだ。いうまでもなく、掘っ建て小屋である。

 今は寒いので、細竹で編んだ垣根を小屋の周囲に巡らせてある。赤土のかまどの奥には薪の山があり、オヤジの衣服が干されてあった。


 その茶店のオヤジが、前歯の抜けた顔をほころばせながらチヤとビスケットを運んできた。ゴパルに軽く挨拶する。

「ABCの酒は美味かったな。今度はいつ仕込むんだい?」

 ゴパルがグラスに入っているチヤをすすりながら、満足そうに目を細めた。グラスは擦り傷だらけになっていて、曇りガラスのような見た目だ。

「つい最近仕込みまして、お米が尽きてしまいました。ですので、次の収穫まで待たないといけません」

 少し考えてから、ゴパルがオヤジに話しかけた。

「山米で仕込みたいとも考えていますので、伝手がありましたら教えてください」

 オヤジが快諾する。

「ウレリの山米は美味いぞ。ガンドルンの山米なんか食えたもんじゃないからな。知り合いの農家に頼んでおくよ」

 ゴパルが感謝して、チヤをすすった。

「ありがとうございます。うーん、ここのチヤはなぜか美味しいな」


 カルパナもチヤをすすりながら穏やかな笑みで同意した。上昇気流が吹き上がり始めて、腰まで伸びてる彼女の黒髪がフワフワ浮き上がっている。

「そうですね。沢水のおかげもあるのでしょうけれど、何よりも水牛乳の質が良いですね」

 オヤジが満足そうに笑った。

「分かってるね。さすがはバッタライ家のカルパナさんだな」

 当然のようにカルパナを知っている口調である。改めて世間は狭いなあと感じるゴパルだ。そのオヤジがニコニコしながらゴパルの肩を小突いた。

「で、今日はこの美人さんとデートなのかい?」

 またか、と苦笑するゴパルとカルパナだ。ゴパルが説明を始めた。

「今回は、ポカラのホテル協会長のラビンさんの依頼です。ガンドルンに咲いているラリグラスの花を写真に撮る事になったんですよ。私が撮影して、そのデータをカルパナさんに渡すという段取りです」


 ポカラのホテル協会のポータルサイトでは、季節の写真や動画を載せている。それに使うという話だ。本来はプロのカメラマンに依頼するのだが、今回は手配できなかったらしい。それで、ガンドルンに近い場所に居るゴパルに白羽の矢が立ったという次第であった。

 ただ、ポカラまで下りてもらうのはさすがに申し訳ないという事で、カルパナがガンドルンまで出かけて、撮影データをゴパルから受け取る事になっている。


 そのような話を聞いたオヤジだったが、ガンドルンと聞いて微妙な表情になった。

「ラリグラスの撮影なら、ガンドルンなんかよりもゴレパニの方が見事だぞ。ラビン協会長、分かってないらー」

 とことんガンドルンをけなすオヤジである。


 そういえば、ポカラのホテル協会のポータルサイトにある観光案内では、ラリグラスの名所としてゴレパニの名前が挙がっていたっけ……と思い起こすゴパルだ。

「すいません、今回は私が撮影する事になりまして。ABCで低温蔵の仕事がありますので、なかなか遠くまで行けないんですよ」

 オヤジが、ぐぬぬと呻いた。

「酒の仕込みに支障が出るのか……むむむ。おのれラビン」

 協会長の悪口になりそうなので、ゴパルが話題を変えた。

「それはそうと、ここってかなり冷えますよね。竹マットの垣根を張っていますが、これだけでは隙間風が厳しいのではありませんか?」 

 オヤジがさらに呻いた。

「さすがに年を食うと寒さが身に堪えるらー。移転するつもりだよ」


 彼によると、ゴパルが以前に提案した場所を検討してみたらしい。当のゴパル本人はすっかり忘れているようで、背中を丸めてチヤをすすってごまかしているが。結論として、小型四駆便がガンドルンバスパークへ向かって谷から上っていく、その入り口付近に移転する事に決めたらしい。

 ちょうど、ゴパルがジヌー経由で川沿いに下って、車道に出る辺りであった。


 ゴパルがポンと膝を打った。

「あっ、あそこですか。地元の人がよくバス待ちしていますよね。茶店ができると便利だと思いますよ」

 茶店のオヤジがニッコリと笑った。

「おう。だから決めた。地名もないから、ワシが決めた。シャウリバザールだ」

 どれだけシャウリバザールという地名が増えるんだ……と内心でツッコミを入れたゴパルだ。しかし、表面上は穏やかな笑みで同意する。

「新装開店を楽しみにしていますね」


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